Jリーグ27節、ヴィッセル神戸戦に集まった観衆は55689人。埼玉スタジアムで行われる浦和戦の平均観客数が3万人程度なので、通常より2万人以上も多い観衆が来場したことになる。イニエスタ恐るべしである。

 ところが、来てみてビックリ。スタメン表にその名前はなかった。すっかり肩すかしを食った格好だが、イニエスタ好きである前にサッカー好きなので、試合がその不在を補ってあまりあるよい内容ならば、気を取り直すことはできたはずだ。

 結果4-0。浦和の圧勝に終わったが、勝者を褒めたくなる試合ではなかった。ひとえに神戸がダメすぎた試合。試合内容も限りなく低調だった。勝った浦和ファンはともかく、イニエスタ見たさにやってきた、いわば中立のファンにとっては救いのない試合となった。

 この試合をスタンド観戦していたという神戸の新監督就任、フアン・マヌエル・リージョも、さぞや気分を害されたに違いない。イニエスタ見たさにやってきた観衆より、落胆した可能性さえある。現在、神戸で暫定的に采配を振っている林健太郎監督は試合後、こう述べた。

「ボールを持ち続けるというコンセプトがこのクラブにはある。浦和相手にそれがどうやったらできるか」

 その結果、出た答えは3-3-2-2的な3-5-2。林暫定監督は、4-4-2あるいは4-3-3で戦った吉田孝行前監督時代とは大きく異なる布陣を用いて戦った。対する浦和の布陣も3-3-2-2的な3-5-2。両者は同じ布陣で戦った。

 3バックには概して5バックになりやすい傾向がる。もちろん例外もある。なりにくい3バックもあるが、両者の3-5-2は5バックになりやすい3バックと言えた。けっして攻撃的ではない3バックがピッチ上で相まみえた結果、試合はどうなったか。

 5バックになる頻度が高かったのは断然、神戸だ。つまり神戸は守備的サッカー度で浦和を上回った。ボール支配率で上回ったのは神戸だが、これは浦和が後半8分まで3-0とした試合展開と大きな関係がある。

 神戸のボール運びは、先に行くほど細くなるクリスマスツリー型似の二等辺三角形を描いた。真ん中でボールを奪われ、逆襲を食らうという悪循環を繰り返した。

 ボールを持ち続けるというコンセプトとは、バルセロナを真似たつもりだろうが、そのために5バックになりやすい3バックを選択した林暫定監督の采配に疑問を覚えずにはいられない。少なくともバルサはそのような選択はしない。「ボールを持ち続ける」という言い回しにしても、バルサのそれは、相手陣内という高い位置で行おうとしているわけだ。そして、ボールを奪われたら、可能な限り速く奪おうとする。5バックになりやすい=後ろで引いて構えるサッカーで、バルサ的なサッカーを実現することは難しいーーとは、イロハのイ。少なくともスペインでは、正解率70%を越える常識問題に相当するだろう。

 それをなぜ間違えてしまうのか。暫定監督だから仕方がないといえばそれまでだが、とはいえ、S級ライセンスは取得しているはずだ。

 林暫定監督は後半8分、3点目のゴールを奪われると3-5-2から布陣を従来の4-4-2に変更した。反撃に転じようと、攻撃的に変更したと考えるのが自然だ。とすれば、それ以前はあまり攻撃的ではなかったことを証明したことになる。なぜ、バルサ的サッカーを志向するチームが、試合の頭からこのサッカーをしなかったのか。

 しかもこれは、リージョが見ていた試合だ。バルサのサッカーを熟知する人物に見られていたのに、このような采配を振ってしまったわけだ。本当に解せない。というか、心配になる。リージョ新監督が困惑する様子が容易に想像できる。来日していきなり、それとは真逆のサッカーを見せられてしまったショックはさぞ大きかろう。