「入社が難しい有名企業ランキング」でトップになった三菱商事の本店ビル (撮影:梅谷秀司)

経団連は10月9日、「採用選考に関する指針」を策定しないことを決め、就活ルールの廃止を決めた。

今後は国が主導して、就活ルールを作成していくことになる。2020年卒は現状が維持されるが、2021年卒業生(今の大学2年生)から、現行の「3月企業説明会開始」、「6月選考開始」というスケジュールが変わる可能性がある。就活ルールの廃止となれば、就活の早期化や長期化は避けられず、学業への影響も大いにありそうだ。


ただ、現状でも6月以前に内定を出す企業はあり、特に外資企業やIT企業など、経団連に加盟していない企業が先に内定を出している。ルールが形骸化しつつある中、どんなルールを決めても、いつも同じことは起きている。優秀な学生を獲得したい企業にとって、就活ルールは足かせになっている面も否定できない。売り手市場の現在、企業の採用が活発なことも背景にあるようだ。

採用者の出身大学から”入社難易度”を算出

学生にとって就職は大きなイベントだが、大学・学部選びを行う受験生、保護者にとっても、それは同じだ。就職の状況を考えながら、入学する大学や学部を選んでいくのは、当たり前のことになっている。高校でもキャリア教育が行われ、就職に対する意識は高い。

その中で、有名企業には、どの程度の難関大学の学生が入社しているのか。それを知るために、企業ごとの「入社難易度」という指標を今年も作成した。

難関大学かどうかの評価は、やはり大学受験時の難易度がもとになっているだろう。そこで駿台予備学校の協力を得て、同予備校の模試の難易度を使用、さらに大学通信が各大学へのアンケート調査から得られた有名企業416社への就職者数と合わせ、入社難易度を算出した。この416社は、日経平均株価指数の採用銘柄や会社規模、知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に選定している。

算出方法は次の通りだ。今年の各大学・学部の難易度について、医学部と歯学部を除いて平均した値を各大学の難易度とする。仮に、A社の就職者が東京大学5人、慶應義塾大学3人、上智大学3人だったとする。東京大学の学部平均難易度は67.8で、全大学で最も高い値だ。慶應義塾大学は65.5、上智大学は61.7になる。

ではA社の平均入社難易度を求めてみよう。(東京大学67.8×5人+慶應義塾大学65.5×3人+上智大学61.7×3人)÷(5人+3人+3人)=65.509≒65.5になる。この値をA社の「入社難易度」としている。

就職判明者が10人以上の企業に絞り、ランキングにしたのが、「入社が難しい有名企業ランキング」だ。もちろん採用者すべての出身大学が判明しているわけではない。しかし、企業の採用総数が分かっている企業に占める、大学別就職者の判明率は85%に上る。同率で順位が異なるのは小数点第2位以下の差による。

では企業別の表を見ていこう。トップは三菱商事の63.8だ。昨年の5位からトップに躍り出た。大学別就職者数を見ると、一番多いのが慶應義塾大学の39人、次が早稲田大学27人、以下、東京大学24人、京都大学13人、一橋大学9人と続く。この5大学で採用総数の6割以上を占める。駿台教育研究所進学情報事業部の石原賢一部長は「難易度が63.8というのは、大学入試でいうと早稲田大学の商学部くらいの難しさになるのでしょう」と語る。

三菱商事・三井物産・伊藤忠がトップ5内

2位は三井物産の63.2で、昨年の16位から躍進。4位が伊藤忠商事の62.9となった。総合商社の強さが際立つ。

5大商社の内、3社がトップ5に入っているが、住友商事が6位、丸紅が7位と、すべてトップ10に入った。企業の採用支援を行っているワークス・ジャパンの清水信一郎社長は「難関大学の学生に総合商社は人気で、就活の軸にしようとの考えがあります。商社のインターンシップが面白いことも要因でしょう。ただ、双日は51位、豊田通商は61位で、5大商社との差が大きくなっています」と言う。

人気の商社と言っても、高校時代には周りに勤めている大人がいない限り、どのような仕事をするかはわからなかっただろう。大学入学後、先輩や卒業生をインターンシップで知ることになり、就活では人気の的になっている。学生の人気企業ランキングでも総合商社はつねに上位だ。

3位は不動産の三菱地所だ。他の不動産の会社も上位に進出しており、三井不動産14位、東京建物16位、東急不動産29位で、入社難易度は高い。採用人数が少ないうえに、難関大学からの採用が多いと、このような高い入社難易度になると見られる。難関大学の学生の中には、大量採用の企業よりも、同期の顔が見える採用の少ない企業を好む傾向もあるという。不動産業界では住宅やマンション販売中心のところもあるが、やはりデベロッパー企業の人気が高い。

マスコミは試験があり、少数採用のため、難関大からの就職者が多くなる。ただし、入社難易度の変動も大きい。新聞社では日本経済新聞社が5位で62.8で、昨年と変わらず新聞社でトップ。次が23位の朝日新聞社、36位の読売新聞社の順だ。

出版では3大出版社の1つで、昨年トップの集英社が11位に後退、講談社も3位から13位に後退した。一方で小学館は38位から22位にアップしている。目立ったのはKADOKAWAのランクアップである。昨年の79位から12位にアップした。ドワンゴと経営統合したことで、コンテンツビジネスの展開に期待が高まっているようだ。

メーカーや銀行の入社難易度はそれほど高くない

テレビ局では日本テレビ放送網が昨年の28位から10位とトップ10入りしている。TBSテレビが15位で、テレビ朝日は昨年の19位からダウンして34位となった。NHKは48位となっている。ワークス・ジャパンの清水社長は「就活が本格化する年明けすぐに、箱根駅伝を朝からずっと生中継している日本テレビに対し、テレビ局を目指す学生にも響くのでしょう」と分析する。


かつては大学入試の出願直前ということもあって、箱根駅伝は志願者集めに有効との評価もあったが、今はそれほどでもない。1月1日の午後から、受験生は受験勉強モードになるからだ。

一方、学生の人気に陰りがみられる銀行の入社難易度は、それほど高くない。トップの三井住友信託銀行が59.3で74位、日本銀行が昨年の153位からアップしたといっても81位だ。メガバンクでは三菱UFJ銀行が165位。まだまだ一般職を多く採用しており、多様な大学から人材を集めていることが影響していると思われる。

総じて入社難易度が高くならないのがメーカーである。駿台教育研究所の石原部長は「地方の国公立大工学部からの採用が多いからかもしれません。地方国公立大の工学部は入りやすく、難易度が高くないからです」と言う。今年、最も順位を上げたのが、メーカーの古河機械金属だ。昨年の341位から177位にアップした。「古河気合筋肉」と社名をもじった採用広報が成功し、難易度が高い大学から学生を集めることができたようだ。

業種別の入社難易度も見てみよう。4社以上の業種だけを取り上げているため、ランキングには出てこないところもある。

トップは昨年の4位から上昇した広告だ。17位の電通がトップだが、20位に博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ、86位にアサツーディ・ケイが入っている。

2位以下は放送、石油・鉱業、商社の順で、ここまでが入社難易度60超。その次に新聞、出版、化学、通信と続く。416社の平均入社難易度55.4とかなり高い。平均難易度が55.4を上回る大学は、防衛大学校や気象大学校を除くと、47校に過ぎない。有名企業の採用は、上位大学の寡占状態であることは間違いないようだ。