文/屋山太郎(政治評論家)

 日韓関係を軌道に乗せたのは1965年の日韓基本条約である。大戦が終わって20年もかかったが、何が問題となったのか。第一は在日朝鮮人とその子孫の身分をどう扱うか。第二は朝鮮に残してきた日本の財産と日本にある朝鮮人の財産をどう相殺するか、だった。日韓の財産の差は莫大で、韓国がとうてい払える額ではない。逆に日本から“門出の祝い”として無償3億ドル、有償2億ドル、計5億ドルを「経済協力基金」と名付けて韓国に献上することになった。賃金の未払いなど、在日韓国人が蒙った損失は、この5億円の中から韓国政府が払うはずの金だった。

 当時、国際的にこれほどすっきりした条約はないといわれたのである。ところが、金を受け取った朴正煕大統領はこの“協力金”で日本からの引揚者に補償する事業はしなかった。まとめて大規模なインフラ工事に使ってしまったのである。何に使ったかの「報告書」もまとめてあるが、小銭でバラまくより余程、利口な使い方である。5億ドルは当時の韓国予算の1年半分に達した。日本の外貨準備高は常時、20億ドルを切っていたから、これほどふん切りの良い財務支出は過去も現在もないだろう。

安倍晋三首相と文在寅大統領

 ところが、その後、韓国政府は日韓首脳会談のたびに理由をつけて日本政府に金をせびった。「河野談話」がいい例である。吉田清治という自虐者が「済州島で女狩りをして軍の慰安所で働かせた」との主旨の本を書いた。当時「働いた」という老婆を集め証言に基づいて「謝罪」の意を込めて河野氏が発表した。作文に当たった石原信雄・官房副長官が「言わなかったことを書かされた」と証言している。本の著者も根拠なく書いたと証言している。ヨタ本を16回も記事にした朝日新聞が、ヨタ記事を取消し、「元慰安婦の証言」と証する記事を取消し、謝罪した。

 月刊『文藝春秋』の2019年1月号は柳興洙(ユ・フンス)という元駐日大使が「文在寅政治は我が韓国の『信用』を失った」と文政権への失望を語っている。インタビュアーは韓国取材の大ベテラン黒田勝弘・産経新聞ソウル支局長である。

 文春の紹介によれば柳氏は韓国有数の“知日派政治家”で、韓国南東部で生まれたが2歳の時に家族と共に渡日し、小学校5年まで京都で過ごした。小5のときに帰国、1962年にソウル大を卒業後、内務省(現・行政安全部)に入り、治安本部長(警察庁長官)、忠清南道知事、全斗煥政権の政務首席秘書官等を歴任した。85年に国会議員に初当選、04年の政界引退まで国会議員を4期務め、日本語は完璧で、韓日議員連盟幹事長に就いた。京都大学への留学経験もある。朴槿恵政権下では、日本に豊富な人脈を持つ人物として駐日韓国大使に起用された。15年の「日韓慰安婦合意」に舞台裏でかかわった(念のために言っておくと、「不可逆的解決」を宣言した合意文書である)。

 ここまで書くと、しかるべき人達が、しかるべき文書を作って、いざこざを終結させたのだな、と思う。ところが日韓基本条約も慰安婦合意も全部ひっくり返して、やり直しだと韓国は叫んでいるのである。私の持つ知識から判断すれば理解不能だが、その謎を解く2つの発言をしている。

「謝れ」は筋違い

 柳氏はアメリカの生物地理学者を尊敬していて、その人物が日韓について書いている次の一節にいたく感激しているのである。

「韓国人と日本人は成長期を共にすごした双子の兄弟も同然だ」

 政治学者のサミュエル・P・ハンティントン氏は「世界の文明には7種ある」と主張していたが90年代に中華文明に加えられていた日本を切り離して、日本は中華文明とは全く違って一国一文明とすると、文明の定義を変えた。

 柳氏の認識では韓国と日本は共に中華文明に属していると見えるのだろう。しかしハンティントン氏は勇断を持って日本を中華文明から離した。「文明の衝突」を見た時、これまでの違和感はさっと消えた。納得した。

 柳氏はなお「双子の兄弟」と同然だと実感しているなら、どこが同然なのか、似ているのかを示してもらいたい。

 朴槿恵は大統領だった頃、米欧の国会で所信を陳述したが、陰に陽に日本の悪口を説教して回った。日本人なら他人に告げ口したり悪口を言うのは下の下の人物である。朴氏は告げ口の一事でリーダーとしての尊敬を失った。双子というからには恥の自覚は一致しているはずだ。柳氏も京大という最高学府に学んだからには「弁解せず」というのが、日本人の徳目の一つだとわかったはずだ。

 韓国の艦艇が海上自衛隊の哨戒機に射撃用レーダーを照射した。韓国側は根も葉もないと全否定である。「間違いがあったかもしれない」程度なら、あと始末も可能だが、「根も葉もない」と突っ張ると、日本が嘘をついていることになってしまう。日本人はこういう時には相手の逃げ道を残しておくものだが、本気で怒れば、専門家が完全に理解するまで証拠を出し続けるだろう。そこまでの騒ぎになれば世界中は、日本側が正しいことを言っていると信ずるに至るだろう。

 歴代、韓国大統領は、米国と中国の間に入ってバランスをとるバランサーの役を自任している。バランサーは双方から余程信用がなければ務まらない。あるいは強大な力を持っているかである。韓国にはこの双方が欠落している。これだけ無知なのはなぜだろう。

 時刻が歩んできた歴史をきちんと認識し、改革すべき点をきっちり改革し続けてこそ進歩がある。

 韓国はいま「朝鮮人戦時労働者」(徴用工と呼ぶのは間違い)の補償問題に明け暮れているが、誰か65年の日韓基本条約を正確に解説し、国民に正しい認識を伝える人物はいないのか。

 65年に支払った5億ドルは、国民への弁償金から不払い賃金、日本に残してきた財産などすべて含んでいる。日本にあった日本企業がまだ支払っていなかった賃金も含んでいる。韓国最高裁は「個人の請求権はまだ残っている」との判決を出して、個人が当時の日本企業に賃金の残りか、社内預金を請求するようけしかけている。条約で解決した結果と違う判決を出すとは余程の後進国である。三権立法が確立しているならば、条約でケリがついた件について行政府に注文をつけるとは何ごとか。

 内地で朝鮮人労働者を使った会社は1257社とされているが、まだ残っている会社は約300社だ。最高裁が「請求しろ」と言っても、潰れた約950社に勤めていた労働者は請求先がない。そこで残った300社から法外の金をとって、それを貯めて、貰えなかった人達に分けるという。こういうふざけた結論になるのは「65年の5億ドルですべて終り」という結論を否定したからだ。このまま、すったもんだの議論を続けると、慰安婦がそうだったように、当事者が死に絶えてしまう。それでも援護者と称する人達は残って「弁償、弁償」と騒ぐのだろうが、こういう所作は歴史を昔に引っ張り戻すことに他ならない。

 柳氏によると、「安倍総理夫人が元慰安婦のハルモニに会いに行って親身になって話を聞く」とか「改めて慰労・お詫びをする」などすれば、日韓関係はすっきりする。「日本はここまでやってくれるのか」と涙を流して感激するのが韓国人気質だというのだ。「謝れ」ということ自体、筋違い。安倍首相が10億円をカタに「不可逆的解決」と決着したのは何だったのか。図々しいにもほどがある。

まず自国を学んでもらいたい

 柳氏によると「韓国と日本が分かり合えないのは、心の奥底で互いにコンプレックスを抱いているからだ」という。どういうコンプレックスかといえば、「韓国は『現代に日本に植民地にされた』こと。日本は『古代に朝鮮の方が先進国だった』こと」だという。そのコンプレックスのせいで正直に語り合えないとは暴論もいいところだ。

 日本が朝鮮と併合したのは1910年だが、それに先立つ16年前、日清戦争が起こった。この戦争の原因は下関条約第一条に明記してあるように「朝鮮国の独立を確認する」ことだった。それまで朝鮮半島は500年ほど中国の属国であり、黙っていれば中国領になること必至とみて、日本が中国に朝鮮の独立を認めさせたのである。しかし朝鮮は中国、ロシアどちらに転ぶかわからない。そこで合併ということになったが、韓国人は植民地にされたと言うが、実態は全くの併合(アネクセイション)だった。台湾の併合も全く同じ方式だったが、あらゆるインフラを日本仕様で、財政も同じ比重で傾けるというものである。

 朝鮮は500年ほど前にハングルを開発していたが、両班(貴族)が平民に文字はいらないとお蔵入りしていた。日本が持ち出して国民皆ハングル運動を起こした。教材、教科書も大量作成し、小学校が5200校、師範学校や高等学校が合せて1000校以上開校した。イギリスはインドを200年にわたって植民地化したが、小学校1つ作らなかった。植民地化と併合にはこれほどの差があるのだ。たった36年間の治世によって朝鮮半島の人口は2倍に増えて、24歳だった平均寿命は30年以上伸びた。

 柳氏が言うように「古代に朝鮮の方が先進国だった」わけがない。1000年昔の平安時代に紫式部の「源氏物語」、清少納言の「枕草子」が書かれた。世にはやったということは読書をする人が多かったことを物語る。

 日本が朝鮮を併合した時、奴隷が30%いた。幼児売春や幼児買売も禁止された。100キロだった鉄道が6000キロにもなった。日本の中世は恐らく欧州先進国並みだったろう。近代になってフランス画世界に浮世絵の手法が流れ込んだのも、芸術のレベルが同じようだったからだ。

 柳氏の自国に関する認識の無さに驚くが、まず自国を学んで貰いたい。返した借金を「まだ返せ」「また返せ」では世界に通用しないことをまず学んで貰いたい。

 日本もヨーロッパ諸国も封建時代、戦国時代が存在した。日本は100年間の戦国時代を経て250年間の江戸時代に入る。100年で武家の序列が決まったのち、参勤交代によって文化的統一をもたらした。韓国と中国に、国家の心棒がないのは封建時代が存在しなかったからだろう。

週刊新潮WEB取材班

2019年1月12日 掲載

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