今回は過去3回で手が加えられなかった箇所にも変更を施している(筆者撮影)

マツダは5月17日、コンパクトクロスオーバーSUV「CX-3」を一部改良(マイナーチェンジ)するとともに新たに特別仕様車「Exclusive Mods」を追加設定して予約を開始、5月31日に発売すると発表した。

【2018年5月17日19時追記】記事初出時、発売を5月17日としていましたが誤りでしたので上記のように修正しました。

CX-3のマイナーチェンジは4回目

2015年2月に登場したCX-3のマイナーチェンジは4回目。毎年、熟成を重ねてきたが今回は過去3回ではいっさい手が加えられなかったフロントグリルや18インチアルミホイール、リアランプなどエクステリアデザインの変更を施すとともに、先進安全技術「i-ACTIVSENSE」に夜間歩行者検知機能「アドバンスト・スマート・シティ・ブレーキ・サポート」を追加した。


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走行性能面では、新技術「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE(スカイアクティブ-ビークルアーキテクチャー)」を一部採用し、「滑らかで連続的な気持ちのいい応答性」と「滑らかで減衰感のある快適な乗り心地」を実現。サスペンションやシート素材を改良するだけでなく、マツダ独自の新開発タイヤを導入した。

このほかクリーンディーゼルエンジンは、排気量を従来の1.5Lから1.8Lにアップ。力強い走りを活かしつつも環境性能と実用燃費を改善するなど、一つひとつを挙げていくとキリがないほど、改良を加えた。

当初はマツダ初のクリーンディーゼルエンジン専用車として発売されたCX-3。マツダの発表によると発売から約1カ月後の累計受注台数は1万0076台を記録したが、勢いは長く続かなかった。日本自動車販売協会連合会(自販連)によれば、2016年8月には前年同月比42.7%減の991台まで落ち込んでいる。


新型CX-3の運転席まわり(筆者撮影)

CX-3と同じクラスに挙げられるのはトヨタ自動車「C-HR」やホンダ「ヴェゼル」だろう。C-HRは2017年にそれまで4年連続で国内SUVナンバーワンだったヴェゼルからトップの座を奪ったヒット車種。自販連によれば、2017年度(2017年4月〜2018年3月)にC-HRは10万2465台を売ったのに対し、CX-3は1万5391台。ヴェゼルも6万1378台と奮闘を見せており、コンパクトクロスオーバーSUVは人気カテゴリである。

これに関して当初、「CX-3は日本で唯一のディーゼルエンジン専用車という特異な立ち位置が影響したのでは」と自動車業界内では指摘されていた。

マツダのディーゼルエンジンは従来のイメージとは異なり、現在ではガソリンエンジンとほとんど変わらないほど排出ガスがクリーンなうえに、エンジン自体のトルクはガソリンエンジンを大きく上回る力強さで燃費も良い。

その分、高度な燃焼技術や後処理装置を必要とするため、同排気量車で比較すると車両価格がどうしても高くなってしまうのが難点だった。たとえば、CX-3の当初の最低価格は230万円台と競合車種の1つであるホンダ「ヴェゼル」のハイブリッド車と同等で、200万円以下のグレードもあるヴェゼルのガソリン車に相当するグレードがなかった。CX-3を購入する層が、高くても性能の良いディーゼルエンジンを求めるかという点で、購入に迷いが生じやすかった側面は否定できない。

「SKYACTIV-G 2.0」搭載車をCX-3へ新たに設定

そこでマツダは昨年6月、新世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.0」搭載車をCX-3へ新たに設定。


ディーゼルエンジンは排気量を増した(筆者撮影)

最低210万円台からの価格設定となって、翌月7月には販売台数2071台を記録したものの、数カ月で再び低迷してしまった。

C-HRの場合、排気量1.2Lのガソリンターボエンジンと、同1.8Lガソリンエンジン+モーターのハイブリッド仕様があり、車両価格は229万円台からとCX-3よりも高額な価格帯だ。だとすると、CX-3の販売台数が伸び悩む理由は、ガソリンエンジン搭載車の設定がなく、価格面での割高感があったことだけではなかったというワケである。

CX-3の走行性能や乗り心地、機能面の仕上がりを鑑みれば、C-HRやヴェゼルに特別に劣る要素は見当たらない。にもかかわらず、CX-3がイマイチ振るわないと考えられる理由は2つある。

1つはC-HRやヴェゼルといった競合車種と比較したときの車体の大きさや室内の広さだ。3車種のサイズを数字で見てみよう。

・CX-3
全長×全幅×全高 4275×1765×1550mm
室内長×室内幅×室内高 1810×1435×1210mm
・C-HR
全長×全幅×全高 4360×1795×1550mm
室内長×室内幅×室内高 1800×1455×1210mm
・ヴェゼル
全長×全幅×全高 4330〜4340×1770〜1790×1605mm
室内長×室内幅×室内高 1930×1485×1265mm

CX-3は3車種の中で最も長さが短く、幅が狭い。全幅1765mmは3ナンバーサイズ(5ナンバーは全幅1700mm未満)なので決して狭くはなく、室内空間も数字だけ見ればC-HRと大差はない。

問題は…

ただし、問題はこの車体の絶対的な小ささと相まってデザインから受ける印象だ。CX-3は「World Car of the Year2016」のデザイン部門でトップ3ファイナリストに選出されるなど、世界が認めた美しいプロポーションを持っている。


ボタンなど(筆者撮影)

だが、主観が多分に入ることを断ったうえで述べれば、C-HRやヴェゼルと比べたときには線が細く見えるし、マツダのコンパクトカー「デミオ」と似た感じの雰囲気がする。

ヴェゼルはホンダのコンパクトカー「フィット」をベースにしているが、フィットと同クラスに見えない雰囲気がある。C-HRは一回り大きな「プリウス」のプラットフォームを活用している。シャープな外観ながらもどこかデミオっぽいCX-3は、C-HR、ヴェゼルと比べてしまうと1クラス下のクルマに見えてしまう。


CX-3の後部座席(筆者撮影)

輸入車モデル別販売で快走するBMW傘下のコンパクトカー「MINI」の派生車種で、SUVタイプの「MINIクロスオーバー」は小さな車のイメージがあるが、最新モデルは全長4300mm、全幅1800mmを超えている。コンパクトモデルが売りとする特長やコンセプトとは矛盾するかもしれないが、CX-3はコンパクトすぎることがクロスオーバーSUVとして有利に働いていない印象がある。

それも踏まえたうえでのもう一つの理由を挙げよう。それはマツダにとってCX-3の上位車種である「CX-5」との価格差があまりないことだ。エンジンや駆動形式によって異なるが、マツダのホームページで確認できる限り、CX-3の価格帯は車両本体で210万〜303万円台、CX-5は249万〜352万円台。CX-3の上位グレードならCX-5の下位グレードとバッティングする。数十万円を足せばCX-5が買えてしまう。

CX-5のほうが見た目は迫力があり、室内も広く、走行性能も高い。クロスオーバーSUVが人気を呼んでいる理由の1つには機能性とか実用性を越えたところで、デザイン面でのカッコよさとか押し出しの強さなどが重視されている面もある。乱暴な言い方をすれば「クロスオーバーSUVはカッコで乗るクルマ」。CX-3を検討したユーザーが「同じマツダ車なら」とCX-5に目が向くケースはあるだろう。

・CX-5
全長×全幅×全高 4545×1840×1690mm
室内長×室内幅×室内高 1890×1540×1265mm

CX-3のターゲットとする客層は誰なのか

マツダがCX-3のターゲットとする客層は誰なのか。開発主査を勤め上げてきた冨山道雄氏に聞いてみた。


CX-3の運転席(筆者撮影)

「CX-3はシティーユースからロングドライブまで使われるというニーズを考えながら提供しています。メインターゲットは若い人とシニア層でどちらかと言うと前席優先で使われるお客様。特にファミリー的なユースや後部座席を重視されるお客様や室内空間を重視されるお客様はCX-5というそういう考え方です。CX-3はコンパクトなんだけど上質ということで、それに見合った対価をいただこうという価格設定となっています」(冨山氏)

このコメントを聞いて、私はすんなり納得できなかった。CX-3を単体で見てみると、気品ある美しさと先鋭さを極めたすばらしいコンパクトSUVではある。しかし、他社競合としてC-HRやヴェゼル、社内競合としてCX-5を比較検討されてしまうことは必然で、その結果、CX-3は何とも悩ましい立ち位置に追いやられてしまっている。

それは、今回のビックマイナーチェンジを経ても変わらない現実なのではないだろうか。フルモデルチェンジ(全面改良)しない限り、車体の骨格そのものをつくりかえることも、デミオっぽい印象を大きく刷新することもできない。近年、自動車業界で評価を高めてきたマツダのシャープなデザインが、CX-3においては効果的に働いていないように見える。