松山市島しょ部の中島にある愛媛県立松山北高校中島分校が今年、存続の危機を免れた。入学する生徒数の確保が課題だったが、島の基幹産業のかんきつを主軸に、農家実習や県内イベントでの販促体験といった、普通科の高校ながら生産現場に密着した独自のカリキュラムに注力。2019年度は39人の新入生を迎え入れた。教職員と住民一体でPRに努めるなど、にぎわいを保ちたい地域の思いが分校を守った。(丸草慶人)

かんきつで独自色 JAえひめ中央も協力


 分校は中島唯一の高校で、在校生の多くは島外出身。18年度まで入学者数が2年連続で20人を下回り、あと1年同様の状況が続けば県教育委員会の県立高校再編整備基準で募集停止となる危機を迎えていた。

 少子高齢化で分校存続に危機感を抱いた住民らは12年、「振興対策協議会」を設立。学校と共に分校の学習環境をPRするため、分校の独自色を前面に押し出したイベントへの参加やホームページを展開してきた。

 中でも入学生の確保に大きく貢献したのが、地元農家との交流を目的に取り組んできた出張授業だ。分校では、地域に根差したかんきつ産業に注目した。授業は地元のJAえひめ中央や農家が講師となり、座学や栽培講習会を実施。クイズ形式で農家経営の仕組みやかんきつの種類を紹介する他、園地で実際に2時間ほど摘果を体験する内容で、18年度は7月上旬に行った。また、同年度は新たに10月下旬に収穫や袋詰めなど、内容を充実させた。

 昨年10月下旬には、これらの取り組みのPRを兼ねて、松山市で行われた「えひめ県民祭ええもんフェスティバル」に出展。2日間の販売体験に取り組んだ。JA中島分室がミカンを提供し、陰ながら応援した。

 生徒は500キロのミカンを1キロ300円で販売した。会場には、多くの来場者が訪れ、次々とミカンを買い求めた。当時の担任は「西日本豪雨の被災地としてではなく、おいしいものが取れたことをPRしようと生徒に呼び掛けた」と振り返る。かんきつを軸に置いたカリキュラムを通じ、イベントに参加した卒業生の一人が愛媛県農業大学校に進学するという成果も出た。

 姉が在校生として同フェスティバルに参加したという新入生の田中真奈さんは「楽しそうにミカンを売っていた姉を見て、自分も入学したいと思った」と振り返る。

 新入生は入学の動機として、独自のカリキュラムの他、「自然が豊かだった」「静かな印象だった」「船の登校に憧れた」と学校の環境も挙げる。

 新入生が増加したことにJA中島分室の土居駿吾主任は「生徒らが中島に通うことは、中島の農家の力になる」と学校存続を喜ぶ。

 学校側は、生徒の成長とPRにつながる取り組みを19年度以降も続けたい考えだ。丸山達也分校長は「イベントがあれば生徒同士の交流を深める場にもなる。校外での交流が生徒らの充実感につながる」と期待する。