MAYA SYSTEMが、クラウドSIMを内蔵した「jetfon」を発表しました。発売は8月を予定。価格は、税抜きで3万9800円になり、全国の家電量販店で販売します。8月1日からは、予約も開始されます。

クラウドSIMという単語になじみのない方も多いと思いますが、これは組み込み型で、かつ書き換え可能なSIMカードの一種。中国・深センに拠点を構えるuCloudlinkが開発した仕組みで、サーバー側には、大量のSIMカードが挿してあり、この情報を端末にダウンロードします。端末側は、あたかもそのSIMカードを挿しているかのような状態になるというわけです。

SIMカードそのものをクラウドに置いてあるという意味では、まさにクラウドSIMという名称がピッタリの技術といえるでしょう。技術的にはApple Watch Series 3などに採用されるeSIMに似ていますが、携帯電話事業者の業界団体GSMAが策定した標準仕様に則っているわけではなく、あくまでuCloudlinkの独自技術となります。関係性という意味合いでは、Appleが自前で実装したApple SIMと関係性は近いといえるでしょう。

▲端末に内蔵されたクラウドSIMに、各国の通信事業者のデータを書き込んで使用する

このクラウドSIMは、スマホに先駆け、Wi-Fiルーターに採用されてきました。日本では、uCloudlinkから端末を調達した各企業がそれぞれのブランドをつけて販売しており、MAYA SYSTEMもその一社として「jetfi」を展開してきました。メジャーなところでは、ソフトバンクのサブブランドであるワイモバイルも、「Pocket WiFi 701UC」に、uCloudlinkの端末を採用しています。

▲クラウドSIM内蔵のWi-Fiルーターは、さまざまな事業者が展開。レンタル事業者も採用する

MAYA SYSTEMが発売するjetfonは、スマホタイプの端末に、このクラウドSIMが内蔵されたものになります。SIMカードスロットも搭載しており、国内で普段使いするSIMカードも挿せるため、出張や旅行で海外に出かけたときだけ、クラウドSIMをオンにするという使い方が可能。料金はもっとも安いアジア圏で、1日380円からと安く、維持費用もかからないため、気軽に持つことができます。

1日380円という料金は、値下がりしている国際ローミングよりも割安。ドコモやauは、24時間980円で契約しているデータプランから容量が引かれるデータローミングを提供していますが、それらと比べても600円ほど安く使えます。300MBまでという制約はあるものの、スマホで調べ物などに使うだけであれば十分な量といえるでしょう。1週間1GB、30日3GBというプランも用意されており、まとめて購入しておけば、もっと割安に使うこともできます。

▲1日380円からと、キャリアの国際ローミングと比べても割安。7日、30日プランも用意


▲欧州などは1日580円からと少々割高になるが、それでも国際ローミングよりは安価になる

MVNOでは、国際ローミングのデータ通信が提供されていないことがほとんどのため、海外で現地のSIMカードを買うか、日本で国際ローミング用のSIMカードを用意しておかなければなりません。大手キャリアのように、現地に着いたら即ローミングというわけにはいかないのです。jetfonは、こうしたMVNOの弱点を補完するのに、いい端末といえます。

▲普段はMVNOのSIMカードを挿しておくことが可能


▲SIMカードは2枚挿し可能で、その片方をクラウドSIMがジャックする形になる

また、24時間980円に値下がりしたとはいえ、これもあくまでドコモとauに限った話。ソフトバンクには2段階で上限が2980円の海外パケットし放題しかなく、国際ローミング料金が割高になりがち。海外旅行や海外出張用に、予備の端末としてjetfonを用意しておくモチベーションも高くなるはずです。国内では、ドコモとソフトバンクのVoLTEに対応しているので、海外渡航が多い人は、普段使いのSIMカードを入れ、メイン端末として使ってもいいかもしれません。

ちなみに、クラウドSIMは日本向けの料金プランも用意されており、1日プランは380円に設定されています。そのため、メインのSIMカードの容量を使い切ってしまったときに、ピンチヒッターとしてクラウドSIMに切り替えるような使い方もできます。単に端末を買うのではなく、プリペイドSIM的なサービスがセットになっているのが、jetfonのおもしろいところといえるかもしれません。

▲日本向けの料金プランも用意。海外は不課税だが、日本のみ消費税がかかる

端末はミドルレンジで、チップセットにはSnapdragon 652を採用。メモリ(RAM)は4GB、ストレージ(ROM)は64GBと、普段使いにも十分なスペックといえます。一般的なAndroidのホームアプリとは異なり、ホーム画面とアプリ一覧が分かれていないなど、やや中華端末的なテイストは残っていますが、ユーザーインターフェイスのローカライズや、サポートなどは、FREETELでノウハウを蓄積したMAYA SYSTEMがしっかり行っていくといいます。

アプリのドロワーがないなど、中華端末テイストが残る部分も

ただし、残念なのは、やはりクラウドSIMを除くと、ごくごく普通の端末であるというところ。端末の開発にあまり時間がかけられなかったといい、ハードウェアに関しては、ほぼuCloudlinkが提供しているベースモデルのままで、FREETELのノウハウが生かされていません。Prioriシリーズのように低スペックながら安価な端末や、KIWAMIシリーズのようなハイスペック端末にクラウドSIMが載っていても、おもしろかったかもしれません。

▲MAYA SYSTEM側でチューニングはしたというが、カメラもFREETELのノウハウを活用してほしかったところだ

MAYA SYSTEMによると、次世代機の企画もすでに進んでいるといい、この端末はよりuCloudlink側と密に連携したものにしていくといいます。FREETELのノウハウが注入されるのは、この端末からになるでしょう。特にカメラやユーザーインターフェイスは、FREETEL端末の方がいいと感じただけに、次のモデルでは、両ブランドの融合に期待したいところです。

自社のサービスをスキップされてしまう可能性もあるため、大手キャリアが採用するスマホが対応するのはまだまだ時間がかかりそうですが、jetfonのような端末は、今後徐々に増えていきそうです。たとえば、アップルが次期iPhoneをDSDS対応にして、その1つがApple SIMではないかとのウワサもありますが、実現すれば、そこに追随するAndroid端末メーカーも出てくるでしょう。jetfonも、その先駆けとして注目しておきたい1台といえます。