長年偲んできた最愛の人が眠るお墓が実は何も埋葬されていないことが発覚したら、どのようにして気持ちに整理をつけて良いか混乱してしまうことだろう。このほどイギリスで30年間、自分の娘が安らかに眠っているとばかり思っていた墓が空であったことを知った男性の悲劇のニュースが届いた。『Manchester Evening News』『New York Post』などが伝えている。

マンチェスター南部の墓地で長年、娘の墓を偲んできたジョージ・ソルトさん(George Salt、57)は、最近になってその場所に娘が埋葬されていないことに気付いた。

ジョージさんの娘ヴィクトリアちゃんは今から30年前の1988年7月、生まれてからわずか2日後に亡くなってしまった。それ以来ジョージさんは年に2回ほど、娘の墓へお参りに訪れていた。

しかし最近、墓地を訪れたジョージさんは同じ場所にあるはずの墓石が見当たらないことに気付いた。「いったい墓石はどこに?」と思い辺りを見渡すと、ヴィクトリアちゃんのお墓から10フィートほど(約3メートル)離れた場所に公共墓地のエリアがあった。

その場所にある墓石を確認すると埋葬された17名の名前が連なっていたが、そこにヴィクトリアちゃんの名前が記されていた。なんとヴィクトリアちゃんの墓石は埋葬された場所から離れたところに移されて30年もの間、間違った場所に墓石が置かれていたのだ。それが最近になって、何者かにより現在の正しい場所に戻されたようだった。

ジョージさんのショックは大きかった。今まで娘がそこにいると思いながら30年も通い続けて来たのに、実は空の墓だったというのだから無理もない。

今回の件をマンチェスター市議会に訴えたところ、どうやら1980年代頃に墓地管理サービスのスタッフがなんらかの理由で墓石を一旦移動させ、そのまま元の場所に戻さず放置していたというのだ。

そして今年1月に亡くなった人が、すでに公共墓地に眠る自分の子供と一緒の場所に埋葬されることになった。その時に墓石が間違った場所にあることに気付き、記録をチェックした墓地管理サービスが元の場所に戻したのではないかということだ。

市議会の議長は「墓石がいつ、何のために移動され、それがなぜ元に戻されなかったのかは今のところ分かっていない」と話している。ジョージさんにおいては次のように語っている。

「もう、なんて言っていいか分かりません。体が崩れ落ちる感じがしました。私は30年間、墓石のある地中に向かって娘に話しかけていたのです。でもそこに娘は眠っていなかったなんて。」

「誰もいなくて何もないところに話しかけていたなんて、考えられます? 私の家族や友人もあまりに信じられないことだと話しています。ちょっとしたことですが、今回の件は関係者の誰もが気をつけることができたはずだ。」

「ヴィクトリアのお参りに来ていたのは私だけでした。娘の母親はオーストラリアに引っ越してしまったので…。ヴィクトリアはセント・メアリー病院で生まれて間もなく亡くなりました。それは私にとってトラウマ的出来事となっていました。それでも私は30年間、娘を偲んでいました。しかし今回の件はまったく酷すぎる。」

これに対し、市議員のルスファー・ラーマン氏(Ruthfur Ra​​hman)は以下のように述べた。

「私達はソルトさんの気持ちをきちんと受け止め、引き続き心からお詫び申し上げたいと思います。」
「この墓地には20万件もの墓があり、私達はきちんとケアをしていくように努める所存です。公共墓地については30年間、間違いを放置していた状態でした。なぜ墓石が移動されたのは分かっていません。今は彼女の眠る場所に墓石は戻されています。」

市議会からの謝罪はあったものの、ジョージさんが我が娘を偲んで語りかけていた30年もの日々が戻ることはない。彼の心の傷が癒えるのはまだ先のことであろう。

画像は『Manchester Evening News 2018年8月9日付「A dad has been grieving for his daughter at empty cemetery plot for 30 years - as headstone was put in wrong place」(Image: Manchester Evening News)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 MasumiMaher)