本の売り場を縮小し、古着やサーフ用品の扱いを増やして好転した茅ヶ崎駅北口店(写真:ブックオフ

2016年3月期に上場以来初の営業赤字に転落、その後も減損損失の計上などによって2018年3月期まで3年連続の最終赤字が続き、先行きが危ぶまれていた中古本リユース最大手、ブックオフグループホールディングスの業績が急回復している。2019年3月期は2度の業績上方修正を行った。ブックオフが重視する経常利益は、再建計画の目標である20億円(前期比83%増)を2年前倒しで達成したもようだ。

「これで投資に耐える体力をつけることができた。経常利益30億円の実現を目指し、2020年3月期からは再び投資を加速する」。2年間、新店投資の抑制や不採算事業の整理など再建の指揮を執ってきた堀内康隆社長は、そう手応えを語る。

ブックオフが得意とする本やCD・DVD・ゲームソフトなどソフトメディアの市場は縮小が続いている。メルカリなどCtoC(個人間取引)アプリも普及するなど、ブックオフを取り巻く環境が厳しさを増す中で、なぜ回復に転じることができたのか。

最も大きな要因は、総店舗数約380店のうち260店余と大宗を占める「ブックオフ単独店」にとって、長年の課題であった新商材導入など改革のメドが立ってきたためだ。

ホビーなど新商材を前面に打ち出す

「まず成功事例を作ろうと、スタッフ全員で頑張ってきたかいがあった」――平塚四之宮店の改装を実施して1年、同店を含めて藤沢や茅ヶ崎、平塚など湘南地区を中心に20店の店舗運営を統括する野口達矢・統括エリアマネージャーはほっとした表情を見せる。

神奈川県央を南北に縦断する国道129号線、四之宮交差点のそばにある平塚四之宮店は1994年開業と単独店の中で最も古い店舗である。赤字にこそならなかったが、このままでは先細りとなることは必至だったという。そこで「本やソフトメディアと親和性があること、これまでの客層をみて潜在需要があるとみたこと、近隣にホビーショップがないこと」(野口氏)を総合的に勘案してホビーの導入を決断。

売り場作りでは、思い切って定番の文庫本売場を2階に移動、入り口から正面の一等地にホビーやフィギュア、玩具の棚を配列し、その左側の棚に家電やソフトメディア、右側には漫画や児童書の棚を並べた。

「今までに例のないことだが、ホビーの認知度を上げることが先決と考えた」と野口マネージャーは言う。

ホビーや玩具の場合、動作の点検や部品点数の確認など本やソフトメディアと比べてチェック項目が多い。買い取り価格もマニュアルが十分に整備されていたわけではない。

新商材導入に手を取られた分、一時、本やソフトメディアの売り上げが改装前と比べて落ち込んだが、6カ月ほどで回復している。「新商材の導入によって来店への動機づけができたため、土日にファミリー層の来店が増えるなど客層が着実に広がっている。来店客数は1割増え、売り上げは客数を上回る伸びと順調だ。買い取りもホビーやフィギュア、玩具は当初見込んだ量の2倍で、本など他の商材の買い取りもあわせて増えた」(同)。

JR茅ヶ崎駅近くの茅ヶ崎駅北口店では、メインの売り場から本をなくすというチャレンジを行っている。

1階にあった本やソフトメディアの売り場を2階に移転。茅ヶ崎駅北口店の近くにある大型店のスポーツ用品売り場で得たノウハウを活用して、1階の売り場はサーフボードを中心とし、メンズ古着やメンズ用スニーカー、バッグをそろえた。湘南らしさをアピールするため、照明やBGMも工夫し、店舗スタッフの制服も廃止した。


古本を並べていたフロアには、今や別の商品が並ぶ(写真:ブックオフ)

地元で人気の商材をそろえたことで、2018年6月の改装後から売り上げは急回復。本やソフトメディアの売り上げは、売り場を半分に縮小した影響で減少しているが、平均して改装前の8割前後の水準を維持している。「大型店の経験でスポーツ用品とメンズ用品の相性がいいこともわかっていた。サーフボードの買い取りが想定に比べて進んでいないことが問題。あとは認知度をどのようにして上げていくか……」(同)。早くも次の課題に取り組み始めている。

過去の失敗を生かし、現場に権限委譲

実は、ブックオフにとって単独店への新商材導入は今回が初めてのことではない。

2016年3月期には「本のブックオフ」から「何でもリユースのブックオフ」への転身を目指し、中古家電の品ぞろえを増やした。ただ、当時は本社の指示、かつ全店一律の基準で進めたため、小型店の中には文庫本であれば400冊の本を並べることができる棚に代わって、大型液晶テレビ2〜3台を並べただけの棚がでるなど売り場の魅力が低下。パートやアルバイトなどの増員負担とも重なり、赤字転落の要因となってしまった。

これに対して今回は、中古家電の導入で膨らんだ店舗運営費の効率化を進めるとともに、店舗の管理体制を店舗形態別から地域別に再編。約1年をかけて各店舗の業績や来店客の特性、売れ筋商材などを把握したうえで、2018年4月、地域営業部が新商材導入や看板の掛け替えなど自己の裁量で投資をすることができる投資枠2億円を設定。

新商材の選定も、「地域や各店舗の特性に応じた新商材の導入の権限を統括エリアマネージャーやエリアマネージャーに委譲」(堀内社長)している。

当然、現場の士気は中古家電のときとは違う。平塚四之宮店での成功を踏まえて、野口マネージャーは大和西鶴間店や横浜東戸塚店、座間警察署前店にも新商材としてホビーや玩具、プラモデルを導入。2019年3月には茅ヶ崎駅北口店の横展開として、京王八王子駅近くの八王子駅北口店の改装を実施、1階の売り場から本やソフトメディアを2階に移転して、1階をパソコンやスマホに特化した売り場に改装している。

他の地域でも、山梨の甲府平和通り店のホビー導入や愛知の豊田下林店の家電・楽器売り場の拡充、東京の武蔵小山パルム店の児童書や活字売り場の強化など、外装のリペイントを含めると2019年3月期上期末までに単独店の1割近い23店が改装を実施した。地域営業部の投資枠を増額した下期(2018年9月)からはさらにピッチが速まり、3月末では累計64店が改装を実施した。


新商材導入など単独店の改革の効果は、「浸透するにはもう少し時間がかかると思っていたが、当初の想定を上回るペースで進んでいる」(堀内社長)。その結果、既存店の売上高は、2018年4月が0.1%増と期初から前年を上回ったのに続いて、その後も順調に推移して2019年3月期累計では前期比3.5%増と改善。業績回復の原動力となっている(上図)。

総合買い取り事業の止血にメド

単独店への新商材導入に次ぐ課題であった総合買い取り業「ハグオール」のリストラにもメドをつけることができた。

ハグオールは、店舗、ネット通販「ブックオフオンライン」に続く第3の柱を目指して立ち上げた新規事業だ。さまざまなチャネルで買い取りを行い、店舗やネット通販、商業施設での催事、卸売りなど多様なチャネルで販売を行い、収益を最大化する構想で、2013年4月に事業をスタートした。しかし集まる商材にばらつきがあること、時期によって買い取り量に差が出ること、買い取りから販売までの物流費などのコストがかさむことなど誤算が多く、赤字が拡大していた。

そこで2019年3月期には、宅配買い取りやマンションでの買い取りイベントなどから撤退して、買い取りのチャネルを百貨店内の「総合買取ご相談窓口」に一本化。査定方法を専門家が各窓口を巡回訪問する形に変更するなど業務の効率化を徹底した結果、上期(2018年4〜9月)の部門営業損益は赤字が1.1億円まで縮小、2019年3月には月次黒字化を実現している。

長年の課題にメドをつけ、ブックオフは2020年3月期からは「ブックオフ スーパーバザー」(BSB)の新店投資や店舗とネット通販との連携など、過去2年間抑制していた投資を拡大する計画だ。


BSBは、本やソフトメディアに加えてアパレルやブランド品なども扱う「ブックオフ プラス」(BOP)とともにブックオフが成長戦略の要として出店を進めている大型店で、本やソフトメディア、アパレル、スポーツ用品、ブランド品、家電・携帯、楽器、生活雑貨までさまざまな商材を扱う。2019年3月期は広島段原店1店の出店にとどまったが、2020年3月期はBSBでは北海道初進出となる札幌宮の沢店が4月18日、25日には千葉でイトーヨーカ堂流山店がオープンするほか、さらに2〜3店を上積みし、4〜5店を出店する計画だ。

大型店業態への投資を再開する

店舗とネット通販との連携では、ソフトメディアで2019年3月期に店舗で買い取ると同時に通販サイトに出品する仕組みを構築したのに続き、2020年3月期には本も買い取りと同時にサイトに出品、店舗とネット通販の双方で販売できる体制を整える。さらにネット通販で注文した本やソフトメディアを店舗で受け取ることができる仕組み作りの構築も進める考えだ。

ブックオフが中古本販売チェーンという業態を立ち上げてから2021年8月で30周年を迎える。それまでに成長路線を確立することができるのか。新店投資の加速やネット通販との連携策強化とともに、単独店改革の持続力が大きなカギとなっている。