お金に苦労せず、幸せに生きていくことを目指すこの連載。今回は田町りょう子さん(仮名・32歳 ・IT関連会社勤務)からの相談です。

「結婚します。子供ができるまでは共働きする予定です。そのあとのことはまだ考えていませんが、私が働けなくなる場合もあると思っています。共働きの間は、お互いに生活費をひとつの通帳に同額入れて、家計をやりくりしていこうと思っています。残った分は、お互いのお小遣いというわけです。でも、旦那さんの給与だけで家計を賄うことになった場合のことが心配です。旦那さんのお小遣いはいくらにすればいいんでしょうか」

家計を預かるって、仕事と同じくらい責任重大。悩んでしまいそうですよね。旦那さんのお小遣いは、どのように決めたらいいのでしょうか。さっそく、森井じゅんさんにお答えいただきましょう。

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夫の小遣いの一般的な相場はいくらですか?

相談者さんは、結婚後のお金の管理についてはある程度決まっていて、子供ができた後の家計の管理方法について検討していらっしゃるようですね。妻がお金の管理をして、夫にお小遣いを渡す、という形を想定されているようです。

日本の家庭で多くみられる「夫のお小遣い制」は、お給料の手取り全てを家庭に入れ、その中から自由に使えるお金、いわゆる「お小遣い」を分ける、というものです。相談者さんは、「夫のお小遣いをいくらに?」とおっしゃっていますので、ここでは、相談者さんが夫の収入の全てを妻が管理する形を想定します。

一般的な相場について、新生銀行の「2018年 サラリーマンのお小遣い調査」の結果を参考にしてみましょう。男性会社員全体のお小遣いの平均は3万9,836円という調査結果となっていますが、既婚や未婚、子供の有無、妻の就業状況等で、その数字は変わってきます。

例えば、既婚で子供のいる男性会社員のうち、妻が働いていないケースのお小遣い額の平均は3万5,664円となっています。

相談者さんは子供ができたあと、夫の収入一本になった後のことを考えていらっしゃるので、後者がお知りになりたい数字でしょうか。相談等でお聞きする話の中では、手取りの1割、といった数字が多いようです。

また、どれくらいの家庭がお小遣い制にしているか、という調査は複数あり、その数字は4割から6割となっているようです。

日本の家庭に「夫の小遣い制」が多いのはなぜ?

海外であまり聞くことのないお小遣い制ですが、先ほど挙げた調査の結果や、さまざまな相談から、日本ではメジャーな管理方法ともいえそうです。ところで、なぜ日本ではお小遣い制が多いのでしょうか?

大きく3つ、考えられます。  

まず1つ目は、家庭の中の妻の役割です。「夫は外で働き、妻は家庭を守る」といった考えは少しずつ変わってきているようですが、やはり経済的な面で夫が大黒柱という家庭が多いです。特に子供が生まれた後は、子育てを含めた家庭のことは女性が期待される役割が多く、実際にその役割を担う事が多いです。

実際、内閣府のデータでは、第一子出産後も仕事を継続するのは全体の4割未満です。また、育児休業の利用もなく継続するのはたった1割程度です。つまり、出産を機に、多くの女性が一時的にまたは長期的に仕事を離れる、というのが現在の状況です。多くの大黒柱である夫が、仕事において長時間労働を求められる中、家庭を守り比較的時間の融通 が利きやすい妻がお金を管理する、という形がフィットしやすい面もあるでしょう。  

もう1つの理由が、現金払い主義です。

日本では、主に現金を使う人が約60%、その他のクレジットカードや電子マネーなどの電子決済が約40%と言われています。クレジットカードやデビットカードなどの利用が大きくなると、引き落としのタイミングやお金の流れが複雑になるため、お小遣いとして管理することが逆に難しくなります。一方、現金を主に使う場合には、今いくらあって月末までいくら、といった把握が容易です。そのため、現金払いがメインの家庭はお小遣いが馴染みやすいとも言えます。

そして、3つ目の理由が、貯金をしたいけど手取りが増えないことです。   

ここ15年程、社会保険料や税金の増加により、同じ給与であっても手取り額は減少する一方です。例えば、年収800万円の家庭ではこの期間で約60万円手取りが減少しています。たとえ少し給料が上がったとしても、ほとんど手取りが増えない、むしろ減っていくと感じている人は少なくありません。
 
一方で教育費や老後不安で、準備したい金額は増大し続けています。家計は入ってくるお金が増えないのであれば、支出を減らすしかない、となってしまいます。結果として、自由につかえるお金、つまりお小遣いを一定額に制限して1円でも多く貯金に回したいという家庭が多いのです。

お小遣い制にする場合に注意したいこと

ご質問にあったので、例として平均的な夫のお小遣いの額などを引用しましたが、平均額がいくらだから、平均的な割合がこうだからといった理由で金額設定をするのは望ましくありません。

どう生きていきたいか、将来についてしっかり話し合ったうえで、2人が納得できる金額に設定することが重要です。何より、片方に任せきりにしないことが大切です。 片方に任せきりになると、家庭としての意識が希薄になり、自分が損しているのではないかと疑心暗鬼になりがちだからです。  

「夫がお財布から私のお金を抜いているようなのですが」という相談を受けたことがあります。妻側は家庭のお金を「私のお金」と考えてしまっており、夫は「自分が稼いだお金だからどうしようと勝手」と、全くかみ合わない状況でした。妻は「夫からお金を守る」こと、夫は「妻からお金を取り返す」ことに力を注いでいたのです。

これは十分な話し合いがなかったことが原因で、お互いに不信感でいっぱいになっていました。不信感によるストレスからお互いに浪費もあり、貯金もほとんどありませんでした。

夫婦で一緒にお金を使っていくのであれば、生き方・目的を共有していて、夫婦が同じ方向を向いていることが理想です。  家庭内で争うことは、勝っても負けても家庭としてプラスになりません。争いにならないようにしっかり話し合う必要があります。

家庭のお金の管理方法は、お小遣い制だけではありません。もしお小遣い制にする場合には、「どこまでをお小遣いでまかなうのか」決めておきましょう。趣味など個人的なところは分かりやすいですが、昼食代や洋服、ガソリン等、状況によっては線引きが難しいものも出てきます。ライフスタイルや職場環境は、昼食や飲み会代などに影響し必要なお金は変わってくるでしょう。

あいまいな線引きでお小遣いを設定すると、ちょこちょこと足りない分を出すようなパターンに陥りがちです。そういった状況では、お小遣い制にするメリットは享受しにくく、デメリ ットのほうが大きくなってくるでし ょう。細かなメリットデメリットは次回以降でお話します。     

また、一度お小遣いの金額を決めてもそれでおしまいではありません。家庭のためのベストを考えて見直していく必要もあります。例えば気軽に利用できてしまうカードローン等には注意しましょう。
安易なカードローン利用は、家庭として明らかなマイナスです。   お金を借りなければいけない状態であれば、それは家庭として何かを変えなければいけない、家計を見直さなくてはいけない状況です。
日本でもクレジットカードや電子マネーを使う機会が少しずつ増え、現金との併用で お金の出入 りが複雑になってきています。実際、お財布の現金は減らなくても、電子マネーの残高が減っていたり、クレジットカードの利用額が大きく膨らんで翌月、翌々月になって問題が表面化することもあります。こうしたカードの利用についてもブラックボックスにしないよう、夫婦で話し合いができる仕組みづくりをしましょう。

お金で揉めない家庭づくりのために、「夫の小遣い」はしっかり相談して額を決めましょう。



■賢人のまとめ
「夫のお小遣い制」は日本の家庭に多いしくみですが、「相場がいくらだから」といった理由で金額設定をするのは望ましくありません。夫婦でどう生きていきたいか、将来についてしっかり話し合ったうえで、2人が納得できる金額に設定することが重要です。また、お小遣い制にする場合には、「どこまでをお小遣いでまかなうのか」をしっかり決めておきましょう。ちょこちょこと、足りない分を補填するパターンになれば、お小遣い制にするメリットは享受しにくく、デメリットのほうが大きくなってきます。

■プロフィール

女子マネーの達人 森井じゅん

1980年生まれ。高校を中退後、大検を取得。レイクランド大学ジャパンキャンパスを経てネバダ州立リノ大学に留学。留学中はカジノの経理部で日常経理を担当。

一女を出産し帰国後、シングルマザーとして子育てをしながら公認会計士資格を取得。平成26年に森井会計事務所を開設し、税務申告業務及びコンサル業務を行なっている。