法人向け運賃の大幅値上げという「ヤマトショック」に乗じて、ネットスーパーから各社が撤退。この流れは今後も続きそう?

大手スーパーやコンビニが、ネットスーパー事業から次々と手を引いている。

ネットで注文すれば生鮮食品などを自宅まで届けてくれる利便性が売りだったが、今年2月末にファミリーマートのネット店舗「ファミマドットコム」が閉鎖したのに続き、8月末には肉、野菜、加工食品など約8000点を扱っていた「ローソンフレッシュ」も閉鎖。さらに、ユニーが「アピタネットスーパー」から撤退するとも報じられている。

ネットスーパーの事情に詳しい経営コンサルタントの竹内謙礼(けんれい)氏はこう話す。

「以前、視察をさせてもらった大手ネットスーパーの責任者は、『正直、この事業は儲からない』と言っていました。理由は明白で、単価の低い薄利多売の商品を、注文に応じて売り場から一個一個ピッキングし、梱包して自宅まで届けるというのは明らかに高コスト体質。注文品を宅配するのに1回当たり1000円近くのコストが発生します。

加えて、日本政策金融公庫の昨年の消費動向調査では、ネットスーパーの利用者は全体の7.2%にとどまるという厳しい結果に......。『ネットスーパー単体で黒字を達成している企業はほぼない』といわれるほど儲からないビジネスモデルなのです」

しかも、儲からないにもかかわらず、現場は大変な苦労を強いられているという。

「ネットスーパーでは自分の目で商品を確かめられないので、注文画面の備考欄に『曲がってないキュウリ』『脂身が少ない牛肉』『製造年月日が一番新しい豆腐』『程よく柔らかい新鮮なバナナ』などと細かく要望を書く人が多い。

注文に応じて店員が一個一個、売り場からピックアップする作業も大変ですし、要望に沿えないと苦情につながるケースも多く、現場の重荷になっているのが実情です」(竹内氏)

そんなネットスーパーが、なぜこれまで存続してきたのか? 竹内氏が続ける。

「高齢化社会が進行すれば、自分で買い物に行けない人が増えてネットスーパーはいつか黒字化する。そんな淡い期待が事業をムダに存続させてきた部分があります」

一方で、業界紙記者はこう見る。

「ネットスーパーには過疎地の高齢者の救済という"建前"があり、撤退すれば企業イメージにも関わる。引くに引けないというのが流通各社の上層部の本音だったでしょう」

だが、まさに今、ネットスーパーを手放す"チャンス"が到来しているという。

「昨年から、宅配便最大手のヤマトホールディングスが法人向け運賃の値上げ、それも4割から5割という大幅値上げに踏み切っています。その背景にあるのは、ヤマトのドライバーがアマゾンやネットスーパーの即日配送に泣かされ、疲弊している実態が散々報道されたことで、『値上げもやむなし』という世論が形成されたこと。この流れを受け、佐川急便なども値上げに追随し、今年春から物流費は高騰しています。

流通各社からすれば、この物流費の高騰は自社ではどうにもできない外的要因で、『仕方なくネットスーパーを手放す』理由として十分な説得力を持つ。今後も撤退の動きは続くでしょう」(業界紙記者)

ヤマトよ、ありがとう――。これがネットスーパーを展開する企業の本音かもしれない。

取材・文/興山英雄 写真/時事通信社