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カタツムリは巻き貝の一種で、ほとんどの個体が背負っている貝は右巻きですが、1万匹に1匹の割合で貝が左巻きのカタツムリが存在していることが知られています。貝の向きだけではなく内臓も含めて反転したカタツムリがなぜ存在するのかについて、日本人の生物物理学者である黒田玲子氏率いる研究チームが、遺伝子編集技術であるCRISPRによって「カタツムリを左巻きに変異させることに成功した」と報告しています。

The development of CRISPR for a mollusc establishes the formin Lsdia1 as the long-sought gene for snail dextral/sinistral coiling | Development

http://dev.biologists.org/content/146/9/dev175976

左巻きのカタツムリで最も有名なのは、イギリスで堆肥から発見されたカタツムリ「ジェレミー」で、かつてはSNSを通じてお見合い相手を募集されたことでも話題になりました。お見合い相手は見つかったそうですが、その直後の2017年にジェレミーは亡くなったそうです。





黒田氏率いる研究チームは、ヨーロッパモノアラガイ(Lymnaea stagnalis)の貝の巻き方向について、「Lsdia1」と呼ばれる遺伝子が決定すると論じていました。また、ほぼ同時期にノッティンガム大学のAngus Davison生物学教授率いる研究チームも、黒田氏とは別にLsdia1の関与を指摘していたとのこと。

黒田氏率いる研究チームは、「Lsdia1が失われても、ほぼ同一の遺伝子である『Lsdia2』が代わりを務めることで、本来右巻きになる貝が左巻きになるのではないか」という仮説に基づき、遺伝子編集技術であるCRISPRによって、Lsdia1遺伝子を削除したヨーロッパモノアラガイの胚を用意しました。すると、胚が細胞分裂を繰り返して8細胞期を迎えると、本来とは左右逆の方向に分化が始まったとのこと。



結果、Lsdia1の代わりにLsdia2が発現したヨーロッパモノアラガイ、そしてその子孫は左巻きになったとのこと。黒田氏は「いずれ左巻きのカタツムリが右巻きのカタツムリにとって変わる多数派になるかどうかを調べたい」と述べています。

同じく左巻きのカタツムリを研究するDavison教授によると、いかなる生物の非対称性を変えるような普遍的な遺伝子はおそらく存在しないものの、すべての生物がもつ非対称な細胞構造を構築するためのシステムは存在する可能性はあるとのこと。「私たちはカタツムリがなぜ左巻きになるのかの理由を解明しようと努力しています。しかし、残念ながらカタツムリの研究はすぐには進みません」とDavison氏は述べました。