昨年東京、仙台、熊本の3会場で行われ大好評を博した「親子で学ぶサイエンスサッカースクール」。今年もJリーグのフェアプレーパートナー東京エレクトロン株式会社の主催で、5月19日仙台市のクローバーフットサルクラブワッセ仙台にて開催されました。今年のテーマは「弾丸シュート」。元Jリーガーの華麗な技を見ながら、科学の視点から弾丸シュートを打つコツを親子で学べる有意義な大会となりました。
 
今年もたくさんの親子の皆さんが参加しました
 
 
■下半身を強く鍛えて、足を速く振り抜くことで強いシュートが打てる。
 昨年大好評のこのイベントには宮城県を中心に東北各県より50組100名の親子が集まりました。昨年同様アメリカザリガニ柳原哲也さんの軽妙な司会の下、NPO法人ガリレオ工房稲田大祐先生と、ゲストとして元ベガルタ仙台MF岩本輝雄さん、ベガルタ仙台アンバサダーの平瀬智行さん、ガンバ大阪、ヴィッセル神戸などでプレーした宮本恒靖さんといった輝かしい実績を持ったJリーガーが集結し、にぎやかに開催されました。
 
左から司会のアメリカザリガニ柳原哲也さん、講師のNPO法人ガリレオ工房稲田大祐先生、ゲストの岩本輝雄さん、宮本恒靖さん、平瀬智行さん
 
 今年のテーマは「弾丸シュートを打とう!」そしてこのテーマには「慣性モーメント」という物理学の原理が大きく関わっていることが発表されました。「慣性モーメント」についての説明の前にまずは元Jリーガー3名の弾丸シュートが披露され、参加者の皆さんは強烈なシュートに驚いていました。
 
 ここで稲田先生からサッカーボールを使った振り子の機械が紹介されました。足の絵が貼られたボールでもう一つのボールを弾いてみると、最初のボールではもう一つのボールの弾かれ方が弱く、ゴールまで届きませんでした。ところが足の絵が貼られたボールを別のボールに変えると、もう一つのボールは勢い良く弾かれて、GKの人形をはじき飛ばしてしまいました。
 
振り子の実験で強いシュートを打つコツを説明する稲田先生
 
 取り替えた足の絵のボールの中身を割って見ると、なんと鉛が入ってとても重く硬くなっていました。この重さ・硬さが非常に重要なのです。元Jリーガーの皆さんの足は筋トレでしっかり鍛え上げられており、子ども達は実際に触って「硬い〜!」とビックリしていました。まずは筋トレでしっかり下半身を鍛えることが大事だったのです。また、最初の軽いボールでも振り下ろす位置を高くして、振るスピードを速くするともう一つのボールが強く弾かれるので、足を振り抜くスピードも重要であることが分かりました。
 
GKの人形を倒した方のボールには鉛が入っていました
 
 柳原さんから「岩本さんはベガルタ仙台で活躍されていた2003年、ユアテックスタジアム(当時仙台スタジアム)で40mの弾丸フリーキックを決めましたよね」と話を振られた岩本さんは「少し前にケガをしていて、その間ウェイトトレーニングをメチャクチャやったら、足が鉛のようになって、強いボールが蹴れるようになりました」と、古くからのベガルタ仙台サポーターなら誰もが思い出すあのスーパーフリーキックの秘話を語り、この話には親御さんも熱心に耳を傾けていました。
 
岩本輝雄さんの足を実際に触って筋肉の硬さに驚く子ども達
 
 ですが、過剰な下半身の筋肉トレーニングは成長期の小学生にとって弊害が大きく、もっと成長した後で強い下半身を作ることが重要であるため、小学生のトレーニングとしては現実的ではありません。そこで冒頭の「慣性モーメント」が大きく関わってくるのです。
 
■腕を大きく広げれば、足を思い切り振り抜き弾丸シュートが打てる!
 ここでしばらく姿を見せなかった平瀬智行さんが、「のり巻き」のようなスポンジを上半身に巻かれて登場しました。今度は、のり巻きを巻いた状態と巻かない状態で平瀬さんにシュートを打ってもらい、シュートの速度がどれだけ違うかをスピードガンで測定する実験を行いました。まずはのり巻きを巻いた状態でシュートを打つと速度は72km/h。続いてのり巻きなしで上半身を自由にしてシュートを打つと速度は96km/hとなりました。
 
 この実験で説明したかったのは、回転するもの、例えば回っているコマが回り続けようとしたり、止まっているコマが止まり続けようとしたりすることを「慣性モーメント」と言いますが、この原理が弾丸シュートを打つ時に重要になるということです。
 
のり巻き?に巻かれた平瀬智行さんがシュートを放ちます
 
 平瀬さんがのり巻きをしていて腕が縮こまった状態では、上半身は半径の小さいコマのような感じになり回りやすくなります。この状態だと下半身にある足は回りづらくなり、思い切り振り抜くことができず、強いシュートを打つことができません。
 
 一方、平瀬さんはのり巻きなしでシュートを打った際、腕をしっかりと広げてシュートを打っていました。腕をしっかり広げると、上半身は半径の大きいコマのようになり、「なかなか回らない」状態となります。こうなると上半身が安定し、下半身にある足は思い切り振り抜けるようになって、弾丸シュートが打てるようになります。
 
 「シュートを打つ時は腕を開いて上半身を安定させることが大事」ということを経験則から学んだ方も多いかもしれませんが、この経験則は科学的な視点「慣性モーメント」という視点からも正しいことだったのです。なお、右足で蹴る時には上半身を時計回りにひねると、左足で蹴る時には上半身を反時計回りにひねると、よりシュートの威力が増すという説明も稲田先生から補足されました。
 
回転する台に乗って、手を開いたり閉じたりして下半身がどの程度回転しやすくなるかを実験中の宮本恒靖さん
 
 
■「慣性モーメント」を「ねじれコプター」で体感!
 最後にこの「慣性モーメント」を理解してもらうため、参加者全員で「ねじれコプター」を作りました。ねじれコプターは羽が上下2つずつ付いています。ねじれコプターは人間の体をちょうど逆さまにしたものと考えると、下の羽(上半身)をしっかり固定し、ゴムの付いた上の羽(下半身)をたくさんねじった後手を離すと、上の羽が勢いよく回り出し、ねじれコプターを上に高く飛ばすことができます。
 
ねじれコプターの説明をする稲田先生
 
 このねじれコプターを親子で協力して作成し、最後にみんなで飛ばしました。ほとんどの参加者の親子がねじれコプターを高く飛ばすことができ、「慣性モーメント」の原理をしっかり学んで科学実験プログラムは終了となりました。
 
 なお、参加者の皆さんは科学実験プログラムの後サッカー教室を行い、その後ベガルタ仙台-名古屋グランパス戦を観戦。この試合のベガルタ仙台の1得点目、梁勇基選手のシュートは上半身をしっかり開いて、筋肉の付いた足を素速く振り抜いた見事なシュートで、このサイエンススクールで取り上げたことを全て実践したお手本のような弾丸シュートでした。参加者の皆さんは上半身を安定させることの大切さをスクールと試合観戦を通じて学べた一日になりました。
 
親子で仲良くねじれコプターを作りました
 
 科学実験プログラムを監修した講師の稲田先生は昨年のサイエンスサッカースクールの体験を踏まえ、「いろんな科学で解き明かせるものはありますが、よりインパクトのあるものをと思い、テーマに弾丸シュートを選びました」と今回のプログラムについて説明。参加者の保護者の皆さんからは「何となく分かっていたことを分かりやすく説明してもらえてとても勉強になりました。体も動かせて楽しかったです」「親子でやるプログラムが多くて楽しかったですし、良い汗もかけました」という声が聞けました。また、子ども達も「理科もサッカーも好きなので、どっちも勉強になりました」と楽しく弾丸シュートの原理を学べたようです。
 
みんなでねじれコプターを高く飛ばしました
 
 今年は6月30日に川崎、8月26日に甲府、10月に熊本での開催が予定されており、全て今回と同様に弾丸シュートのプログラムで行われます。ゲストのJリーガー宮本さんは「トラップも大事なので動きながらどう止めるかなどサイエンス的にできると良いのでは」、平瀬さんも「来年はぜひトラップをやって欲しいですね」と今度はトラップを科学してほしいという要望がありました。今後のサイエンスサッカースクールの展開もとても楽しみですね。
 
取材・文・写真/小林健志