グーグルが2017年に発売したスマートフォンpixel 2(ピクセル2)」。背面下方にグーグルブランドであることを表す「G」の文字がある(写真:AFP/アフロ)

「ついにピクセルが日本にやってくる!」

米グーグルが10月にも自社開発のスマートフォン「ピクセル」を日本に初投入する。9月13日、日本経済新聞が報じた。この知らせに、ツイッターなどのSNSでは、興奮気味なガジェットファンの声が相次いだ。グーグル日本法人は「当社が発表したものではない」(広報部)としている。

ピクセルは、グーグルが初めて「メーカー」として2016年に発売したスマホだ。現在、アメリカやヨーロッパのほか、アジアの一部で販売されているが、これまで日本での発売は見送られてきた。日本語対応などの課題があったとみられる。

それまでグーグルは自社ブランドとして「ネクサス」シリーズを展開し、複数のスマホメーカーが製造してきたが、ピクセルは「Made by Google(グーグルによって作られた)」というキャッチコピーを掲げ、自社製であることを強調している。ただ本格的な自社での開発経験のない同社は、台湾のスマホ大手・宏達国際電子(HTC)との共同開発という形を取った。

来月には「ピクセル3」を発表か

グーグルは昨年10月にハードウエア製品群の発表会を開催し、カメラなどの機能をアップデートした「ピクセル2」をお披露目した。今年も10月9日にアメリカ・ニューヨークで同様のイベントを予定しており、「ピクセル3」を発表するとみられる。ここで日本発売にも言及する可能性がある。

オープンソースのスマホOS「アンドロイド」を開発し、世界中のスマホメーカーとのエコシステムを築いてきたグーグルが、なぜ自社製スマホを展開するのか。

「自社でスマホを手掛けることによって、ハードウエアとソフトウエアがユニークに織り混ざった体験、最良の“グーグル体験”を提供できる。ここ数年で大きく進化した機械学習やAIの技術によって、グーグルとして差別化できるハードウエアを出せるようになった」。今年5月、グーグルの開発者会議「I/O」で取材に応じたハードウエア部門バイスプレジデントのスヴィア・コタリ氏からは、そんな答えが返ってきた。

たとえばカメラ。近年のスマホは写真の遠近を鮮明に表現するため、2つのカメラを搭載していることが多いが、ピクセルは1つだけだ。人物や物体をきれいに撮るには、背景の“ぼけ”が重要になる。

ピクセルの場合、カメラが写している風景の中で、何が近くて何が遠いかを認識するアルゴリズムが組み込まれており、どの部分をぼかせばいいかを自動で判断する。数百万枚の画像を読み込ませ、グーグルの機械学習技術によって実現した。“ぼけ”の処理はクラウド上ではなく、このカメラのために自社開発した半導体チップが行っているという。


風景の中の物体の遠近を機械学習のアルゴリズムで認識し(右側の図)、被写体の背景をぼかす(記者撮影)

会話型AI「グーグルアシスタント」に関しても、他社製のアンドロイド搭載スマホよりもいち早く新機能を搭載している。たとえば、建物や植物をカメラで写せばすぐにその名前や情報を示してくれるAR(拡張現実)機能の「グーグルレンズ」がそうだ。

また、スマホを強く握ると自動的にアシスタントが起動する機能もピクセルが初搭載だ。「われわれ自身のデバイスに最初に導入し、ユーザーに使い方や利便性を示したい」(コタリ氏)。

グーグルが挑むiPhoneの牙城

現在アメリカなどで販売されているピクセル2の価格は、5インチのディスプレーを搭載した通常版が649ドルから、6インチの大画面を搭載した「XL」が849ドルからと、ハイエンドな価格帯だ。


グーグルのハードウエア部門バイスプレジデントのスヴィア・コタリ氏。机に置かれているのが「ピクセル2」、傍らにあるのがノートPC「ピクセルブック」だ(記者撮影)

透けて見えるのが、アップルの「iPhone」への対抗である。コタリ氏は、「ピクセルはアンドロイドスマホのベストなプレミアム体験を提供する。もちろん、iPhoneなどの(プレミアムセグメントにある)他製品との競争にも勝てると考えている」と自信を見せる。

「日本は非常に重要なマーケットだ」。アンドロイド部門の製品管理バイスプレジデントを務めるサミール・サマット氏はそう語る。アンドロイドのスマホOSシェアは世界だと約85%だが、日本では約52%と低い。残りの約48%をアップルの「iOS」が握っているためだ(IDC Japan調べ)。今回報じられた日本での発売が実現すれば、アップルの牙城を攻められるとの狙いもあるだろう。

グーグルはここ数年、ハードウエアビジネスの拡大に熱心だ。コタリ氏によれば、この間、さまざまな部門に散らばっていたハードウエアの事業部を1つの部門に集約した。さらに今年1月にはピクセルの共同開発パートナーだったHTCのスマホ事業の一部を、11億ドル(約1230億円)で買収した。同事業に在籍する技術者約4000人のうち半数がグーグルに移籍。HTCのスマホを中心とした特許についても、グーグルがライセンス提供を受けている。

ハードウエア製品群を急拡大中

昨年のハードウエアの発表会では、製品群が大きく広がった。ピクセル2だけでなく、機械翻訳機能を搭載したイヤホン「ピクセルバズ」や、PC用OS「クロームOS」を搭載したノートPC「ピクセルブック」、AIが撮影すべき“決定的瞬間”を認識するカメラ「クリップス」などが披露された。ハードウエアとAIを組み合わせることで広がる可能性をアピールした。


グーグルはスマホだけでなく、イヤホンやノートPC、カメラなど、AIの機能をアピールするハードウエア製品群を広げている(記者撮影)

「毎年のように人々がエキサイティングな新製品を開発するのは、ますます難しくなる。ハードウエアだけの進化では限界があるからだ。だからグーグルは大きく異なるアプローチを取る。次の大きなイノベーションはAI(人工知能)とソフトウエア、そしてハードウエアが交わるところでこそ起こるからだ」

かつてグーグルが買収した携帯電話メーカー・モトローラの元CEOで、現在ハードウエア部門を統括するリック・オスターロー上級副社長は、発表会でそう語っていた。

前出のハードウエア部門バイスプレジデントのコタリ氏は、「われわれにはこのビジネスを大きくしたいという野望がある。ハードウエアは必ず、将来の収益成長の重要な部分を占めるようになる」と断言する。

グーグルはこの9月に創業20周年を迎えた。検索エンジンから始まり、広告で莫大な収益を稼ぐインターネットカンパニーは、人間の手が触れる現実世界にも急速に入り込んでいる。この勢いは、まだまだ止まりそうもない。