■いまの韓国は「喉に刺さった異物」である
昨年暮れからずっと喉の奥に刺さった異物が取れない。いくら咳払いをしても、喉に指先を突っ込んでもなくならない。魚の細い小骨などではない。丸太のように太く、先が槍のように尖った杭だ。
喉に刺さって抜けない問題の杭とは、韓国軍による火器管制レーダーの照射事件のことである。昨年12月29日にも「照射事件をはぐらかす韓国は"敵性国家"か」との見出しで記事にしたが、あらためて照射事件について触れたい。
昨年12月20日午後3時ごろ、能登半島沖で自衛隊のP1哨戒機が韓国軍の駆逐艦から火器管制レーダーを照射された。火器管制レーダーは、航空機や艦船がミサイルなどを発射するときに放射する電波だ。照射することによって敵機までの距離や方向を測定できる。敵機を自動追尾できるため、照射は「ロックオン」(照準を合わせた状態)と呼ばれ、武器使用に準じる行為である。
日本政府は外交ルートを通じて直ちに韓国政府に強く抗議した。火器管制レーダーの照射を受けた翌日の21日には防衛相が事件を公表した。
■動画公開を決めた安倍首相の判断は正しかった
さらに28日に防衛省が証拠として照射を受けた際の動画も公開した。これは官邸の指示だった。
当初、防衛省は「動画まで公にして韓国に抗議すると、韓国の立場がなくなる。中国と北朝鮮が喜ぶだけだ。非公式の場で韓国に謝罪させて済ませたい」との考えだったが、安倍晋三首相が「証拠として国際社会に示すべきだ」と動画の公表にこだわったという。まさに官邸主導ではあるが、沙鴎一歩はこの安倍首相の判断には賛成する。
外交の基本は自国の利益をいかに優先するかにある。相手国の足もとを見てときには毅然とした態度で臨むことが必要だ。今回の動画公開はそのときだった。
毅然とした態度と同時に甘言も必要になる。甘い言葉はとくに非公式の水面下での交渉で求められる。外交ではこの水面下での交渉が決定打になるケースがほとんどである。
■どこから見ても韓国は“アブノーマル”
日本政府は水面下の交渉をどう行っているのだろうか。
各紙の報道によると、日本側が動画を公開する前日の27日、テレビ会議で問題の火器管制レーダーの周波数特性を防衛省が韓国国防省に示した。周波数特性とは、個別のレーダーがそれぞれ持つ固有の情報で、人の指紋に相当する。
日本のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射した広開土大王(クアンゲトデワン)級駆逐艦固有の周波数特性を示されたのだから、通常なら照射の事実を認めて謝罪せざるを得ないだろう。日本の防衛省もこれで照射事件は終息すると考えた。
ところが、韓国側は認めようとはせず、交渉はこじれた。しかも1月4日には韓国は日本の主張に反論する内容の動画を公表した。公表とともに「日本の哨戒機が韓国の駆逐艦に異常に接近した」と日本に謝罪を求め、証拠となる電波情報の周波数特性まで示せと迫った。
どこから見ても韓国は“アブノーマル”である。
■「北朝鮮の漁船を救助中に起きた」と人道面を強調
間違っているのは韓国だ。国際社会も理解しつつあると思う。だが問題がこじれる前に政治的に解決しなければならない。
このままでは防衛省が言うように北朝鮮を喜ばすだけである。韓国は「北朝鮮の漁船を救助中に起きた」と人道面を強調してやまない。もっと言えば、事実関係で日本と勝負できないから、動画を公開することによって人道面から日本を非難しようと、国際社会に訴え出たわけだ。
韓国が異常になっているときだけに日本は冷静に対応しなければならない。韓国の真の狙いは何か。常にそれを念頭に置いて対応したい。来月2月22日は島根県が定めた「竹島(韓国名・独島)の日」だ。さらに3月1日は韓国の「3.1独立運動」から100年の節目を迎える。支持率が落ちている文在寅(ムン・ジェイン)政権にとって大きな正念場である。これまでの政権のように文大統領は、日本を非難することによって韓国世論の支持を獲得しようとしている。
■安倍首相はどこまで分かっているのか
それに日本が乗ってはならない。心配なのは安倍首相の心の内である。動画公開の判断は正しかったが、安倍首相は多少気が短く、興奮しやすい欠点がある。野党に攻撃されたときの国会での答弁を見ていればそれはよく分かるだろう。
これからは非公式の水面下の交渉を重視し、韓国から謝罪を引き出すことが求められる。それには文政権もしくは文大統領の弱点を突くしかない。いまこそ「インテリジェンス(諜報活動)」で集めた情報を活用するときだ。
さもないと北朝鮮の核・ミサイルの脅威も解消できないだろう。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンイル)朝鮮労働党委員長は1月8日に中国を訪問し、習近平(シー・ジンピン)国家主席と面会するなど、着々と対米戦略を練っている。このままでは日本が取り残されてしまう。
いまのまま“ビデオの公開試合”を続けていては、「目には目を、歯には歯を」の負の連鎖にはまるだけである。照射事件を逆手にとって米国をうまく取り込み、韓国をなだめすかし、中国と北朝鮮に対抗すべきである。いまが日本の外交力が試されるときだ。
果たしてそこを安倍首相は分かっているのだろうか。
今年は12年に1度の「亥年選挙」にあたる。春には第19回統一地方選、夏には第25回参院選が行われる。安倍首相は12年前の参院選大敗・退陣を強く意識し、両選挙に全力投球しようとしていると漏れ聞く。しかし首相自身が自らの支持率ばかりを気にしているとしたら実に情けない。
■「事実を歪めているのは韓国のほうだ」
さて社説はどう書いているのか。
韓国嫌いの産経新聞が12月23日付(「見出し「射撃レーダー照射 韓国は過ち認め謝罪せよ」)に引き続いて1月5日付の社説(主張)でまた書いている。
見出しは「韓国が謝罪要求 理性欠く行動に未来ない」だ。「理性欠く」とは産経社説らしい韓国に対する表現である。ざっと本文を読んでいこう。
「一向に非を認めようとしない韓国が逆に、おかしな理由を言い立てて日本に謝罪を求めてきた」と書き出し、こう指摘する。
「韓国国防省が反論すると称して動画を公開し、P1が『威嚇的な低空飛行をした』として、日本に謝罪を要求した。防衛省がP1撮影の動画を公表したことなどを念頭に『事実を歪曲する行為を中断』することも求めた」
次にこう主張する。
「だが、事実を歪めているのは韓国のほうだ。照射を認めて日本に謝罪することなしに、日韓関係の未来はないと知るべきだ」
「危険な敵対的行為を働いたのは韓国側だけである。照射はミサイルなどで攻撃する際の準備行動で、非難されて当然だ」
事実のもとづいた分かりやすい主張である。社説を「主張」としている新聞らしさが滲んでいる。
■自衛隊と韓国軍は、本来は友軍的関係を保つべき
続けて産経社説を読み進めてみる。
「日韓は同盟関係にはないが、安全保障上の機密情報を共有する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を結ぶ間柄だ。共に米国の同盟国でもある。2013年には、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に当たる韓国軍が弾薬不足に陥り、陸上自衛隊の派遣部隊が弾薬1万発を提供したこともある」
「米韓同盟は北朝鮮の脅威に備えている。自衛隊と韓国軍は、本来は友軍的関係を保つべきなのに、海自機が近づいたら『威嚇』とみなして、非難する韓国側は極めておかしい」
「安全保障上の機密情報の共有」「友軍的関係」、いずれも韓国側も強く認識しているものとばかり思っていた。ところが韓国はそうは考えてはいなかった。これが現実なのかもしれない。沙鴎一歩は韓国という国に対して認識をあらためたい。
■韓国の行為は「理性を欠く」
産経社説はその最後を次のように締めくくっている。
「日韓外相は4日、電話でレーダー照射や『徴用工』の問題を協議した。外交、経済上の基盤や安全保障上の信頼関係を一方的に傷つけているのは韓国だ。韓国は理性を欠く一連の行動を反省し、直ちに撤回しなければならない」
産経社説が指摘するように信頼関係を壊しているのは韓国だ。韓国の行為を産経社説は「理性を欠く」と批判するが、それはもっともな批判である。
だが、産経社説は冷えた日韓の関係を改善する手だてを示していない。そこが残念だ。社説である以上、日本がとるべき解決策をきちんと書いて主張すべきである。
沙鴎一歩の提案は、前述したように韓国の弱点を攻めることだ。ぜひ安倍政権に実行してもらいたい。
■朝日と毎日はレーダー照射事件をなかなか書かなかった
新聞各紙はレーダー照射事件をニュース面や解説面でそれなりに書いてはいる。だが、すぐ社説に書いたのは産経と読売(12月26日付)ぐらいである。朝日は12月27日付、毎日は12月28日付と、掲載まで時間がかかった。またその内容も日本の正当性を強く主張するものではなかった。どうしてなのだろうか。
国があってこそ、私たち国民がある。その国に対し、隣国からいわれなき非難をされている。新聞の顔である社説でその非難に異を唱えるべきではないのか。
沙鴎一歩は決して国粋主義者でもなければ、右翼でもない。傍目にはむしろ左派に映るかもしれない。それはときの権力者である政権を批判するのが、ジャーナリストの役目だと信じているからだ。
■日本の進むべき道を示してこそ社説だ
新聞各紙はきちんと事実関係を取材したうえで、日本と韓国の双方の主張のどちらが正しいかを判断し、日本の進むべき道を社説で示してほしい。
毎年のことではあるが、1月1日付から1週間は新聞各紙の社説に抽象的な話が多く見られた。新鮮なニュース絡みの社説が少なかった。社説を担当する数十人の論説委員たちが、年末年始に休みを取るために前年の12月下旬までに1本の長い社説原稿を何本も作る。その態勢上、仕方がないのかもしれない。
ただ韓国が理不尽に日本を攻撃してやまないときには、正月休み返上で論説委員が集まって議論し、社説を書いて掲載すべきである。そうしなければ、読者は付いてこない。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)
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