彼らの多くは借金を抱えて来日している(写真:EKAKI / PIXTA)

いま日本のカタチが変わろうとしている。

決して大げさな話ではない。おそらく後世の人にとって、2018〜19年は、国のあり方がはっきり変わった歴史的なターニングポイントとして知られているはずだ。これまで「移民政策は断じてとりません」と繰り返してきた政府が、“事実上の移民受け入れ”に向けて大きく舵を切ったのである。

今年6月の「骨太の方針2018」では、外国人に対して新たな在留資格を設けることなどが明らかにされ、2025年までに50万人超の就業を目指すことがアナウンスされた。

10月下旬から始まる臨時国会に関係法案が提出される。出入国管理法も改正される。来年4月の導入を目指す新たな在留資格は、更新を繰り返すことで実質的な永住が可能になる仕組みだという。

こうした矢継ぎ早の政策発表のウラにあるのは、深刻な労働力不足である。

2018年現在、最新の有効求人倍率は1.63倍。政府はこの数値を好景気の指標として使うが、要するに現場で人手が足りていない何よりの証拠だ。

政策と実態のねじれ

いま街で見掛ける外国人労働者のほとんどは留学生や技能実習生だが、彼らは本来的な意味での労働者ではない。

拙著『コンビニ外国人』でも詳しく取り上げているが、留学生はアルバイトであり(“就労”は不可)、技能実習生はその名のとおり技能を学ぶ実習生(英語で言えば「実習生」=「インターン」)だ。しかし、現実には合わせて50万人を超える規模の労働力として日本経済を支えている。

日本で暮らす外国人の数は2017年末の時点で250万人を超えた。これは名古屋市の人口(約230万人)よりも多い。そのうち労働者は約128万人で、さいたま市の人口(約126万人)に匹敵する。ともに法務省が統計を取り始めてから過去最高の数値である。都内に限っていえば、いまでは20代の若者の10人に1人が外国人という割合だ。

コンビニだけでなく、ドラッグストアやファミリーレストラン、ハンバーガーショップ、牛丼チェーンなどなど、さまざまな場所が働く外国人の姿であふれている。

もちろん世界的に見れば、日常的に外国人が多いという状況は珍しいことではない。だが、政府は「断じて移民政策はとらない」と明言してきたのに外国人労働者の数が増えている。これはいったいどういうことだろうか。

政府の方針をわかりやすくいえば、「移民は断じて認めないが、外国人が日本に住んで働くのはOK、むしろ積極的に人手不足を補っていきたい」ということだ。

留学生や実習生ではもう不足が補えず、いよいよ正面から外国人労働者の受け入れを決めたということだろう。しかし、ここに至るまでに十分な議論がなされたようには思えない。

とりあえず10月下旬からの臨時国会には注目だが、消費税率が3%→5%→8%、そして10%と段階的に高まってきたように、外国人労働者の受け入れ枠も(なんとなく)知らないうちに増えていくのかもしれない。

留学生が労働力不足を補う現状

本を書くにあたって、多くの“コンビニ外国人”に取材をした。そのほとんどが日本語学校か専門学校に通う留学生だった。

彼らは、「原則的に週28時間まで」のアルバイトが法的に許されている。「原則的に」というのは、夏休み期間などは週40時間のアルバイトが認められるためだ。学生がより長く働けるように長期休暇が多いことをウリにしている日本語学校もある。

週に28時間では時給1000円で計算しても月収は11万円ほどにしかならないが、世界的に見るとこの制度はかなり緩い。たとえばアメリカやカナダなどは、学生ビザでは原則的にアルバイト不可、見つかれば逮捕される。

つまり、コンビニなどでアルバイトをしている留学生は、学生であると同時に、合法的な労働者でもあるのだ。彼らも仕事を求めているし、現場からは労働力として期待されている。需要と供給を一致させているのは、日本の人口減に伴う深刻な人手不足だろう。実際、留学生の9割以上が何らかのアルバイトに携わっている。

いま日本は「留学ビザで(割と簡単に)入国して働ける国」として世界に認識されている。しかし、ここに大きな問題がある。

日本語学校などに籍をおく留学生の多くは、入学金や授業料、現地のブローカー(エージェント)への手数料などで100万〜150万円という金額を前払いする必要があり、その多くが借金を背負って来日しているのだ。

借金を返済するためには働く必要がある。だが、原則28時間という労働時間を守っていたのでは、生活費を賄うのがやっと。中には強制送還覚悟で法律を破って28時間以上働く留学生もいるし、借金を背負ったまま帰国する留学生も少なくない。

日本語学校を卒業して大学まで通い、日本で就職したいと願う留学生たちも、3割程度しかその夢をかなえることができない。

世界第4位の移民受け入れ国

ユネスコの「無形文化遺産」に登録された和食も、いまや外国人の労働力なしには成り立たない。コンビニに並ぶおにぎりや総菜は外国人が売っているだけでなく、製造工程においても多くの外国人の労働力に支えられている。

深夜の食品工場を見れば、外国人の割合が高く、和食に欠かせないダシのもととなるかつお節やコンブの加工工場、さらには漁船にもいまや技能実習生が乗っている。もちろん農家でも多くの実習生が働いている。

現実として、外国人労働者抜きに日本経済はもう回らない。わたしたちの生活は彼らの労働力抜きには成り立たない。

OECD(経済協力開発機構)の発表では、日本はすでに世界第4位の外国人労働者受け入れ国である(本の執筆時はまだ5位だった)。

国の政策とは別に、外国人との共生に取り組む自治体も増えはじめている。横浜市では独自にベトナムの医療系大学などと提携して、留学生を迎え入れることを決めた。近い将来、大規模な不足が予想されている介護職に就いてもらうための人材確保だ。留学に関する費用や住居費なども市が一部負担するという。


2010年から外国人を積極的に呼び込んでいる広島県安芸高田市の浜田一義市長はこう言っていた。

「今後、ウチのような過疎の自治体が生き残っていく道は世界中に外国人のファンを作ることだ。『ガイジンは苦手』と言っている場合じゃない。多文化共生は私たちの必修科目です」

個人としては、外国人の受け入れには賛成の立場だが、これまで国政レベルでも十分な議論がなされたとは思えず、彼らの生活保障に関する法整備など、受け入れの準備はほとんどされてない。このままなし崩し的に受け入れを進めていいものだろうか。

移民の問題を語るときによく引用されるスイスの小説家の言葉を最後に紹介する。

〈労働力を呼んだら、来たのは人間であった――〉