大昔の生き物の姿がそのまま地層の中に残る化石は、太古の時代を今に伝えるアイテムとして多くの人に人気があります。特に恐竜の化石の市場価格は、ハリウッドスターをはじめとする裕福な民間の収集家による需要増加につれて年々高騰しているといわれています。そんな状況に対し、古生物を研究する学者が「恐竜の化石を一般に売買することを世界的に中止するべきだ」と規制を要求していると報じられています。

Dinosaur fossil collectors ‘price museums out of the market’ | Science | The Guardian

https://www.theguardian.com/science/2019/feb/24/dinosaur-fossils-collectors-museums-price-sale

化石の標本は美術品のマーケットで取り扱われているそうで、その価格は他の美術品にも負けないほどの高価格がつけられています。例えば、白亜紀末期に生息した史上最大級の肉食恐竜であるティラノサウルス・レックスの骨格は最大1000万ドル(約11億円)に達するとのこと。また、白亜紀に生きた草食恐竜のトリケラトプスの頭蓋骨は17万ドル(約1900万円)〜40万ドル(4500万円)、ジュラ紀後期に生息していた大型草食恐竜のディプロドクスの骨は57万ドル(約6300万円)〜110万ドル(約1億2000万円)で取引されるそうです。

恐竜の骨だけではなく、絶滅した動物の標本の価格も高騰していて、かつては史上最大の鳥類だったものの18〜19世紀に絶滅したと考えられているエピオルニスの卵の標本は13万ドル(約1400万円)で取引されたそうで、10年前と比べるとおよそ5倍の値段となっているそうです。



しかし、こうした化石が市場に流れ、収集家の個人的なコレクションになることに対し、ミシガン大学の動物学科で淡水魚の進化を専門に研究するJerry Smith氏は「化石や標本が個人のコレクションに加わっても、その標本に含まれる新しい情報の理解や解釈、発見が科学のコミュニティにもたらされることは決してありません」と述べています。

2018年にパリで開催されたオークションに、およそ9mの体長を持つ未確認種の恐竜の化石が出品されました。この化石は230万ドル(約2億6000万円)で落札されましたが、アメリカの古脊椎動物学会はオークションの主催者に対してオークションのキャンセルを申請しました。化石の落札者は自分が種の命名者だと主張していたそうですが、古脊椎動物学会は「新種の命名は国際命名法にのっとって行われるので誤解を招く」と注意を促していました。

化石の人気が高まったのは、1993年に公開された映画「ジュラシック・パーク」の影響が大きいといわれています。オークションで化石を買いあさる収集家にはハリウッドスターなどのセレブリティが多く、特に俳優のニコラス・ケイジやラッセル・クロウ、レオナルド・ディカプリオらは熱心な化石コレクターとしても知られています。



by Gerald Geronimo

珍しい化石は非常に高い価格で取引されることから、発掘現場や博物館から盗まれるなど、違法な手段で入手されたものがオークションに横流しされることも多いそうです。ニコラス・ケイジは2007年に、匿名でオークションにかけられたティラノサウルスの頭蓋骨をおよそ28万ドル(約3200万円)で落札しました。しかし、専門家の調べによって、この頭蓋骨はモンゴルの発掘現場から違法に持ち出された化石だったことがわかり、横流しをした古生物学者は有罪判決を受けました。その後、化石は無事モンゴルに返還されたそうです。

アメリカ古脊椎動物学会の元会長であるCatherine Badgley氏によると、アメリカのコロラド州・ワイオミング州・ユタ州でも化石が多く発掘されるそうですが、そこで発掘された化石のなかでも珍しいものはオークションに流れることが多いとのこと。「例えばコウモリの化石は非常に珍しい化石ですが、この半分が個人収集家の私的なコレクションに入っていた場合、それによって膨大な量の重要な情報が失われてしまいます」とBadgley氏は述べています。



By National Park Service

Badgley氏は「化石標本が高価であるほど、古生物学的に価値が高いというわけではありません。化石収集家は、化石の科学的な情報よりも、希少性と経済的価値に注目します」と化石収集への理解を示す一方で、「化石を販売するべきではありません。ほとんどの化石、特に脊椎動物の化石は恐竜に限らず決してありふれたものではありません」と主張しています。