目撃者や当事者が自ら世の中へ発信する時代になってきました(写真:flukyfluky)

2018年は、大きな自然災害が立て続けに起こりました。2月上旬には北陸地方で記録的な豪雪、4月9日に島根県西部地震、6月18日に大阪府北部地震、6月下旬から7月上旬に西日本を中心に全国各地を襲った集中豪雨、9月6日に北海道胆振東部地震、さらに大型台風が次々に上陸しました。

災害に加えて事件や事故も多く、ニュース番組やワイドショーでは毎日のように報じられていました。それらの番組を見たとき、「視聴者提供」というテロップが表示された動画が使われていることに気づかなかったでしょうか。

たとえば、豪雨で浸水した駅構内、竜巻で屋根が飛ばされた民家、着物レンタル業者「はれのひ」の閉鎖で途方に暮れる新成人たち、大相撲巡業中に舞鶴市長が倒れて土俵に上がった女性看護師を降りるように促したアナウンス、体操の宮川紗江選手に対するコーチの暴力、吉澤ひとみさんの飲酒運転ひき逃げ、大阪府警富田林署から逃走した容疑者の自転車旅。いずれも個人のスマホやデジカメなどで撮影した映像が番組に使われたものです。

これらの映像が使用されるたびにネット上では、「テレビ局の怠慢と番組の退化」「一般人に頼らずちゃんと取材しろ」などの批判が飛び交いますが、本当にそうなのでしょうか。

テレビ局の「怠慢」ではなく「進化」

前述した大半の動画は、災害、事件、事故に遭遇した一般人が撮影し、SNSなどのネット上にアップしたものであることは間違いありません。テレビ番組のスタッフが一般人に問い合わせ、承諾を得て動画を使用しているのです。

それが「怠慢」や「退化」かと言えば、答えはノー。災害、事件、事故が発生してすぐに撮影できる一般人と、発生してから現場に向かうスタッフでは、おのずと映像の内容は変わってきます。

また、映像の質は必ずしも高ければいいというものではなく、「ブレていたり、解像度が粗かったりすることで、かえって臨場感が伝わる」などのケースも少なくありません。発生直後の緊急性の高い映像と、到着後にプロが撮影した質の高い映像を併用することで、より速く、より正確な情報を伝えようとしているのです。

実際これまで災害、事件、事故の発生直後は、「現地に電話して一般人に話してもらう」というケースがほとんどでした。スマホが一般人に普及したことで、「これまでニュース番組やワイドショーでは見られなかった発生直後の映像が見られるようになった」のです。

もともとニュース番組やワイドショーのスタッフたちは、「自分たちで映像を撮影するべき」という思いを持っているものですが、このところ一般人の映像を積極的に探すようになりました。どちらかと言えば、「怠慢」や「退化」ではなく、「勤勉」であり「進化」。ニュース番組やワイドショーは現在も緊急時の重要ツールであるだけに、有益性アップを優先させているのです。

確かに、取材スタッフの人数を減らしている番組はありますが、それでも緊急性の高い映像は別物。「スタッフを総動員して視聴者に重要な情報を届けよう」という姿勢を持っているものです。あなたが賢明なビジネスパーソンなら、「怠慢」「退化」と叩くべきところではないことがわかるでしょう。

個人ジャーナリスト化がセーフティネットに

ニュース番組やワイドショーの姿勢が変わり、一般人の映像を求めている以上、「私も参加・貢献できるのか?」と考えるのが自然。「一人ひとりがSNSの個人アカウントでの発信だけでなく、メディアにも映像提供することで、より多くの人々と情報共有できる」という意識を持ちたいところです。

事実、2011年の東日本大震災でツイッターの有用性が明らかになって以降、災害が発生するたびにその様子を撮影し、ネット上にアップして情報共有する人が増えました。これは「フォロワーを増やしたい」などの自我というより、「困難な社会で共に生きていくための情報共有」という意識によるものでしょう。日ごろから心の中で「有事の際はすぐに撮影しよう」と思っているジャーナリスト感覚の人が増えているのです。

あなたが経営者にしろ、会社員にしろ、社会貢献という意義がある以上、「ビジネスパーソンがジャーナリストの一面を持っていてはいけない」ということはありません。もし本業への影響を恐れるのなら、ペンネーム(ジャーナリストネーム)を使ってもいいでしょう。

まずは有事に備える意識を持ち、遭遇したらすぐに発信すること。さらに、メディアから映像、写真、コメントなどの提供依頼があったら応じること。つまり、“一億総ジャーナリスト化”することが、増え続ける災害、事件、事故から私たちを守る日本全体のセーフティネットになるのです。

あなたも当事者や目撃者の一人

セーフティネットという意味は、台風や地震などの自然災害だけではありません。私たちの日常生活に起こりうる事件にも効果があるのです。

たとえば、山口達也さんの強制わいせつ疑惑、日大アメフトの悪質タックル問題、日本ボクシング連盟の不正告発、日本体操協会のパワハラ騒動など、今年世間をさわがせたニュースにも、各現場での当事者や目撃者がいたのではないでしょうか。

「もし当事者や目撃者がジャーナリスト感覚を持って発信していたら、ここまで状況は悪化しなかったのではないか」と感じてしまうのです。「自分のことではないから放っておこう」と思うかもしれませんが、「明日は我が身」であり油断は禁物。オンデマンドなどの便利化やカスタマイズ化が進んだ分、一人ひとりが「良く言えばマイペース、悪く言えばワガママ」な傾向が強くなりました。

迷惑隣人やストーカーに悩まされたり、何らかのハラスメントで訴えられたり……というリスクは、どんな人も否定できないでしょう。ただ、幸か不幸か現在、私たちが住んでいるのは、スマホ、タブレット、デジカメに加え、個人宅の監視カメラやドライブレコーダーなども発達した監視社会。一人ひとりの日常生活を守るためには、一人ひとりがジャーナリスト化することが欠かせない時代になりつつあるのです。

一方、テレビに限らず、ネット、新聞、雑誌など各メディアのスタンスは、総じてウェルカム。むしろ、「一般人の発信力をもっとコンテンツに生かせないか」「そのことで速く、正確で、臨場感のあるコンテンツにしたい」と考えているものです。

自分たちの生きる世界を安全なものにしていくために大切なのは、「僕は無関係」「私なんて」と思わないこと。メディアと個人を切り分けて考えるのは、もはや不自然であり、「自分もメディアの一人」という感覚を持てるかどうかが、一億総ジャーナリスト化のカギを握っているのです。

ただし、災害、事件、事故に遭遇したときは、身の安全を守ることが絶対条件。「被害者になってはいけない」のがジャーナリストの鉄則なのです。また、当然ながら、プライバシーに深く関わることや、名誉棄損のおそれがあることの発信には注意が必要でしょう。

あらゆる場所に潜む奇跡の瞬間

災害、事件、事故が多かった今年、ポジティブな意味で最も盛り上がったのは、スポーツ界の世界的なビッグイベント。ともに40%を超える高視聴率を獲得したことを踏まえても、2月の平昌冬季五輪と6月のサッカーワールドカップ・ロシア大会で間違いないでしょう。

また、近々の話題では、10月6日夜に放送された「オールスター感謝祭」(TBS系)で北川景子さんが「4分間まばたきをしない」というチャレンジに成功したことが、広く報じられました。

これらの共通点は、すべてライブコンテンツであること。ストックされた膨大なコンテンツをいつでも見られるようになり、SNSやアプリで多くの人々がつながれるようになったからこそ、ライブの緊張感と一体感が貴重なものになっているのです。

そのライブコンテンツは前述した通り、誰もがスマホなどで撮影し、メディアに提供できるもの。たとえば、小学生の体育大会、友人の結婚式、飲食店のパーティ、動物園のショーなど、どんな場所にも多くの人々で共有できる、幸せな奇跡の瞬間が潜んでいます。あなたがジャーナリスト化すれば、人々を喜ばせたり、役に立ったり、感心させたりできますし、メディアからの依頼があるかもしれません。

災害、事件、事故が頻発していること。ネットツールが発達したこと。ライブコンテンツの需要が高まっていること。どれを取っても、一人ひとりがジャーナリスト化しない手はないのです。