政府・与党内で和牛精液・受精卵の海外流出防止対策の検討が本格化してきた。中国への不正持ち出し事件を引き金に、不正輸出を直接封じる法律がないなどの問題点が改めて露呈し、関係者の危機感が高まっている。農水省は、法改正も視野に入れた検討を加速させる考えで、有識者検討会や自民党での今後の議論を踏まえ、対応方針をまとめる。法的根拠に基づく罰則強化など、流出防止に向けて実効性のある対策を構築できるかが焦点になる。

 吉川貴盛農相は22日の閣議後会見で、「法改正も視野に入れた検討になっていく」との見通しを改めて示した。家畜伝染病予防法(家伝法)を改正するかどうかを含め、今後議論を進めるとした。

 現行法による規制には限界がある。今回のような持ち出しを直接封じる法律はなく、これまでは家伝法の輸出検査の義務付けで対応してきた。

 今回の事件の容疑者も家伝法違反で逮捕されたが、2月に始まった同省の有識者検討会でも「今後、効果的に防ぐには、家伝法だけでは限界がある」との指摘が出ている。畜産関係者の間では、今回の不正持ち出しは「氷山の一角」という見方も強い。

 そうした現状を踏まえ、自民党は和牛遺伝資源の流出防止対策を検討するプロジェクトチームを設置。法令に反した持ち出しへの罰則強化などを検討し、4月以降に論点をまとめる方針だ。

 農水省は2006年にも、和牛の遺伝資源保護を巡る検討会を設置したが、世界貿易機関(WTO)の規定上、武器などの一部品目を除き、輸出を禁じることが難しいこともあり、知的財産保護や輸出防止に向けた抜本的な法改正には至らなかった。今後、どのような法制度を構築するかは大きな課題となる。

 海外流出を防ぐには、国内の流通構造の改善も欠かせない。不正な持ち出し事例は、日本国内での和牛精液・受精卵のやり取りが発端になった可能性も高いからだ。

 精液や受精卵の採取、流通、注入・移植などの実施者は、家畜改良増殖法で細かく規制されているが、不正な流通の未然防止までは、民間の取り組みに頼る部分も多い。

 農水省の有識者検討会では、和牛の一大産地の宮崎県が、県産種雄牛の精液の厳重な管理を担うシステムを構築していることを紹介。ただ、農家による自家授精や、協会の会員以外による県外精液の授精などは把握しきれず「もっと踏み込んだ形での調査、管理ができるかが、今後の課題だ」との報告があった。

 鹿児島県もシステム構築を進めているが「授精業務に関わる全員が加入できなければ意味がない」と、万全の体制づくりの難しさを指摘した。

 農水省は全国に約1600ある家畜人工授精所で精液が適正に管理されているかを把握する初の調査に着手。国内での適正流通につながる仕組みをどう担保するかが問われている。