公共放送を名乗るNHKの受信料は、テレビを置いていると強制的に払わされます。たとえば日本語の不自由な留学生でも例外はありません。それではNHKだけが映らなくなる「アンテナ線フィルタ」をつければどうなのか。そんな「イラネッチケー」を開発した筑波大学の掛谷英紀准教授が、「受信料を払わずに済む方法」について解説します――。(第4回、全4回)

※本稿は、掛谷英紀『先見力の授業 AI時代を勝ち抜く頭の 使い方』(かんき出版)の一部を再編集、加筆したものです。

■商品名は「イラネッチケー」って何をする機械?

ご存じかもしれませんが、NHKだけ映らなくするアンテナ線フィルタというものが販売されています。「イラネッチケー」という商品名がついています。実はこの商品、私の研究室で開発したものです。商品名は開発を担当した学生がつけました。原理自体は非常に単純で、電気電子工学を専攻する大学2年生であれば理解できるレベルのものです。

現在、研究室の卒業生が経営するベンチャーがアマゾンなどで5000円前後で販売しているほか、いくつかの販路がありますが、今までに約2000本売れています。

私がNHKだけ受信できなくする装置を手掛けたのは、YouTubeにアップロードされた2013年3月8日の中山成彬議員の国会質問がNHKの要請で削除された事件がきっかけです。同日の衆議院予算委員会で、いわゆる従軍慰安婦問題について、辻元清美議員と中山成彬議員が正反対の立場から質問をしました。いずれもYouTubeにアップロードされたものの、NHKは後者についてのみ削除要請をしました。

この件はその後国会でも追及され、2013年3月27日の参議院総務委員会では、亀井亜紀子議員がこの問題についてNHKの見解を問いただしました。また、2014年2月3日の衆議院予算委員会で、杉田水脈議員もこの問題を取り上げており、放送法4条にある「政治的に公平であること」に違反するのではないかと述べています。

NHKの番組の中立性に関しては、右(保守)からも左(革新)からも批判があります。そのことは、中立の定義が難しいことを示しています。しかし、この事例は、右左関係なく、中立性を損なっていることが明らかな事例です。それで、NHKの放送だけを受信できなくなる装置を開発する大義が立ったと思いました。

放送法64条には「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」とあります。ここでいう協会とは日本放送協会、すなわちNHKのことです。よって、条文を文字どおり解釈すれば、たとえテレビ受像機があっても、NHKの放送を受信できなければ、NHKとの契約は不要であると考えられます。

ここで、疑問が湧くかもしれません。それは、なぜNHKだけ映らないテレビではなくて、アンテナなのかです。もちろん、テレビ側でNHKを映らなくしてしまう方が話は分かりやすいのは事実です。しかし、残念ながらそれは技術的には容易であっても法的には難しいのです。

というのは、NHKはテレビ放送に関する大量の特許を取得しているからです。特許データベースJ-PlatPatで検索すると、デジタル放送に関するNHKの特許は出願で1000件以上、権利化されたもので100件以上あります。一方、アンテナ技術は非常に古く、知的財産権の制約が少ない。それがアンテナに着目した理由です。

■NHKの詐欺まがいの営業の実態

NHKだけ映らない状態でNHKと受信契約を結ぶ必要があるかどうかは司法の判断を待つ必要がありますが、判決が確定していない段階でフィルタ装置が2000本も売れているのは、ある意味すごいことです。それだけNHKに対して不満をもっている人が多いわけです。

私自身、NHKの受信料はずっと払っています。どこかの大臣の年金のように未納期間はありません。そのため、NHKの拡張員が行っているやくざまがいの行為に私は遭遇したことがありません。しかし、学生からそういう話をよく聞きます。そのため、NHKに対する不満の大きさを肌で感じていました。

今、NHKが狙っているのが日本語の不自由な留学生です。私の指導する学生も被害に遭っていました。その学生は彼女と同棲していたのですが、世帯を一にしているのに、2人とも契約させられていました。それもBS放送が受信できないのに衛星契約になっていたのです。私が彼の代わりにNHKに電話しましたが、二重契約の解消と衛星契約から地上契約への変更は認めたものの、今まで余分に払わされたお金の返金は認めませんでした。

このように、NHKの詐欺まがいの営業で苦しんでいる人はたくさんいます。そうした現状の緩和に、NHKだけ映らなくする装置が、少しでも役に立てればと思っています。それが実を結ぶかどうかは司法の判断を待つ必要がありますが、既に1つ朗報があります。

■NHKとの契約で絶対に知っておくべきこと

私よりずっと前からNHK問題に取り組んでおり、2017年11月の東京都葛飾区議会議員選挙に当選した立花孝志議員は、衛星契約を地上契約に切り替える裁判を係争中です。NHKは、共同住宅でBSアンテナからの配線が部屋まで来ている場合、室内配線をしていなくてもBSチューナー内蔵のテレビ受像機を所有していれば、衛星契約をする義務があるという立場をとっています。

共同住宅の場合、BSの共同アンテナを勝手に外すわけにはいきませんし、BSチューナーを内蔵していないテレビ受像機も、大型のものはほとんど販売されていないのが実情です。その裁判の途中で、私は同氏の所有するテレビ受像機のBSチューナーを破壊するというお手伝いをさせていただきました。

すると、NHKもそのケースは地上契約への変更に応じる姿勢を示しています。衛星契約は地上契約より年間約1万円高くなっています。人生100年なら100万円の差になります。判決が確定した段階で、衛星契約から地上契約への変更を希望される方々に、BSチューナー破壊のお手伝いをさせていただこうと思っています。

ただ、そもそも地上波放送も見ないという人は多いかもしれません。もちろん、テレビ自体を捨ててしまえば、NHKと契約する必要はありませんから、年間約2万5000円、人生80年でも200万円節約できます。

ちなみに、テレビを捨てるのがもったいない人は、こちらもチューナーを壊すという手があります。チューナーがなくても、インターネットに接続できれば、インターネット放送やオンラインゲームは大画面で楽しみ続けられます。民放の主要な番組も民放テレビ局が連携した公式テレビポータルサイトTVerで視聴し続けることが可能です。裁判でNHK側が出してきた東京大学の玉井克哉教授の意見書には、「チューナーが壊れている場合は契約の義務がない」と書かれています。よって、BSチューナーだけでなく地上波放送のチューナーも同時に破壊すれば、NHKとの契約そのものを解消できます。

大手メーカーもこうしたニーズにようやく応えようとしています。今年3月にソニーが、テレビチューナーは搭載しないもののOSにAndroid TVを搭載し、インターネットテレビ番組を自由に楽しめるBRAVIAの新シリーズを7月下旬に発売すると発表しました。チューナーを壊すといった手荒なことが苦手な人は、このテレビに買い替えることをお勧めします。

■時効を無視した受信料の請求を続けるNHK

NHKとの契約に関しては、もう1つ知っておいてほしいことがあります。それは時効についてです。NHKと受信契約をしたのち、不払いが続いていた場合、5年を超えたものについては時効が成立することが最高裁の判決で確定しています。ところが、NHKは判決確定後も、不払いの人に5年以上の請求を続けています。この場合、一度払ってしまうと取り戻せません。時効の援用をすれば、5年分を超える金額は払わなくていいことが法的に認められていますので、NHKの請求に惑わされないようにご注意ください。

この世の中は、善人の皮を被った悪人で満ち溢れています。4回シリーズはこれで終了ですが、今後も色々な場で隠れた悪意を見破るための情報提供を続けていく予定です。またどこかでお会いしましょう。

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掛谷 英紀(かけや・ひでき)
筑波大学システム情報系准教授
1970年大阪府生まれ。93年東京大学理学部生物化学科卒。98年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。NPO法人「言論責任保証協会」代表。著書に『学問とは何か 専門家・メディア・科学技術の倫理』『学者のウソ』など。近著に『「先見力」の授業』(かんき出版)がある。

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(筑波大学システム情報系准教授 掛谷 英紀 写真=iStock.com)