1月31日の奈良公園。「台湾や香港、シンガポールからの人が多い」(ガイド)

 新型肺炎の恐怖は、日本各地に閑古鳥を鳴かせている。東大寺などの世界遺産が多くある、奈良市の「奈良公園」も同じだ。

 春節のこの時期、例年ならば中国人観光客で混雑しているが、今年はそうはいかない。中国政府は1月27日に、国外への団体旅行を禁止。その影響を大きく受けていた。奈良公園名物の「鹿せんべい」を売る女性に話を聞いた。

「日に日に、中国からのお客さんが減っています。せんべいの売り上げもどんどん落ちて、団体旅行が禁止される前と比べて、半分以下になりました」

 鹿たちも飢えている。「様子がいつもと違う」という。

「鹿たちはいつも、人懐っこく “お辞儀” をするように、首を振りながら、人に近寄って、せんべいをねだるんやけど……。いまは、おなかが減って余裕がないのか、突進するくらいの勢いで人に寄っていくんですよ」(同前)

史跡の各所に、新型コロナウイルスに関する掲示が

 公園には、「新型肺炎が問題化したあとに個人旅行でやってきた」という、中国人観光客が複数いた。北京から家族3人で来た30代男性は、こう話す。

「春節休みに娘の誕生日を祝うため、中国国内を旅行するつもりでした。でも、国内の移動が制限されたので、やめました。娘は日本の文化が大好きだし、急遽日本に来ることにしたんです。日本に向かう飛行機は、すいてましたが」

 また、上海在住の30代女性は、武漢市内に残った友人から聞いた話をしてくれた。

「少し前までその友人は、『買い物以外は、ずっと家にいるしかない』と話していました。ですが、1月29日には、店も開いて、食料品も買えるようになったそうです。政府が事態をコントロールできるようになったみたい。

 でもまだ、病院はいっぱい。『友人の父が体調を崩して病院に行ったら、受診を希望する人でごった返していて、諦めた』と。『とにかく、医療機関をなんとかしてほしい』と話していました」

 2002年から2003年の「SARS(重症急性呼吸器症候群)」流行時に、後手後手の対応が世界から批判された中国政府。民主化デモが続く香港の人々も、中国政府への警戒感を強めている。

「SARSのときは、香港を中心に8000人以上が感染しました。当時、『中国政府の情報隠蔽が事態を悪化させた』と多くの香港市民は思っていて、今回も激しい不信感をあらわにする人が多い」(香港に駐在する日本人ビジネスマン)

 内科医で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏は、「今回の中国政府の対応は、従来と異なる」と指摘する。

「決定的に違うのは、情報公開のスピードが早いこと。中国疾病対策予防センターが、12月中旬の時点で、新型コロナウイルスが『ヒト―ヒト』間で感染することを認め、『肺炎の蔓延は政府の問題』とした論文を、アメリカの医学誌にも出しているんです」

 日本国内では、すでに3次感染の可能性が浮上。国外からのウイルス封じ込めに、限界が見え始めている。

「日本政府は、『国内にウイルスが入っていない』という前提で、“水際” で食い止めようと対策を取っていますが、もう遅い。治療法がない現状では、感染者を早期に見つけられる検査体制を整えたうえで、感染者への対症療法を取るほかありません」(上氏)

 日本社会が隠していた亀裂が次々に露呈している――。

(週刊FLASH 2020年2月18日号)