井筒和幸監督の最新映画「パッチギ!LOVE&PEACE」が2007年5月19日に公開されたが、その中にこんなセリフが出てくる。「芸能界ってなぜ『在日』を隠すの?」。主演する中村ゆりさんのセリフだが、実は中村さん自身も在日だと告白し話題になった。確かに「在日は隠す」風潮がずっとあったのだが、最近「カミングアウト」する芸能人が相次ぎ、ちょっとした異変が起きている。

「芸能界ってなぜ『在日』を隠すの?」

   在日であることをカミングアウトした芸能人を並べると、和田アキ子さんが「週刊文春」の2005年8月18日号の特集「実録 和田アキ子『血と骨』のブルース」で、本名は金福子(通名・金海福子)などと告白。元プロレスラーの前田日明さんが05年11月23日のテレビ朝日系『ワイド!スクランブル』のコーナー「在日コリアンの叫び」に登場。南果歩さんは07年1月11日のNHK「スタジオパークからこんにちは」で在日であることを語った。

   また、ギタリストの布袋寅泰さんは、06年2月10日発売の自著「秘密」で、父親が韓国人だったと書き、1年の4分の3は帰ってこない父を「貿易商」と信じていたが、実は韓国にもう1つの家庭を持っていたと打ち明けている。さらに、事実かどうかは定かではないが、最近では、韓国情報サイト「innolife.net」が井川遥さんについて「『チョ・スヘ』という韓国名を持った在日韓国人3世であると明かした」と報じた。

   「パッチギ!」に主演の中村さんは、朝日新聞の07年5月20日付けの「ひと」のコーナーに登場。父親が在日3世で母親が韓国生まれだとし、「出身を隠すつもりはないけど、わざわざ『在日です』と主張することもない」と「中村」名で芸能活動を続けてきたという。そして、「パッチギ!」で在日(女優)を演じ、ストーリー上で「芸能界ってなぜ『在日』を隠すの?」というセリフの後に、自分が在日であることをカミングアウトする。

   中村さんは、主役の女性「キョンジャ」の言葉一つ一つに実感が伴い「ほとんど迷わず芝居ができた」と朝日新聞に話している。映画のストーリーと、朝日新聞への「告白」とオーバーラップする感じだが、「パッチギ!」を制作・配給したシネカノンの宣伝部によると、

「本人はもともと隠すつもりはなく、質問されたから在日だと自然に答えただけ。彼女の所属事務所も了承しています」

J-CASTニュースの取材に答えた。ただ、中村さんが所属するエイベックス・エンタテインメントに取材したところ、同社広報は、

「国籍など、コメントすることは何もない!」

と声を荒げた。やはり難しい問題のような感じだ。

「在日」と告白しても、何も変わらない

   一方、南果歩さんの所属事務所ユマニテは、J-CASTニュースの取材に応じ、やはりこれまで「在日」であることを告白しにくい雰囲気が芸能界全体にあった、と話した。そして、近年、カミングアウトする芸能人が増えていることについて、

「事務所の考え方はそれぞれで、業界に特別何かがあったというわけではないですが、そんな時代になってきた、ということではないかと思います」

と話した。南さんの「在日」告白についてはこう答えた。

「果歩は周囲の人間にはあたりまえのように話していましたし、『告白』というのではなく、これまで(在日ですか?と)質問されることが無かった、というだけなんですよ」

   南さんは雑誌のエッセイでも「在日」について書いているようで、「在日」だと広く知られるようになった後については、

「何か状況が変わったか、というと、本当に何も変わっていないんですよ」

ということだそうだ。