岐阜市の養豚場で豚コレラの感染が確認されてから、岐阜県内の狩猟者やジビエ(野生鳥獣の肉)関係者に不安が広がっている。野生のイノシシで感染確認が18日までに32頭あり、県内のジビエ処理施設では一部の地域でイノシシ受け入れ自粛が続く。養豚は移動制限が解除されたが、野生のイノシシは防疫が難しく自粛解除には基準がない。一部地域では11月1日のわな猟解禁の見送りが決まった。見守るしかない状況に戸惑いの声が上がる中、全国の現場では衛生管理の徹底を進める。(猪塚麻紀子)

 「11月の猟期までに終息してくれればいいが。全く先が見えない」。岐阜県本巣市の里山ジビエ会の近藤正男代表が残念がる。本巣市猟友会員らでつくり、ジビエの加工・販売をする同会。2016年に処理施設を造り、処理頭数と売り上げを伸ばしてきた。

 猟師が解体処理する手間を減らしたことで捕獲が進み、地域の農作物被害軽減にも貢献してきた。飲食店に提供できなくなるのが痛手だ。出荷する飲食店からは、他の産地に変えたいという声も聞く。

 狩猟歴55年の近藤代表は「数十年前には、豚コレラでイノシシがいなくなった」という。現時点で感染が確認されているのは、岐阜市、各務原市にとどまるが、繁殖期の雄が数十キロを移動することもあり、「猟師は山の中に入って状況を把握しなければ」と警戒を怠らない。さらに「現場への情報提供など、県にはしっかり対策を取ってほしい」と訴える。

 JAぎふは、ジビエ関係者を応援するため、積極的にPRする考えだ。JAは山県市の処理施設「ジビエ山県」に協力し、直売所での販売や飲食店への販路拡大を進めてきた。豚コレラは人に感染することはなく、仮に感染した豚やイノシシの肉を食べても人体への影響はないが、JA改革推進室の高橋玲司室長は「風評被害が心配だ」と気をもむ。

 JAは、消費者に食べて親しんでもらうことで風評被害を払拭(ふっしょく)しようと、11月に高富支店で開く農業祭で、しし汁の無償提供や鹿肉の販売を行う。豚コレラ対策を支援する募金箱の設置も検討している。高橋室長は「ジビエは地域おこしの起爆剤になる。応援していきたい」と見据える。

 岐阜県は、県内の一部地域のジビエ処理施設に当面の間イノシシの受け入れ自粛を求める。10日には発生農場から半径3キロ以内の豚や豚肉の移動制限区域が解除された。養豚場の安全性は確認されたことになるが、野生イノシシの感染は続く。このため県は、岐阜市などで調査捕獲を継続し、防護策設置などで対策する。

冷静な対応こそ


 これまでジビエの販売に力を入れてきた地域や近隣自治体も、冷静な対応に努める。島根県美郷町でイノシシ肉の加工と販売を手掛ける「おおち山くじら」では、取引する飲食店から今季のイノシシの取り扱いを中止するという声もあるが、一部にとどまる。石崎英治代表取締役は「今まで通りの衛生管理を徹底する」と認識する。三重県は、捕獲獣の体温を測って病気の有無を確認するなど独自の基準で品質・衛生管理を徹底する。

 イノシシは感染時のマニュアルなどがない。こうした状況に、農水省農村環境課は「感染の広がりなど状況を注視していく」としている。