現行プリウス(写真は日本仕様、撮影:尾形 文繁)

トヨタ自動車「プリウス」。2017年度(2017年4月〜2018年3月)、軽自動車を除く日本の乗用車市場で最も売れた車種だ。エンジンとモーターを併用して走るハイブリッド車の代名詞的存在は、海の向こうアメリカでもヒット車種として君臨している。


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日本ではあまり知られていないが、日本では「アクア」として売られているコンパクトハイブリッド車が、海外では「Prius C」という呼称で売り出され、アメリカの2012年以降の販売台数にはアクアも含まれている。

そんなプリウスのアメリカでの販売台数は、2003年に2代目に切り替わって以降、年間10万台を超える販売を続けている。2009年に登場した3代目プリウスにアクアが加わった2012年から2014年までの3年間は20万台以上を売った。カリフォルニア州ではベストセラーカーとなった。

ヒット車種となった要因は

要因の1つは2代目プリウスの登場と前後して、ハリウッドスターがプリウスに乗るようになったことだ。レオナルド・ディカプリオ、キャメロン・ディアス、トム・ハンクス、ハリソン・フォードらがプリウスでアカデミー賞授賞式のコダック・シアターに乗り付けた。既存の広告に頼らず、セレブを活用したこうしたイメージ戦略によって、それまで“変わった車”だったハイブリッド車は、良識のある環境保護派がこぞって自分のエコ志向をアピールするためのアイテム、要するにインテリなイメージのあるファッションアイコンに変わっていった。

米テレビドラマ「Lie to me 嘘は真実を語る」では主人公役のティム・ロスが乗っている車がプリウスだったが、劇中で主人公が悪漢に捕まったときに「クルマは何に乗っているんだ」と聞かれ「プリウスだ」と答えると悪者たちは苦笑いする。それに対して主人公は「いい車なんだぜ」と吐き捨てるのだが、要するにちっともセクシーじゃない非力なクルマで、悪者の嗜好にはまったく合わない、インテリのためのクルマ、という位置づけであった。

ところが、その事情も変わってきている。3代目プリウスのモデル末期だった2015年、プリウスのアメリカでの販売は約18万5000台と4年ぶりに20万台を下回っただけでなく、4代目プリウスへ全面的に切り替わった2016年は約13万7000台、2017年は約10万9000台と人気低下に歯止めがかかっていない。

日本でも4代目プリウスは3代目ほど売れてはいない。トヨタ自身のハイブリッド車ラインナップ拡大や競合社のエコカー攻勢などもあるが、奇抜なデザインも理由の1つに挙げられている。4代目プリウスをトヨタの豊田章男社長が“カッコワルイ”と評したのは雑誌でも取り上げられた。それはアメリカでも同じなのか。

4代目プリウスのスタイルが奇抜に感じる理由の一つは、ノーズの長さがある。それには技術的な理由がある。ハイブリッド車にはさまざまな機構が必要でそれを限られた空間に収めなければならない。昨今は歩行者保護や衝突安全性能に対する要求もますます厳しくなる中で、クラッシャブルゾーンも十分に取らなければならない。

さらに4代目プリウスは走行状態やエンジンの暖機状態に合わせて、自動開閉するグリルシャッターを装着している。「冷却系に必要な走行風が過剰な走行シーンではシャッターを閉じ、その流れを積極的に床下に導くことにより、床下の整流効果を向上。エンジンの暖機を促進しながら空気抵抗の低減も図る、賢い装備」(トヨタHPより)なのだが、これもまたノーズが伸びる原因になっている。

そもそもこれほどまでに冒険をしてでもスタイルを変えたのは何故か。その理由はタクシーやレンタカーなど法人向けのフリート販売にある。

プリウスは日本でも米国でもタクシーに多く使われている。都市部に需要の多いタクシーには、加減速の多い状況で燃費がいいハイブリッド車がピッタリなのだ。また、販売台数が減少する中で、トヨタが意図的にレンタカーやタクシーに卸して台数を稼いだともいえる。このタクシーイメージを払拭するためにも、デザインを大幅に変える必要があった。

しかし、それだけが不振の原因ではないと筆者は考えている。

不振の原因

米国の最大市場カリフォルニアの高速道路の通勤時の渋滞はひどい。片道5車線から7車線もあるのに渋滞が頻繁に起こる。渋滞による大気汚染緩和のために、カリフォルニアの高速道路にはHOVレーン、またはCar Pool(乗り合い)レーンと呼ばれるレーンが設けられているところが多い。2人以上乗っている車はこのレーンを通れるのだ。複数が乗り合い通勤をすることで、車の数を減らして大気汚染減少につなげる狙いだ。

通勤時は1人乗りが圧倒的に多いため、乗り合いレーンは通常レーンより空いている。大気汚染減少の観点から、2005年に排気ガスの少ないハイブリッド車には、1人乗りでも乗り合いレーンを走っていいという恩典が与えられることになった。申し込むと抽選で8万5000人に黄色のステッカーが発行され、これを貼っていると1人乗車でも乗り合いレーンが走れるのだ。

この施策は受け、このステッカーの貼ってあるプリウスは、中古でも新車より高い値段で取引されるほどで、プリウスをカリフォルニアのベストセラーカーに押し上げる1つの要因になった。


HOVレーンを走れるステッカー。プリウスが流行った頃のハイブリッド用は黄色だった(筆者撮影)

しかし、あまりにもプリウスが売れまくったため、乗り合いレーンが渋滞するようになり、2011年7月にハイブリッド車はこの恩典対象から外されてしまい、前後してEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)、天然ガス車用の白ステッカーや、プラグインハイブリッド用の緑ステッカーに取って代わられてしまった。

また、消費者には直接関係ないが、アメリカのZEV法という、量産メーカーに特定の割合でFC、EV、ハイブリッド車などのエコカーを販売することを義務付ける法律から、プラグインではない普通のハイブリッド車が外された。

この動きに対してはトヨタも3代目プリウスの途中からプラグインハイブリッド(PHV)バージョンを2012年から日米で投入した。ただ、ベース車の1.3kWh容量のニッケル水素バッテリーに対して4.4kWhのリチウムイオン電池の搭載などによるコスト高から販売価格が大幅に上がり、その割に概観はベース車と変わらないことなどで、アメリカでもプリウスのPHV販売は1万台がやっとだった。

プリウスがあまりにも売れまくり、タクシーやレンタカーに大量に卸したのに加えて、各種の法規上、エコカーからハイブリッド車が除外されたことが複合的に絡みあい、プリウスのクールなイメージはかつてほどではなくなってしまった。

EVの雄、テスラ「モデルS」

並行して登場したのがEVの雄、2012年発売のテスラ「モデルS」だ。完全なEVでありながら、上級仕様では100kWhもの大容量バッテリーの恩恵で500kmに及ぶ巡航距離があり、強力なモーターにものを言わせてスポーツカー並みの加速力があり、ジャガー風の流麗なスタイリングを誇る。これがかつてプリウスの占めていたイメージリーダーカーのポジションを奪ってしまい、以前プリウスに乗っていたグリーン派のハリウッドスターもこぞってテスラに乗るようになった。

トヨタ自身もそこは気になったのか、2010年にトヨタはテスラに出資をしたほどだ。そのテスラも拡大路線を突っ走り、昨年にはバックオーダー40万台を抱えながら、廉価モデルのモデル3を発売。しかし、生産が軌道にのらず、資金繰りが悪化しているという。6月12日には従業員の9%にあたる約4100人を解雇すると発表している。

プリウスも失速しているが、テスラも安泰ではない。グリーンカーの盟主の位置は、今後誰が担っていくのかまったく予測できない。とはいえ、かつては「技術の日産」と対で「販売のトヨタ」と言われ、あまり技術力で突出した印象のなかったトヨタが、一気にエコイメージ、先端技術のイメージを手に入れたのは、紛れもなくプリウスの功績だ。初代モデルのチーフエンジニアだった内山田竹志氏が2012年にはトヨタの会長にまで上り詰めたことがそれを立証している。

トヨタにとっては、これからもプリウスをエコカーの代名詞として育てていく、あるいは、プリウスに代わるイメージリーダーを作っていくことは課題の1つだろう。やがてトヨタもEVにシフトしていくのか。次の半世紀を睨み、今が正念場かもしれない。

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