日本で「マリーシア」というと、ついずるい行為や反則スレスレのプレーがイメージされがちですが、実際にはそういう行為は「マランダラージ」と呼ばれるものであって、本来の意味ではありません。では本来言われるところのマリーシアとはどういうものなのか。そこにアプローチしたのが、下田哲朗さん著・マリーニョさんが監修された「サッカー王国ブラジル流正しいマリーシア 世界で通用するメソッド63」(東邦出版)です。

ブラジルのほとんどの地域では、マリーシアは男女関係の駆け引きの時に使われているだけで、サッカー用語で「マリーシア」を使っているのは南部の一部の地域だけなのだそうです。そこで言われる本来のマリーシアとはずる賢いとは少し違うニュアンスで語られていて、「豊富な経験から得た知恵」、つまりマリーシアが足りないということは、「経験が足りない」というようなニュアンスになるわけです。

本書はそのブラジルでいうところのマリーシアについて、「マリーシアとは?」「テクニック編」「戦術編」「監督&レフェリー編」「マスコミ編」の5章を設け、キーワードを元に分かりやすく解説し、まとめた63のメソッドを紹介しています。そのうち個人的に印象的だったいくつかのメソッドを、簡単にではありますが紹介していきたいと思います。


【マリーシアとは?】
・「今なお語り継がれる『マラカナンの悲劇』」
→ブラジルでは自分自身でサッカーをするだけでなく、自分が直接経験していないことでも、先人の言葉を糧とすることでその経験値を上げている。


【テクニック編】
・「メッシのドリブルを止めたBOI DE PIRANHA」
・「メッシにドリブル突破をさせなかったNAO DAR O BOTE」
 BOI DE PIRANHA・・・一人がオトリとなって、二人目でボールを奪う
 NAO DAR O BOTE・・・無理に足を出してボールを奪おうとしない。
→相手選手のドリブルの特徴を分析して、試合の状況にあった守備方法で対応する。

・「スライディングタックルは不要」
→スライディングタックルに頼らず、先を読んで守ることによって優れたDFに成長する

・「ブラジルのW杯優勝キャプテンとドイツのW杯優勝キャプテンはキックの基本が真逆」
→優れた選手はどんなキックが最適かを距離別に熟知している

・「コースと強さを兼備したホールインワンのパス精度」
→パス精度は「距離」「スピード」「精度」にこだわった状態で、行われている。また相手の妨害を入れ試合に近い状況で練習する。

・「カルテイロ」と「バルバンチーニョ」
 カルテイロ・・・ドリブルで相手を引き連れながら、近くの味方にパスしてしまう選手
 バルバンチーニョ・・・長時間ドリブルばかりしてパスをしない選手
→ドリブルがうまくても使い方が間違っていると非難される。またそれをうまく活用したり、逆手に取って好プレーに繋げている選手もいる。

・「ペレとロナウジーニョはミスパスの多い選手」
→ペンルティエリア内へのチャレンジしたパスは相手選手に取られてもOK。逆に怖がってミスパスしないのはミスとして非難される。

・「トリアングル(三角形)でパスをしろ」
→ボールを左右に動かし、選手は縦に走り込んでパスを受けることによって、攻撃に厚みを持たせている。

・「カカの前に立つな」
→ドリブルを得意としている選手が多いブラジルは、実は周囲の選手がドリブルをしている選手の特徴を生かす動きをしている。

・「シュートの基本は『ボールを枠に飛ばす』こと」
→理屈でなく自分でいろいろな蹴り方を試して、一番枠に飛びやすい自分に合ったフォームを身につける。

・「クロスを上げる際に意識すべきなのは、ゴール前にいる選手の特徴を生かすクロス」
→クロスを上げる人がゴール前の選手の特徴を生かしたり、有利な状況にもっていけるような球質・コースのボールを蹴る


【戦術編】
・「ルシェンブルゴが考える理想の守備」
→ポジションにこだわるのではなく、相手に利用されるスペースを潰すことを大切にしている

・「スペースを作り続けるサッカー」
→攻撃では試合で有効活用できるスペースを作り続け、なおかつそこを利用し続ける。

・「日本もブラジルもパターン練習をよく行う」
→ブラジルでは具体的に試合で生かせるようなシンプルなパターンをいくつか作り、その型を状況に応じて臨機応変に使い分けている

・「ポップコーン野郎(当たりにすぐ吹っ飛んでしまう選手)」
→そんな弱点も武器に変えてしまう選手がいる

・「棺桶を閉めろ」
→2点リードされた相手チームを死人にたとえ、そこで守備的になるのではなく、3点目を取って息の根を止めてしまえという意味。

・「体力と集中のペース配分」
→最後まで体力と集中力が途切れないように、走るべきところサボるべきところを使い分ける

「相手の力を出し切れないようにする方法、それを逆手にとる方法」
→何かを作り上げるのは難しいが壊すのは簡単。相手の長所を消す方が手っ取り早いことが多い。逆に長所を消そうとしてきた相手の裏をかくことも有効


【監督&レフェリー編】
・「個か組織か」
→監督は何でも型にはめようとするのではなく、選手構成などのチーム事情を考慮しながら、常識にとらわれない柔軟な発想を持つべき

・「監督と選手の試合中の会話」
→選手も監督の指示を待つのではなく、自分たちで戦術を変更すべき。

・「監督は選手全員が理解出来るまで説明する義務がある」
→良い監督は選手が発言できる雰囲気作りをしている

・「レフェリーのクセを見抜く」
→微妙なジャッジで勝敗が分かることもある。レフェリーがどんな人物で、どんなクセがあるのかを見抜き、プレーすべき。

・「ルールしか知らないレフェリー」
→サッカー経験のないレフェリーに共通しているのは「選手よりも目立つ」こと。あまりプレーをしたことのない人は実戦に即した判断ができず、トラブルになることも多い。ブラジルの審判はほとんどがサッカー経験者。

【マスコミ編】
・「マスコミは指導者」
→マスコミは「我々がブラジルサッカーを支えている」という誇りを持って仕事をしている

・「敗因は『靴下を直していたから』」
→ブラジルではミスもちゃんと検証し、ミスを今後に生かす材料としている。

・「結論が永遠に出ない2つの課題」
→1つの事実に対していろいろな意見が出てくる環境がある。

・「相手チームのメンバー情報の価値」
→マスコミがサポーターに相手の情報を提供して、サポーターも考える環境がある。

・「新聞は試合の内容を詳細まで伝える」
→そのまま鵜呑みにはされないが、ブラジルでは専門家が試合を評価し、試合を観ることができなくてもチームの状況が分かるようになっている。


ここまでざっくりと紹介しましたが、本書はメソッドごとに具体例を上げて分かりやすく説明したシンプルな構成で、中高生でも十分に読める内容です。実際に本書を読んでみることで、ブログに書いた事の意味がもっとよく分かります。こういうことを意識して経験を積み重ねていくことが、選手の成長を促す上で大きな助けになるでしょうし、サッカーについてもっと考えてみたい人はもちろん、育成年代の選手や指導者の方々に是非手にとって読んでもらいたい、おそらく作り手側もそう思って作っていると感じた、オススメの一冊です。


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