W杯決勝トーナメントで2点差からの逆転劇は48年ぶり ベルギーの圧力に屈した日本

 日本代表は現地時間2日、ロシア・ワールドカップ(W杯)決勝トーナメント1回戦でベルギーと激突し、2点を先行するも追いつかれ、後半アディショナルタイムに痛恨の逆転ゴールを許して2-3で敗れた。

 日本にとっては史上初のベスト8進出の夢が断たれた一方、W杯決勝トーナメントで2点差をひっくり返されたのは48年ぶりだったという。歴史に残る激闘のなかで、日本は“直らない悪癖”と“致命的弱点”の両方を露呈してしまった。

 W杯決勝トーナメントで2点差からの大逆転劇は、1970年大会で西ドイツ(当時)が延長戦の末にイングランドを破った試合(準々決勝/3-2)以来、48年ぶり。日本にとってはまさかの展開だった。0-0で迎えた後半3分にMF原口元気の一撃で日本が先制すると、同7分にはMF乾貴士が強烈な無回転ミドルで追加点。ところが同24分にDFヤン・フェルトンゲン(トットナム)、同29分にMFマルアン・フェライニ(マンチェスター・ユナイテッド)に被弾して追いつかれ、後半アディショナルタイムに高速カウンターからMFナセル・シャドリ(WBA)に決勝弾を叩き込まれた。

 後半24分からアディショナルタイムも含め、25分間で3失点を喫した日本。後半途中から相手に主導権を奪われ、延長も見え始めた最後に悪夢を見た。日本を混乱に陥れた要因が後半20分の2枚替えだ。194センチの長身MFフェライニと高い打開力を備えるMFシャドリを同時投入し、高さと突破力の両エッセンスを注入。すると日本は耐えきれずに連続失点を喫した。

 一気呵成に攻め立てたベルギーの圧力に屈した形の日本だが、W杯でこうした光景が見られるのは初めてではない。


2006年と2014年のW杯でも逆転負け ベルギー戦と共通するのは…

 2006年ドイツW杯グループリーグ初戦オーストラリア戦(1-3)ではMF中村俊輔のゴールで前半26分に先制。ところが後半8分に178センチながら空中戦に強いFWティム・ケーヒル、同16分に194センチのFWジョシュア・ケネディ、同30分に185センチのFWジョン・アロイージを続けて投入されると流れが傾く。相手が“高さ”と“フィジカル”で攻勢を強め、後半39分に日本の守備組織がついに決壊。同39分、同44分、そしてアディショナルタイムと9分間で悪夢の3失点を喫し、大逆転負けを喫した。

 さらに2014年ブラジルW杯グループリーグ初戦コートジボワール戦(1-2)でも、同様の現象がピッチ上で起きている。前半16分にMF本田圭佑の豪快な一撃で先制。日本の1点リードで迎えた後半17分、189センチの同国英雄FWディディエ・ドログバが投入されると流れが一変した。相手が2トップに変更し、シンプルに前線へボールを供給する戦術に切り替えると、同19分、同21分と2分間で2失点。結局、そのまま1-2で逆転負けを喫した。

 2006年W杯のオーストラリア戦、2014年W杯のコートジボワール戦に共通しているのは、相手が攻撃の比重を一気に高めた途端、それまで一定の強度を保っていた日本の守備ブロックが崩壊している点だ。個と組織の両面で対応が後手に回り、パワープレーに出た相手の力技で押し切られてしまう。さらに悪いことに、一度組織が崩れると、試合の中で立て直せないまま劣勢を強いられて連続失点。それは日本の悪癖とも言えるもので、ベルギー戦でも露呈している。


選手や監督が感じたベルギーとの決定的な差――「どうしようもない高さ」「試合運び」

 また日本の致命的な弱点が、“高さ”と“フィジカル”で押し込まれた際の対応力不足だ。ベルギー戦ではDF吉田麻也や昌子源を中心に撥ね返し続けていたが、それでも途中出場のフェライニにヘディング弾を叩き込まれた。競り負けたのはMF長谷部誠だったが、ぐっと押し込まれたなかで194センチのフェライニを抑えるのは至難の業。相手にとって思惑通りの形でゴールを奪われており、これも流れを明け渡した一因と言える。

 ピッチ上の選手たちが臨機応変な対応で相手の気勢を挫き、例えばDF植田直通の投入で高さとフィジカル面の対応力を高めるなどの対応策もあったかもしれない。いずれも「たら・れば」にすぎないが、いずれにしても日本はW杯の舞台で悪癖と弱点を再び露呈した。これが“16強の壁”を打ち破れない一つの要因にもなっている。

 ベルギー戦に出場した選手、そして指揮官は実際に何を感じたのか。それぞれが“決定的な差”を肌身で体感したようだ。

「最後に力の差が出た。チームとして対抗はできていたけど、最後の個の部分だったり、どうしようもない高さの部分だったり……この(ベスト)16の壁を越えられない」(原口元気)

「試合の終わらせ方とか試合の運び方は、まだまだベルギーのような大国とはだいぶ差がある」(吉田)

「途中から出てきた選手、相当なフィジカルとスピードがあって、セットプレーも正直めちゃくちゃ怖かった」(長友佑都)

「最後の30分は、本気のベルギーに対抗できなかった」(西野朗監督)

「正直2-0になって自分たちもこのまま行けると思いましたけど、そこからの強さはテクニックだけじゃなく、フィジカルも含めて相手を押し込めなかった」(川島永嗣)


選手も手応え、称賛に値した「日本らしいサッカー」 それだけに際立った悪癖と弱点

 ベルギーに敗れた日本だが、選手たちは一様に「日本が進むべき道を示せた」「日本らしいサッカーができた」と口にしている。16強の壁は越えられなかったが、今大会は未来につながる大きな財産として確かな手応えもあったようだ。

「今回はチームとして守備からまず入って、粘り強く戦っていくなかで自分たちのリズムを窺う。そういうものがチームとして統一されていた」(香川真司)

 日本は過去2回16強に進出した。2002年日韓大会トルコ戦(0-1)、2010年南アフリカ大会パラグアイ戦(0-0/3PK5)はいずれも無得点に終わっているが、日本史上初めて決勝トーナメントでゴールを奪うなど攻撃的なサッカーを国際舞台で見せつけた。堅守をベースにしながらも、パスをつないで攻め手を探り、コンビネーションで打開を図る。FIFAランク61位の日本が同3位のベルギーをあと一歩のところまで追いつめた事実は称賛に値するものだ。それだけに直らない悪癖と弱点が際立つ内容となってしまった。

 8強進出の夢は2022年カタールW杯に託されることになった。4年後、悪癖と弱点の改善を図り、4度目の正直で16強の壁を打ち破る日本代表の勇姿が見られるだろうか。


(大木 勇(Football ZONE web編集部) / Isamu Oki)