フリーランスになってみて、会社員がどれだけ外注先を軽んじているのかがわかった」。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏はそう語る。業界の大御所と、それ以外のフリーランスで扱いを激変させるダブルスタンダード、外注業者の時間や労力を軽視して振り回す横暴さ、形式主義的で意味のない出張など、“バカ会社員”のおこないに共通するのは「コスト意識の欠如」だと指摘する――。

■大御所ではないフリーランスを軽んじるバカ会社員

ダブルスタンダードは何かにつけて不愉快なものだ。それも、自分が冷や飯を食わされる側であれば、ことさらにムカつく。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ohmygouche)

まっとうな常識を持っている誠実な人物であれば、もしかしたら、自分が優遇されていることに気づいた際に「それは不公平では……」と提言をするのかもしれない。だがまぁ、そんなことは滅多にないだろう。自分に不利益がないのであれば、余計なことを言う必要はないのだから。しかし、冷や飯を食わされる側にとっては、立場が劇的に変わりでもしない限り扱いは変わらないので、常に理不尽さを感じることになる。

私は、1997年に社会人として働き始めて以来、広告、広報、出版、ウェブメディア、テレビ・ラジオといった電波メディアなどで、さまざまな仕事に携わってきた。そうしたなかで、ダブルスタンダードが振りかざされる場面にさんざん遭遇してきた。よく見られるのは「大御所ではないフリーランスの人間の『時間と労力』を、屁とも思わず軽んじるバカ会社員」の姿である。

■企画1本「500万円」と「2万円」の格差

2015年に「東京五輪エンブレム騒動」があった。この時、デザイナー界のヒエラルキーがいろいろと取り沙汰された。要するに「そもそもトップクラスの売れっ子デザイナーにしか応募資格がない。審査する側も業界内で発言力が強い売れっ子の大御所で、過去の重要案件で要職を務めていたような選考委員ばかり。結局、内輪感満載の選考だった」ということが白日の下にさらされたのだ。

私が2017年に著した『電通と博報堂は何をしているのか』(星海社新書)では、この件についても詳しく書いたのだが、以下のような大手広告代理店の社員による証言も紹介した。

「企業の大きなキャンペーンなどのデザインをトップクラスの事務所に頼むと、1本100万〜500万円くらいの費用がかかります。これは『企画費』『アイデア費』『企画フィー』など、費目を仕立てるのに頭を使う部分です。それに加えて、200万〜300万円の『デザインフィー』『作業費』『実費』などもかかります。トップクラスの事務所は実制作をさらに別の事務所に外注するケースもありますが、自ら手がけることもある。いずれにしても、かなりのお金がかかることに違いありません」

同書では、無名のフリーデザイナー(30代後半女性)にも話を聞いた。

「1本数百万円の仕事なんて理解できません。私がやる仕事なんて、友人の店のロゴを作って2万円とかだし、企業のデザイン仕事に参加しても『企画費』なんてもらったことは一度もありませんよ。イラストを描いて1本2000円なんてこともあるし、地方の農協みたいなところが出しているゼリーのロゴとパッケージのデザインは、全部まとめて2万円でした」

■カネを払う発注サイドも重鎮にはペコペコ

具体名は挙げないが、「業界大御所」的な人物は各分野に存在している。その人物を打ち合わせに呼ぶ場合、すでにクライアントや上司が「その人に任せる」ということを了承していることが多い。理由は「業界の重鎮である○○さんに貴重なお時間を割いていただく」というコンセンサスが関係者にあり、事前にしっかりと根回ししておくからだ。また「今後も長きにわたってお付き合いいただきたい」「これからもわが社の仕事を優先していただきたい」という計算も働くので、むげな扱いはしない。

だからこそ「会議費」やら「企画費」が発生することは大前提となり、打ち合わせに来てもらうためのタクシー代を支払うことも厭わない。その大御所に対しては、本来、立場が上であるはずのカネを払う側(発注者側)が逆にペコペコしていたりもする。

もちろん、その大御所は丁寧な人格者であることが多く、エラソーな振る舞いをするわけでもないのだが、周囲は勝手に忖度をし、神を崇めるかの如き対応をする。そして1カ月後、同氏の会社の経理担当や秘書から巨額の請求書が届き、仮に競合プレゼンで負けたとしても、その「企画費」や「プレゼン費」は粛々と支払われることになるのだ。

■大御所以外のフリーランスは軽々しく呼びつけられる

さて、こうした背景を踏まえたうえで、ここからは「大御所以外」のフリーランスに対するバカ会社員の扱いを述べるとしよう。私としては、そんなバカ会社員であろうと“カネ(商流)の上流”にいることは重々承知しているし、受注者として尊敬の念を抱いている。しかしながら、私たちフリーランスに対して、当然のごとく見下すような態度を取ることについては徹底的に異議を呈したい。

まずよく見られるのは、「大御所以外」のフリーランスのことを「ちょっと打ち合わせしたいんだけど、近々ウチの会社に来られない?」などと軽々しく呼びつける場面だ。その際、「案件としてはけっこう大きいものだからさ」といった甘言めいたものが添えられるのも、よくあるパターンである。こちらとしては「もしかしたら100万円? 200万円? ワクワク!」みたいなことを一瞬、思ったりもする。

■「すぐに企画書をつくれ」などと無茶ぶり

仕事を獲得できることは、自身の不安定な生活を安定化させてくれるため、新規業務の打診はフリーランスにとって、いつでも心が湧き踊るもの。だが、いざ呼び出されて1時間ほど会議室で打ち合わせをしたりすると、「というわけで、すぐに企画書をつくっていただきたいのですが、今週中になんとかなりますか?」なんて無茶ぶりをされるケースが少なくない。

「100万円のためならば、ここは粉骨砕身!」とばかりに、フリーランスは取らぬ狸の皮算用をしつつ、とにかく企画を考える。そのうえで、企画書に盛り込む内容の「裏取り」をすべく関係各所に連絡をし、企画の実現性を高めるべく動き始める。その関係先が「おっ、面白そうだね。ぜひ一緒にやろう!」「何でもお手伝いしますよ!」などとありがたい反応を返してくれたなら、返す刀で相談したことや合意できたことを取りまとめ、提出用の企画書に「できること」「できないこと」などを落とし込んでいく。

■企画を提出したのに、その後、連絡ナシ……

かくして10個ほどの企画案をつくり、再び発注元である会社へ打ち合わせに出向く。「このアイデア、面白いですね!」「へぇ〜、こんなこともできるんですか!!」といった好反応を得て、その場は多いに盛り上がる。それなのに、だ。いや、本当に「それなのに」なのだが、私のような大御所ではない人間の企画は往々にして、程なくこうなってしまう。

「すみませ〜ん、クライアントに相談したところ、予算を街頭ビジョンやテレビCMにつぎ込みたいという意向になってしまったので、中川さんのウェブ企画に予算がつきませんでした〜」

「あぁ〜ごめんなさーい、例のアルゼンチンの取材企画、別の人に頼んじゃった。ごめんなさいね〜! また何かあったらお願いしますね〜」

ひどい場合だと、打ち合わせの後に一切の連絡もなく、私が出した企画が通ったのか、通らなかったのかすら分からないことがある。待てど暮らせど反応がないので、ついにこちらがシビレを切らして抗議のメールを送るとともに、ツイッターやフェイスブックでキレたりすると、ようやく慌てたように連絡が来て謝罪をされたり、企画費を払う旨を伝えられたりするのだ。

■自分もかつては「バカ会社員」だった

私は新卒で博報堂に入社し、4年ほど在籍したのだが、その間は「バカ会社員」の側にいた。いま考えると実に失礼な話ながら、確かに、企画が実現しなかった案件においてフリーランスの人々を打ち合わせに呼び出したり、企画書をつくってもらったりしても、それに対する費用を払ったことがない。普段レギュラー仕事を頼んでいるから、そこに付随する「サービス」のごとき感覚を持っていたのだろう。だが、その業務がサービスであるかどうかを決めるのは、本来は先方の判断である。

そして2001年にフリーランスになって以後、安易に打ち合わせに呼び出されたり、なんだかよく分からないまま企画が進行したり、頓挫したりした経験を重ねながら、会社員時代の自分がどれだけ傲慢だったかを痛感していった。自分がないがしろにされて初めて、会社員によるフリーランス軽視の姿勢を理解できたのである。

■ツイッター上でNHKのプロデューサーに激怒

フリーランスをないがしろにする事例として、私がNHKから受けた扱いを紹介しよう。恥ずかしいが、ここでまとめを読むこともできる。

以前、NHKが新しい帯番組を立ち上げることになり、私に「曜日コメンテーター」の打診が番組開始の3カ月前にあった。そこで先方まで打ち合わせに出向き、和気あいあいとした雰囲気のなか大勢のスタッフと話し合い、アイデアを提案しまくった。

しかし、なかなか次の連絡がない。番組開始1カ月ほど前に一度電話をして「何か事前にやっておくべきことはありませんか?」と尋ねたところ、「あぁ、特にないですよ」と言われた。そして開始1週間前、いざ新番組の詳細情報が解禁されてみると、私は曜日コメンテーターのラインアップに入っていなかったのだ。

私は驚き、担当プロデューサーに「どうなってるのですか?」と電話した。すると「あれ、連絡が来なかったら採用ではないって言ってませんでしたか〜?」と寝ぼけたことを返してきた。堪忍袋の緒が切れた私は「バイトの面接やってんじゃねーよ、ボケ」と激怒し、ツイッター上で非難したのである。

最終的には当のプロデューサーから丁重な謝罪を受けたのだが、こうまでしないと無名のフリーランスは報われないのだ。くだんの連投ツイートにしても、汚い言葉のオンパレードではあるが、この時はわが身を守るべく、また会社員によるフリーランス軽視を周知させるべく、私なりに強い問題意識や危機意識を持って声を上げたつもりだ。

■取引先の「信頼できる人物」をつかまえておくべし

とはいえ、ほとんどのフリーランスにこのようなマネはできないだろう。「ひどい扱いを受けたのは事実だけど、告発したら私は業界から干されてしまうかも……」なんてことを考えたら、断腸の思いでだんまりを決め込むほかはないのかもしれない。

そこでフリーランスの皆さまに伝えたいのは、「とにかく信頼できる“上流”(カネを払う側)の人間をつかまえておけ」ということである。

前述したような「発注者が許せないほど非礼な扱いをしてきた際には、ツイッターやフェイスブックで容赦なくキレて、指摘する」という行為を、私はこれまでに何度か断行してきた。実は最近も同様の指摘をしたのだが、発注してきた会社の信頼できる方々から「ウチの者が何か失礼をやらかしましたか?」という連絡をいただき、実際に会って事の子細を伝えるまでに至った。そこで「安易にフリーランスを呼びつけて、企画だけ出させる風潮はマズイことを社内で共有しておきます」というありがたいお言葉をいただいた。

■「顔合わせ」のために大人数で地方出張する愚

バイトであれば、時間を提供すればお金は発生する。しかし、大御所以外のフリーランスには発生しない。このゆがんだ商慣習の改善を、安倍政権が推進する「働き方改革」にも盛り込んでいただきたいと切に願う次第である。

同じような話では「顔合わせ」なる謎の風習についても触れなければならない。昔、かなり遠い地方都市に住む著名クリエーター(いわゆる“大御所”)から、次のようなエピソードを聞いたことがある。

その人物に企画に入ってもらうにあたり、東京の広告代理店のスタッフが9名、羽田空港→伊丹空港→地方空港→長距離タクシーというルートで打ち合わせのためにやってきたのだという。当然、日帰りはできない距離だ。

そのクリエーターは経験豊富なプロフェッショナルなのだから、最初のオファーやその後のメールなどでのやり取りを通じて、企画の骨格とアウトプットに関するイメージはできていた。にも拘わらず、単に「顔合わせ」のためだけに、9人もの人員が1泊2日の時間と費用をかけてやってきたのだ!

■コスト意識を持たない会社員は淘汰されよ

勝手に概算を出してみると、飛行機運賃は往復6万円×9人分、宿代は1万5000円×9人分、その他、「懇親会」と称する高級和食店での飲食費やタクシー代など諸経費が20万円──合計すると87万5000円である。加えて9人それぞれの2日分の人件費もある。役職なども加味し、1人1日平均7万円とすると合計で126万円だ。よって、この「顔合わせ」出張のために依頼側の会社が投じた金額は213万5000円になると推測する。

当のクリエーターは「わざわざこんな遠方まで、そんなに大勢でいらっしゃらなくてもいいのですが……」と恐縮していた。

バカ会社員は、外注先のコストを考えないばかりか、自社のコストまで考えないのだ。つーか「9人で行く必要がどこにあるのか。統括するプロデューサー級の人間と、実務に関する責任者のせいぜい2人で十分だろうよ」「全員できちんとあいさつしたいというなら、クリエーターが上京したときにでも機会を設ければ問題ないだろ」「別にSkype会議でも打ち合わせくらいできるんじゃねぇの」としか感じない。

コスト意識のない会社員はさっさと淘汰されよ、としみじみ思う。

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【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・「カネを払う」側の発注者と「仕事を頂戴する」側の受注者という関係性は尊重するが、だからといって発注者は受注者の時間や労力を軽視していいわけではない。
・「業界の重鎮」的な人間に忖度しすぎて、無駄な配慮を重ねることがいかに無意味か、冷静に考えるほうがいい。
・フリーランスの人間は、取引先の上位にいる「信頼できる人物」とできるだけ繋がっておこう。何かあったときは、彼らが力になってくれる。
・“バカ会社員”が起こす問題の多くは、コスト意識の欠如に起因している。

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中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。

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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎 写真=iStock.com)