少子高齢化問題が叫ばれて久しい日本。とは言えその「問題」が我が身に降り掛かってくるのは、まだまだ先のこととしてとらえている方も多いようです。ではこの少子高齢化、いつどの程度進み、その結果何が起こるのでしょうか。メルマガ『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』の著者で中部大学の武田教授が、そんな疑問を紐解きます。

プロフィール:武田邦彦(たけだ・くにひこ)

中部大学教授。東京大学卒業後、旭化成に入社。同社にてウラン濃縮研究所長を勤め、芝浦工業大学工学部教授を経て現職に就任。現在、テレビ出演等で活躍。

武田邦彦のメルマガ集中講座 『少子高齢化の危機(1)日本の少子高齢化と世界の比較』

現在30歳の人はほぼ間違いなく「年金がない」!

日本の少子高齢化は、世界でも驚くべきスピードで進んでいます。少子高齢化というのは、近い将来「働かない年寄りばかり」になることを意味していますから、「年金がなくなる」のは当然で、その他にも社会の様相は大きく変化します。

年金がなくなるということが分かっていれば、それなりに準備もできるのですが、変化をよく考えておかずに年金をあてにしたら生活ができなくなった場合は、老後は悲惨なものになります。体力のない老後が悲惨になると、本当にどうしようもない人生になってしまいます。

今30歳の人は、ほとんど間違いなく年金はないでしょう。でもそれに備えた生活を始めているでしょうか? おそらく、テレビなどでまだあまり言わないので、遠い未来のように感じているでしょうが、実はもうすぐなのです。

そこで、このシリーズでは、急速に進む少子高齢化が、「いつ、どの程度」進み、その結果、「何が起こるのか」を明らかにしていきたいと思います。

第1回は基礎から始めます。

1人の女性が生む子供の数、戦争の前はおおよそ4人でした。それが戦後は急激に減って3人程度になり、さらに石油ショックまでの第1次高度成長が終わると2人に近づいていきます。そしてついに平成元年には2を切って「1人の女性が2人の子供を産まない」という時代が来たのです。

夫婦2人で子供を産み育てるのですから、1人の女性が2人以上の子供を産まなければ人口は減っていきます。最近はさらにさらに減っています。また、あまり注目されませんが、出生率は北国が低く1.4ぐらいの時に、南の県は大体1.5ぐらいとはっきりと違います。そして全国平均が1.43の時、人口の多い東京が1.13と最低で、人口が少ない沖縄は1.94ですから、かなり都道府県によっても差があることがわかります。都市化が進むとさらに出生率は低下するでしょう。

このように出生率は下がっていますが、それに加えて結婚する女性の率が減り、離婚率が高くなってきました。子供は20年ぐらいすると大人になるので、もともと出生率が少ない子供の女性が、成人になっても結婚せず、結婚しても離婚するということになると、出生率は2乗にも、3乗にも効いて出生数が減ることになります。

世界的にみると出生率が高いのはアフリカの国ぐらいで、まあまあ妥当なところが、アジア、中東、中南米などで、ヨーロッパや日本などの先進国は軒並み1人の女性は2人の子供を産んでいませんし、中国ですら1.6人ぐらいです。つまり、少子化の傾向は日本ばかりではなく、世界的な傾向といってもよいでしょう。

幸福を選択したがゆえの「少子化」。2020年にはどうなるのか?

寿命は延びているし、子供の数は減っているので、世界の人口はまだ増えていますが、それでも「急激な増加」の時代が1990年代には終わり、現在では「緩やかな人口増加」の時代といえます。食料生産技術があがり、石油などのエネルギーの枯渇の恐れがなくなったことから、人口が増えて食料が不足することはなくなり、世界の国が発展するにつれて出生率が減って、世界人口の増加が抑えられるというのが普通の予想になってきました。

つまり、これまでは

「人口が増加し」→「食料が不足し」→「餓死が増え」→「戦争が起こる」

というシナリオが考えられていましたが、そうではなく各国ともに人口が増えなくなり、むしろ

「老人が増えて活力がなくなる、医療費が増える、年金が減って社会不安が増える」

という方向になると予想されています。

世界の傾向はこんな感じなのですが、その中でひときわ目立つのが日本です。なにせ、日本という国は何をやっても変化が激しく、歴史的にも、飛鳥時代に仏教が入ってきたらたちまち仏教国になり、教えてくれた中国を抜いてしまう、明治維新ではヨーロッパの文化や科学を瞬く間に吸収して近代的な大国になる、さらに戦争に負けて焼け野原になったのに、急速に経済成長して30年後には世界で一番になる…などと良い面でも悪い面でも、ともかく世界一速いのが得意技なのです。

「少子高齢化」もその通りで、たとえば、寿命も見ると、戦後すぐの1950年における日本の女性の平均寿命は62歳。その時ドイツやオランダなどのヨーロッパの女性は72歳ぐらいでしたから10年ほど日本の女性のほうが寿命が短かったのです。ところが、それから30年たつと日本の女性はヨーロッパの国の女性の平均寿命をゴボウ抜きし、今では88歳と、ヨーロッパの国の女性の82歳をはるかに超えています。

平均寿命がどんどん上がり、離婚が増え、子供を産まなくなるのですから、急速な高齢化は仕方ありません。でも、それは個別の女性がそれぞれ「幸福になろう」として選択した結果ですから、尊重しなければなりません。

よく「子育てが大変だから」と言いますが、生物は子供が本当に欲しいと思ったら、必ず産みます。その点で、ちょっと我慢したら子供を育てられるという環境でも、その気がなければ出生数は減少してしまうのです。

かくして、2020年には50歳以下の女性と50歳以上の女性の数が同じくなってしまうのですが、これは何を意味するのでしょうか? 次回以後に解説していきます。

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