4月9日、財務省は千円、5千円、1万円の紙幣を、2024年に一新することを発表した。2004年から20年ぶりの刷新で、新紙幣の顔は1万円札が渋沢栄一、5千円札が津田梅子、千円札が北里柴三郎になる。

 1万円札に決まった渋沢栄一は、第一国立銀行(日本最初の銀行で現在のみずほ銀行)や東京ガスなど、日本の根幹をなす企業を500社ほど設立し、「日本の資本主義の父」と呼ばれた人物だ。

 そんな誰もが納得する1万円札の顔だが、実は紙幣に印刷されるのは今回が初めてではない。明治時代、千円札の肖像画を伊藤博文と争ったとき、サンプルが作成されたという。それを展示しているという北区の「お札と貨幣の博物館」に向かったが……。

「その紙幣はもうないんです。たしかにうちで一時期展示していたこともあるらしいんですが、そもそも紙幣になる前の下絵はトップシークレットなのに、展示するのはいかがなものかということで、撤去されたと聞いています」(博物館スタッフ)

 一件目は空振りだったが、まだ当てはある。千円札のサンプルとは別に、渋沢栄一の顔が印刷された韓国の紙幣があるというのだ。同じ北区の「渋沢栄一史料館」に話を聞きに行った。

「実はそれ、うちでは現物確認できてないんですよ。画像データはあるんですが。博物館の中には整理できてない1万点ぐらいの膨大な資料があるので、どこかに埋もれているんじゃないかと思うんですけどね」と語るのは、館長の井上潤さん(60)。

 それにしても、なぜ渋沢栄一の顔が、韓国紙幣に印刷されているのか。井上さんはこう話す。

「最初は、渋沢が頭取をつとめていた第一国立銀行が韓国に支店を出しまして、そのタイミングで紙幣を発行したんです。

 渋沢は韓国で金融基盤を整えたうえ、京釜(けいふ)鉄道敷設にも携わるなど、次々にインフラを整備していきました。あまり知られていませんが、当時の韓国の王から渋沢は感謝状をもらっているんです。

 当時韓国で流通していた1円札、5円札、10円札すべてに渋沢の顔が印刷されています。韓国との国際関係上、日本では現物の確認が難しいかと思いますが、韓国の貨幣博物館には現物があるはずですよ」

 ということで、紙幣の画像データを公開しておこう。写真は明治37年(1904年)に印刷されたものだ。新紙幣に刷新される2024年までに、幻の渋沢紙幣がひょっこり顔を出す展開を期待したい。