スーパーオートバックス東京ベイ東雲では、ドライブレコーダーの売り場が賑やかに展開されていた(撮影:尾形文繁)

東京・東雲にある大型自動車用品店、スーパーオートバックス。店内の目立つ位置に賑やかな販促の装飾が施されていたのが、ドライブレコーダー(ドラレコ)売り場だ。


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ドラレコとは、車のフロントガラス上部に取り付けて走行中の映像や音声を記録する小型カメラのこと。売り場には、平日の昼間にも関わらず商品を物色する客が引きも切らずやってきた。売れ筋商品の中には「欠品中」の札がつくものもあり、その人気ぶりがうかがえる。

タクシーの8割が導入する(全国ハイヤー・タクシー連合会調べ)など、ドラレコは主に業務用車両向けに普及が進んできた。消費者からの注目が高まったのは最近のことである。

昨年のあおり運転事故以降に品切れ続出

スーパーオートバックスの売り場担当者は、「昨年10月に東名高速道路でのあおり運転事故が報道され、ドラレコの必要性が繰り返し紹介されると、爆発的に売れはじめた。12月ごろにはメーカーからの供給が間に合わずに品切れが続出、接客に2時間お待たせする、という事態になったほどだ」と振り返る。現在は供給体制も整い、2017年の市販台数は前年比7割増の109万台と大きく伸びた。


売れ筋商品には欠品中のものもあった(撮影:尾形文繁)

これまでも、2012年に京都・祇園で起きた軽乗用車暴走事故や、2013年のロシアでの隕石落下など、ドラレコに記録された映像が話題に上るたびに瞬間風速的に需要が高まることはあったが、ドラレコメーカー各社は「話題性で売れる段階は過ぎ、必需品として市場に定着してきた感がある」と口をそろえる。

店頭人気が高いのが、前方・後方を記録できる2カメラ式のものや、逆光で画像がつぶれることを防ぐHDR(ハイダイナミックレンジ)のもの。さらに、中堅カー用品メーカー・カーメイトが展開する「ダクション360」のように、走行状況の記録のみならず、SNSに投稿するためにドライブ映像を記録したり、取り外して車外でアクションカメラとして使えたりするユニークな商品もある。


車内外の様子を360度撮影できる「ダクション360」(写真:カーメイト)

価格帯は、中国など海外メーカーが中心の5000円台というものから、5万円近い高級品まで幅広い。最近は高付加価値商品の人気が高く、オートバックス全店における2017年の平均購入単価は1万8000円と、前年より2000円ほど上昇した。店舗以外にも、新車購入時に自動車ディーラーで買う人も増えているようだ。

販売台数で先頭を走るのが、車載用品などを展開するJVCケンウッドだ。競合の中では後発となる2014年の参入だが、旧日本ビクター(JVC)が持っていたビデオカメラなどの光学技術を強みとする。フルハイビジョンの1.8倍の解像度で、ナンバープレートや標識の文字を正確に記録できるのがウリだ。現在は市販に加え、自動車ディーラー向けの販売が拡大。これが貢献し、2017年度の同社の車載事業売上高は前期比16%増の1728億円に拡大した。2018年度もディーラー向けを中心にさらなる成長を見込む。

高齢ドライバーの支持を集めている

いったい、どのような人がどんな目的で買っているのか。JVCケンウッド・アフターマーケット事業部で商品企画を担当する吉川悟史・課長主事は、こう分析する。「圧倒的多数が50〜60代で、万が一の事故のときに記録を残すのが一番の目的。意外と多いのが、高齢の親御さんにお子さんがプレゼントする例だ。走行中の映像を記録することで『こんなに危険な運転をしているんだ』と自覚してもらい、事故を起こす前に免許返納を促すきっかけになっている」。


JVCケンウッドのドラレコは、旧日本ビクターの光学技術を生かし、高精度映像の撮影を可能にした(写真:JVCケンウッド)

ただ、実際に事故が起こった際の効力には注意が必要だ。JVCケンウッドの製品の外箱には、「本製品は、事故の証拠として裁判などで効力を保証するものではありません」と明記されている。SDカードなどの記録媒体を通して映像データに簡単にアクセスできるため、改ざんされる可能性もあり、必ずしも正式な証拠として認められるとは限らないのだ。

また、運転の記録映像は記録媒体の容量に応じて上書きされてしまううえ、高齢の利用者には記録媒体の扱いが難しいこともある。正しく活用するのは簡単ではない。

ここに目をつけたのが、保険会社だ。東京海上日動火災保険は、2017年から自動車保険の契約者を対象に、月額650円でドラレコ特約を開始した。損保ジャパン日本興亜も今年1月から同様のサービスを始めている。

東京海上日動の特約の場合、加入者にはパイオニアと共同開発した高解像度のドラレコを貸与する。事故などで強い衝撃を受けると、事故受付センターに事故映像が転送される。これが、保険会社の代行する事故交渉で力を発揮する。「事故時は誰しも気が動転するので、証言が食い違う場合も多い。映像を基に原因を究明し、過失割合を先行提示することで、有利に交渉を進めることができる」(会社側)。契約件数は右肩上がりに伸び、累計14万件を超えたという。

ハンズフリーでオペレーターともつながり、もし利用者から反応がない、ケガが確認されたなどの場合は、保険会社が消防へ通報してくれる。会社側は、「離れて暮らす高齢の親御さんや、免許を取ったばかりのお子さんを持つ方に訴求したい」と意気込む。

ドラレコは自動運転市場に入り込めるか

今後も市場拡大は続くか。焦点の1つが、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転車などへの搭載だ。政府が今年3月末に開催した未来投資会議では、自動運転車の責任関係に関する議論において、車両の安全性の確保のため、2020年度までにデータ記録装置の設置義務化とデータ記録機能の実用化を検討することが定められた。


ドラレコ各社はこの市場を取り込みたい構えだが、未来投資会議を取りまとめる首相官邸の担当者は、現状のドラレコの性能を疑問視する。「データ記録装置として、ドラレコが対象にならないわけではない。しかし、今の性能ではどうしても標識や信号の色の記録に取りこぼしがある。現実的には、事故時の車の挙動などを記録するイベントレコーダーの活用が中心になるだろう」。自動運転車市場を取り込むためには、さらなる精度向上が喫緊の課題だ。

一時的なブームから、必需品としての普及が進むドラレコ。乗用車への搭載率はいまだ10%以下で、開拓の余地は十分にある。市場拡大はしばらく続きそうだ。