コンビニへフライドチキンを買いに行ったのに、売り切れていた。そんな経験はないだろうか。この「機会ロス」は顧客に強い悪印象を与える。食べ物の恨みは怖いのだ。セブンイレブン最年少取締役、ファミリーマート商品本部長を歴任した本多利範氏は「そんな事態が2回続けば、お客様はその店に来なくなってしまうだろう」という――。

※本稿は、本多利範『売れる化』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「在庫を切らすな」と言うのは簡単だが……

以前、寒い時期の夜の9時にコンビニを訪れたら、おでんの具が3種類しかないことがありました。一緒にいた人はおでんを食べたがってコンビニに向かったのですが、食べたい具材がなかったので、何も買わずに店を出ました。

これが機会ロスです。

では、なぜこの時間におでんがなかったのか検証してみましょう。「在庫を切らすな」と言うのは簡単ですが、在庫が切れてしまう理由をしっかり理解していなければ、また同じことが起こってしまいます。

1つ目に考えられる理由としては、発注数の問題があります。この店ではきちんと在庫切れにならないよう、人気の具を十分な量持ち、調理していたのでしょうか。この責任はおでんの発注担当者にあります。

2つ目の理由として考えられるのは、業務分担に問題があったのではないかという点です。この時間帯、店にはアルバイトが2人いました。しかし尋ねてみると、おでんの補充をするよう指示は受けていなかったということでした。これはアルバイトの業務分担を管理する店長の責任です。

■「おでんの品切れ」は、この日ばかりではない

3つ目の理由としては、このような状態を放置していたオーナー、店長、本部から派遣されるSV(スーパーバイザー)の連携の問題です。おそらくこの店で、おでんが品切れになっていたのは、この日ばかりではないでしょう。

毎日商品がちゃんと店に届いているのか、発注量は適正かどうか、在庫がきちんと補充されているか、アルバイトにもそれらをチェックする役目を与えているか、それらのきめ細かい対応がされて初めて、店に商品は並び、売り上げに結びつきます。私たちはそのことを深く考えなくてはなりません。

しかし、客の立場に立つと、今述べたような問題はすべてあずかり知らぬことです。

おでんを食べたい時に、十分な具がない。

事実はそれで十分です。どうして在庫が切れていたのか、誰にその責任があるのかなど、お客様にとってはどうでもいいことであり、「この店はおでんも満足に用意できない店である」という印象がすべてなのです。

「本来あるべきものがなかった」というお客様の失望感を、挽回するチャンスはなかなか訪れません。くれぐれも注意をすべき課題でしょう。

■なぜ、食べ物を切らしてはいけないのか

コンビニには多くの食品が並んでいます。

しかし中でも、レジ前で販売するフランクフルトや、から揚げ、フライドチキン、おでんなどのフードは、決して品切れを起こしてはいけないカテゴリーです。

極端なことを言えば、トイレットペーパーの売り上げが、2倍、3倍になることは、オイルショックでもない限り、まずありえません。チョコの売り上げが2倍、3倍になることも、バレンタインデーでもない限り、そう起きることではないのです。

ところが、フライドチキンやおでんなどのフードは、こちらの工夫次第で、1日で1000個売り上げることだって、不可能ではありません。

お昼時になれば、お客様が列をなして昼食を買いに来られることがわかっているのにフランクフルトがなかったり、から揚げが少なかったりする店があります。調理した結果、もし売れずに残って廃棄することになったらということを恐れて、少量しか用意していないから、そういうことが起きてしまうのかもしれません。

■「瞬間の消費商品」は置き換えできない

しかし、考えてもみてください。おでんやフライドチキン、フライドポテト、中華まんなどは買い置き商品ではありません。買って今すぐ食べたい、いわば「瞬間の消費商品」です。

そんな商品の一つ、例えばフライドチキンを食べようと、列に並んだのに、いざ自分の番になったら、「チキンは品切れです」と言われてしまう。自分がその立場だったらどう思うでしょうか?

もはやチキンを食べるつもりだった口の中には、その風味が広がっているのです。「チキンがないなら、中華まんでいいか」とすんなり気分が切り替わるでしょうか?

■食べ物の恨みは深い

そんな残念な出来事が2回も続けば十分です。もはやそのお客様はそのコンビニには来てくださらなくなるでしょう。より堅実に、いつ行っても自分の欲しい商品が十分にある店に切り替えるはずです。

店のスタッフにしてみれば、「たまたま今日は切れてしまった」でも、お客様にとっては「ここには自分の買いたいものがない店」となってしまうのです。

フードやコーヒーなどのカテゴリーは、リピーターがつく手堅いアイテムです。毎日飲みたい、あるいは週に2回は必ず食べるなど、習慣化するものだからです。店にとって、日販が劇的にアップする鍵は、フードカテゴリーにこそあり、何より欠品という過ちを見過ごさないことです。

■希少性の高いものとは質が異なる

ブランド物の商品や、希少価値の高い商品などは、「今日はこれで完売です」という事態も許されるかもしれません。「1日△個限定」ということが、一種の価値となって人々の購買意欲が増すこともあります。しかし、そのような希少性の高いものと、「本来あるべきもの」とは質が異なります。

普通なら十分手に入るべきものが、店側の単なる不注意で欠品することに対して、お客様はシビアに判断します。

食べ物の恨みは深い、ということも頭の片隅に入れておくべきかもしれません。

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本多利範 (ほんだ・としのり)
本多コンサルティング代表
1949年生まれ。大和証券を経て、1977年セブン‐イレブン・ジャパン入社。同社の最年少取締役に就任。後に渡韓し、ロッテグループ専務として韓国セブン‐イレブンの再建に従事。帰国後、スギ薬局専務、ラオックス社長、エーエム・ピーエム・ジャパン社長を経て、2010年よりファミリーマート常務。2015年より取締役専務執行役員・商品本部長として、おにぎりや弁当など多くの商品の全面改革に取り組む。2018年、株式会社本多コンサルティングを設立。著書に『おにぎりの本多さん とっても美味しい「市場創造」物語』(プレジデント社)がある。

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(本多コンサルティング代表 本多 利範 写真=iStock.com)