糖質制限ダイエットはどことなく宗教に似ている。その教義は単純明快、糖質を摂らなければ痩せる、というものだ。そんな「糖質制限教」の信者が爆発的に増えた要因は、その簡便さと即効性。誰でもすぐに始められ、短期間で痩身に繋がる。そして、

「一旦痩せると不思議なものでもっと痩せよう、もっと痩せよう、とのめり込んでしまい、まるで洗脳されたような状態になってしまう」(糖質制限経験者)

 コンビニに行ってもオニギリやパンの棚には目もくれず、サラダとチキンをレジに運ぶ。そこまでいけばもう立派な信者である。

 糖質制限を宗教に例えた場合、「教祖」のような立場にあるのが、京都にある高雄病院の江部康二理事長。言わずと知れた糖質制限食の第一人者だが、去る3月31日、その江部氏の主張を元にした記事が東洋経済オンラインに掲載された。タイトルは、

〈糖質制限「老化説」が抱える根本的な大問題〉

オニギリやパンを避けていませんか?(写真はイメージ)

 というもので、その内容は、本誌(「週刊新潮」)4月5日号の記事「糖質制限で『老ける』『寿命が縮まる』」への反論だった。

“人類の元々の食性は糖質制限食”との主張

 本誌が紹介したのは、東北大学大学院農学研究科の都築毅准教授らのチームが行った実験の結果だ。通常食と糖質制限食を与えたマウスを比較したところ、糖質制限食のほうが老化が早く進み、短命になった。さらに、糖質制限食のマウスの血液中に含まれるインターロイキンシックス(IL-6)の数値は、通常食のマウスの1・5倍になっていたという。IL-6は老化を促進させ、がんや糖尿病の発症率を上げることで知られている物質だ。

 この実験結果に対して江部氏は、

〈ネズミの主食はあくまでも「穀物=低脂質・低たんぱく食」〉

 であり、そのネズミに、人類の元々の食性である糖質制限食(高脂肪・高タンパク食)を与えれば、

〈すべての代謝が狂って老化が進み寿命が短くなるのも、言わずもがな〉

 それ故、ネズミで人類の食物代謝の研究を行うのは、

〈出発点から根本的に間違っている〉

 と主張したのである。

「子供みたいなレベル」

 糖質制限の根幹を揺るがす実験結果であったため、こうして「全否定」せざるを得なかったのだろうが、

「マウスに人の食べ物を与えると、代謝が破綻して老化が進み短命になるという主張は明らかな間違いです」

 実験を行った東北大の都築准教授はそう語る。

「我々は昔からマウスを使った様々な実験をやってきました。その中で、ネズミの餌ではなく、人の食事を餌にしたものをマウスに与える実験もやっています。その結果はどうだったか。人の食事を摂ったマウスの方がネズミの餌を食べた方より、ほとんどの場合、長寿なのです」

『本当は怖い「糖質制限」』(祥伝社新書)の著者で「愛し野内科クリニック」院長の岡本卓氏も、

「江部さんの“マウスと人間は違う”という主張については、子供みたいなレベルで呆れてしまいます。あまりにもバカバカしい」

 と、一刀両断する。

「例えば、昨年12月、ラットに高脂質食を与えると認知機能が下がるという論文がオンライン・ジャーナル『Nature Communications』に掲載された。世界に目を向けると、ラットに高脂質食を与えた研究の結果が信頼性の高い科学誌で発表され、それが真面目に受け取られているだけではなく、大きな反響を得てもいるのです」

 加えて言えば、糖質制限を行うと寿命が縮まることは、今回のマウス実験で初めて立証されたわけではない。欧米では糖質制限をしている人としていない人の健康状態を長期間追跡する調査が何度も行われており、ほとんどの調査で「糖質制限を続けた方が短命」との結論が出ているのだ。

「元祖提唱者」の病歴

 実は十数年前、アメリカで糖質制限ダイエットが一大ブームを巻き起こしたことがある。提唱した心臓病専門医の名を冠し、「アトキンス・ダイエット」として爆発的に広まったが、2003年に当のアトキンス博士が死去すると、急速に人気が衰えた。

「アトキンス氏は自らも過剰な糖質制限を実践していたが、死去後に彼の健康診断書が流出した。そこには身長180センチに対し、体重117キロとあり、見事な肥満体であることが判明。心臓発作や高血圧の病歴があったことも報じられた。ちなみに彼は“転倒”して死んだことになっている」(在米ジャーナリスト)

 アメリカ留学中にアトキンス・ダイエットを知り、自らも取り組んだ結果、脳梗塞一歩手前の状態になった経験を持つ「Yʼsサイエンスクリニック広尾」の日比野佐和子統括院長も言う。
(詳しくは「女医が告白、糖質制限で『脳梗塞』一歩手前 死亡率は1・3倍に」記事
https://www.dailyshincho.jp/article/2018/04080802/ 参照)

「アトキンスさんが巨漢になっていたとか心臓に問題を抱えていた、というのはアトキンス・ダイエットを始めてしばらく経ってから聞いて驚きましたね。提唱者からしてこの結果ですから、今ではアメリカでは過度な糖質制限が体に良くないことが知れ渡っています」

「週刊新潮」2018年4月12日号 掲載

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