女優の芦田愛菜さんが11月9日、「天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典」で祝辞を述べました。100年ものというアンティークな振り袖を身にまとい、

「陛下は松尾芭蕉の『奥の細道』をお読みになったことがきっかけで『水』にご関心を持たれ、長きにわたってご研究をなさっているとお聞きしました。(中略)私も大好きな読書を通じ、知識を得ること、そして、その知識を踏まえて行動に移す、そのことが大切であるのではないかと考えるようになりました」

 などと、読書家としての一面ものぞかせながら、陛下への尊敬の念と令和日本の繁栄への願いを語ったその姿は見事なもの。とても、まだ15歳の中学生とは思えないと絶賛されました。

5歳のとき、連ドラ「Mother」で注目

 とはいえ、そのキャリアは既に堂々たるものです。2010年、彼女が5歳のとき、連続ドラマ「Mother」(日本テレビ系)で注目され、同時期に公開された映画「告白」では、松たか子さん扮(ふん)するヒロインの娘で、少年に殺されてしまう幼女を演じました。

 翌年には連続ドラマ「マルモのおきて」(フジテレビ系)が大ヒットし、その主題歌を鈴木福さんと歌って「NHK紅白歌合戦」に出場。バラエティー番組「メレンゲの気持ち」(日本テレビ系)で司会もこなしました。

 その後も順調に活躍を続け、2018年、中学2年生のときにNHK連続テレビ小説「まんぷく」のナレーションを担当。私生活では偏差値70超えの難関中学に通い、勉学と仕事を両立させています。

 これは、かつて芸能界でよく言われた「子役は大成しない」というジンクスを完全に覆すものです。心身共に未完成な時期にブレークした子役は、成長による変化にうまく対応できず、ことわざにいう「二十歳過ぎればただの人」になりがちなのですが、彼女にはその気配がありません。

 もっとも、あまりによくでき過ぎた人はかえって共感を持たれにくく、時にはマイナス面も必要だったりします。例えば、フィギュアスケートの天才少女として世に出た浅田真央さんの場合、大舞台での悲劇的な失敗がより高い共感を集めました。

 その点、芦田さんは下手をすると、「鼻につく」などと言われる恐れもあるわけですが、そういう声が聞こえてこないのはなぜなのか。その理由が、あの祝辞披露の直後に放送された「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」(テレビ朝日系)の中で垣間見えました。

 この番組は、サンドのお二人と芦田さんが、何かに詳しい子どもたちを紹介するもの。オフィシャルサイトには「詳しすぎて手に負えない情報は愛菜ちゃんが分かりやすく解説!」とあり、この回でも「カルデラ湖」について解説したりしていました。が、子どもの「博士ちゃん」からもっとマニアックな単語が飛び出すと、

「コロイド溶液? 私も知らないです。うふふふっ」

 あっさり認め、興味深そうに話を聞いていました。そう、彼女は知ったかぶりをしません。それはすなわち、偉ぶらないという品格の高さにつながっています。それゆえ、弱点を見せることも厭(いと)いません。運動音痴で球技や水泳が苦手なため、イベントでは、

「補習授業にも呼ばれているんです。25メートル完泳するまで、行かないとダメなんです」

 と、告白しました。

 また、優等生のイメージなのに、シャレがちゃんと通じるところも見せています。「Y!mobile」のCMでは「実は60歳」説を逆手に取り、コミカルな対応で笑いにしました。

“座右の銘”は王貞治さんの言葉

 そんな彼女が座右の銘の一つにしているのが、今年5月に放送された「1億人の大質問!? 笑ってコラえて!」(日本テレビ系)で紹介されたこの言葉です。

「努力は必ず報われる もし報われない努力があるのならば それはまだ努力と呼べない」

 王貞治さんの言葉で、彼女は10歳のときに知ったそうです。確かに、こういう言葉を好きになる人は一定数いるでしょうが、ほどよく実践できる人はごく少数なのでは。できなくて諦めるか、無理にやり過ぎてしまう人が大半だと思われます。

 しかし、彼女の公私にわたる成果からは、かなりうまく取り入れていることがうかがえます。これは、彼女が何より自分自身のバランスを大事に考える真の聡明(そうめい)さを備えているからでしょう。

 ちなみに、王さんは最初に国民栄誉賞を受賞した人。というより、彼が通算本塁打の世界記録を作った際、その偉業を表彰するために当時の政府が創設したのがこの賞です。

 その定義は「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えること」というもので、女性では美空ひばりさんが初の受賞者となりました。

 幼い頃から、時代に寄り添うように活躍した人ですが、芦田さんのデビューは美空さんよりもさらに早く、また、国民的と形容される行事にも既に何度も関わっています。特に、今回の祝辞披露は節目節目に末永く思い起こされることでしょう。

 なお、芦田さんは医師になりたいとも言っています。「漫画の神様」こと手塚治虫さんも医師免許を持っていましたが、彼女なら女優と医師の二足のわらじを履くこともありえそうです。

 とまあ、歴史上の偉人と並べて語っても違和感のない15歳。私たちは今、ちょっとした“奇跡”を目の当たりにしているのかもしれません。