農水省は13日、埼玉県秩父市の養豚場で、同県で初の豚コレラが発生したと発表した。関東での豚コレラ確認は、野生のイノシシも含め、初めて。養豚場では全国で41例目、発生は5県に広がった。同省は農場へのウイルス侵入経路を調べている。発生した養豚場からは山梨県笛吹市のと畜場に豚が出荷され、感染が確認された。山梨県は農場や野生のイノシシで陽性は出ていない。

 新たな県での発生は、7月29日の福井県以来となる。発生県と隣接しない県での発生は、昨年9月に岐阜市で確認して以降、初めてのケースだ。また、これまでの発生農場の多くは陽性の野生イノシシから10キロ以内の監視対象農場だが、秩父市の養豚場は監視対象になっていなかった。

 日本養豚協会の香川雅彦会長は「現時点ではイノシシが原因とは考えにくい状況の発生で、もうどこに(感染農場が)出てくるか分からない。豚への接種が追跡可能なマーカーワクチンを含め、早急に農家や流通業者、行政が一丸となって対策に取り組まなければならない」と危機感をあらわにした。

 山梨県のと畜場では、埼玉県秩父市の養豚場から11日に搬入された37頭のうち、豚4頭が12日に異常を示した。同日、県の検査で陽性と判定し、と畜場で採取した材料を国の農研機構動物衛生研究部門に送付した。同部門で遺伝子解析した結果、13日に豚コレラの患畜と確定した。

 埼玉県秩父市の養豚場は12日から県が立ち入って検査した結果、13日に豚コレラの陽性を確認。疑似患畜として判定された。同農場の678頭を殺処分する。

 同省は疫学調査チームを現地に派遣して侵入経路の特定を目指す。

 山梨県が13日、対策本部を設置したことを受けて、JAグループ山梨も対策本部を設置した。

高まる緊迫感


 関東地方にまで感染が拡大したことを受け、養豚関係者の間に不安が広がっている。

 日本養豚協会の松村昌雄会長代行は感染が拡大したことについて「恐れていたことが起きた」と話す。「感染ルートが野生イノシシによるものか人的なものか分からないが、人的な感染となれば、さらに拡大の恐れもある」と懸念する。

 自身も埼玉県加須市で長年養豚業を営んでいる松村会長代行は「一度発生となれば、自分の財産を失うことになる。東海地方を中心に発生が相次ぐ中で、近隣で発生しながら守り抜いている農場もある。自分の財産を守り抜くよう、県内の養豚農家にも防疫対策の徹底を促していく」と警戒を呼び掛ける。

 山梨県都留市で親豚70頭、子豚900頭を飼育する森嶋光男さん(62)は、県内に感染豚を持ち込まれたことを受け、「遅かれ早かれ近くで豚コレラが確認されると恐れていた」と打ち明ける。

 国に対しては「豚コレラ対策として、ワクチンを打たせてほしい」と強調する。

 森嶋さん自身は網を張らず、消石灰をまくなどの対策にとどめているという。「400万円かけて網を張っても、知り合いの養豚農家の豚は豚コレラに感染した。張っても意味がないと思う」とする。

 44年間、肉質向上を目指し、自家交配をするなど努力を続けてきたが、「このまま何もしなければ、日本の養豚業は壊滅する」と危機感を訴える。