■年内に済ませて、「不都合な真実」は忘れてもらおう

安倍政権は、年末によく働く。今年もそうだ。国会が10日に閉じた後は14日に米軍普天間飛行場の移籍先である名護市辺野古に土砂投入を決行。臨時国会で改正入国管理法が成立したのを受けて具体的な対応策を着々とまとめている。

なぜ年末によく働くのか。どうやら国民の評判の悪い話は、年内に片付けておこうということなのだ。来年は重要な選挙が続く。年末、年始をまたぐことで「不都合な真実」は忘れてもらおうという発想らしい。

2018年12月14日、土砂投入が始まった辺野古の埋め立て海域。(写真=時事通信フォト)

■土砂投入の中継は安倍政権の横暴さを印象づけた

辺野古への土砂投入は14日、午前11時になるのを待っていたのかのように始まった。マスコミは競うように、ヘリやドローンを使い、トラックに満載された土砂が沿岸部に投げ込まれるシーンを中継した。辺野古移設が新たな段階に入ったことを全国民に伝えるとともに、安倍政権の横暴さを印象づけた。

安倍晋三首相と玉城デニー沖縄県知事の協議は、平行線が続いている。政府部内には、辺野古移設の方針は変えないにしても、もう少し時間をかけて玉城氏と話し合ってもいいのではないか、という意見はある。9月30日の沖縄県知事選で40万票近い得票を得た玉城氏には沖縄県民の民意がついているからだ。

しかし、最終的には安倍氏の判断で、「粛々と」土砂投入が進められていった。

■「国会が閉じるのを待っていた」との疑念

12月、安倍政権は一般的には評判の悪いことを続けざまに行っている。

改正入管難民法は、議論が「生煮え」という批判が高まる中で審議を続け、8日未明に成立させた。そして法成立を受けた17日には、法成立を受けて政府の検討会で「総合的対応策」の案が提示された。

この件に関しては、内容のよしあしもさることながら「これだけのことを検討していたのなら、なぜ国会に示さなかったのか」という批判が出た。案が示されたのは臨時国会が10日閉会してわずか1週間後のことである。詳細を示して国会で逐一批判されると臨時国会での成立がおぼつかなくなると判断し、国会が閉じるのを待って出してきたと疑われてもしかたない。

■不支持率が支持率を上回る「危険水域」に

18日の閣議では、今後の防衛力整備の指針となる「防衛計画の大綱」と防衛装備品の見積もりを定める「中期防衛力整備計画(中期防)」を決定。海上自衛隊の護衛艦「いずも」を事実上空母化する方針を打ち出し、専守防衛を逸脱するのではないかという批判を浴びている。

当然のことながら、安倍政権の支持は落ちている。

共同通信社が15、16の両日に行った全国電話世論調査によると、内閣の支持率は42.4%で前月と比べて4.9ポイント減。ことし5月の調査以来、久しぶりに不支持率が支持率を上回った。不支持率が支持率を上回るというのは政権としては政権が「危険水域」に入ったことを意味する。

他の報道機関の調査も傾向は同じだ。毎日新聞の内閣支持率は4ポイント減の37%。日経新聞は4ポイント減の47%。読売新聞は6ポイントも低下して47%だった。

共同通信社の調査では、辺野古への土砂投入を「支持しない」が56.5%と過半数を占めた。また改正入管難民法を成立させたことも「評価しない」が65.8%だった。臨時国会終盤の運営や辺野古への土砂投入などの「12月の横暴さ」支持下落につながったのは言うまでもない。

■「年が明ければ状況は変わるよ」と余裕なワケ

しかし安倍氏は最近、周辺にこんなつぶやきをしているという。

「年が明ければ状況は変わるよ」

この余裕は、どこから来るのか。「危機感がない」と決め付けるのは早計だ。安倍氏も含め政府・自民党首脳は支持率の低下に神経をとがらせている。その上で、年末に世論の批判を受けそうな決断を繰り返しているのだ。

来年は政治決戦の年だ。4月に統一地方選がある。7月には参院選が控える。特に参院選は、憲法改正を目指して改憲勢力の3分の2維持を死守したい安倍氏にとっては負けられない戦いだ。

■どうしても忘れられない「2013年の成功体験」

だから、不人気政策は今年のうちに終えておいて、来年は安全運転で政権運営をしようと考えた。「年が変われば……」という発言は、まさに安倍氏の本音なのだろう。

安倍氏には「成功体験」がある。首相に返り咲いてから約1年後の2013年12月6日、安倍政権は国民の知る権利を侵害する恐れがあると批判を受けた特定秘密保護法案を強引に成立させた。さらに26日、安倍氏は靖国神社を電撃参拝した。靖国参拝は安倍氏の悲願だったが、アジア諸国の反発を懸念して世論は反発。国内の世論は傲慢さを増してきた安倍政権に対して厳しい目を向けた。

しかし、年末年始を超えて14年に入ると安倍政権は再び支持は安定していった。まさに「年が明けて状況が変わった」のだ。この時、安倍氏は年を越えれば国民は怒りを「忘れる」ことを学習した。

■国民が本当に忘れてしまうかどうか

年末に改正入管難民法を成立させたのも、辺野古に土砂を投入させたのも、来年19年の統一地方選、参院選を重視しているから。19年前半は、国民から批判を受けるような決断は行わず、国民受けするような政策を並べて選挙に備えることになるだろう。

問題は、来年の統一地方選、参院選の投票日、安倍政権が今年の12月に政権が行ったことを、国民が本当に忘れてしまうかどうか。期待に反して国民の記憶力が良かったら、2019年、安倍氏は手痛い思いをすることになる。

(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)