鹿の捕獲量が5年で17倍に増えた熊本県水俣市。被害にあえぐ農家を助けようと、県立水俣高校の機械科生徒が捕獲用の箱わな作りに立ち上がった。作り方は佐賀県内の猟師に学び、授業で学んだ溶接技術を応用する。完成品は無料で農家に提供する。生徒の思いに共感した地元猟友会は材料費の補助や、生徒らが狩猟免許を取得する費用を援助する考え。地域を挙げた捕獲作戦が動きだした。(木原涼子)

猟友会が支援材料費補助へ


 箱わなに使う金属を溶接し、部品をかなづちで打って曲げていく生徒。寸法を間違えれば全てやり直し。同科なら誰もが習得する溶接技術だが、丁寧な作業が求められる。作業開始から4時間以上かけてやっと1基が完成。生徒らは、年内に16基作る予定だ。

 鳥獣害の防止柵に使うワイヤメッシュを組み合わせ、扉には鉄板を使った。入り口の高さ約90センチ、幅90センチ、奥行き約2メートルと市販品より大きめで、イノシシも鹿も捕獲できる。余計な鉄骨を外し、一般的な箱わなより20キロ以上軽くした。箱の側面は高さ20センチほどまでは網目を細かくし、イノシシの子どもや小動物が逃げられないよう工夫した。

 作り方は佐賀県嬉野市で箱わなを生産販売する「太田製作所」の代表・太田政信さん(30)から学んだ。その特徴は「たわむようなしなやかさ」と太田さん。現役猟師ならではの視線で開発した“逸品”だ。

 熊本県猟友会によると通常の箱わなは1基当たり5万〜10万円。複数を設置するには農家負担が大きい。今回は手作りのため、材料費は1基1万5000円ほどで済んだ。3年生の男子生徒6人と若手教師2人が作り上げる。久村峻太郎さん(17)は「地元にイノシシや鹿が多いことを知らなかった。力になりたい」と意気込む。

 水俣市によると人通りが少ない農地で鳥獣被害が目立つ。特に鹿の捕獲数は2018年、187頭に達した。14年の17倍だ。イノシシも毎年300頭前後の捕獲が続いている。猟友会も高齢化し、銃猟より、わな猟の要望が高まっている。

 箱わな作りは、地元で鳥獣害の被害が増えている実態を知り、課題研究の授業の一環で始めた。完成品は農家に提供し、畑に設置する。捕獲した動物は地元猟友会の力を借りて解体して食べるまでを学ぶ。

 生徒のやる気に地元猟友会も協力。完成したわなの設置や、捕獲獣の解体方法を教える。一連の学びをきっかけに狩猟免許取得を希望する教師や生徒の支援もする。材料費も学校に支払う考えだ。生徒の技術力の高さに驚く県猟友会の高橋重徳副会長は「箱わな作りをきっかけに若い子が農業への関心を高め、命について考える機会にもなる」と期待する。