フィギュアスケートの世界ジュニア選手権で、アレクサンドラ・トルソワ選手(13歳)が、女子選手として初めて2種類の4回転ジャンプを決める快挙を成し遂げた。マークした技術点は92.35。平昌五輪の金メダリスト、アリーナ・ザギトワ選手の81.62を大きく超える驚異的なスコアでの優勝だった。

 競技力の向上を実感せずにはいられない。ジャンプの限界は何回転なのだろうか。人類の身体能力が、いかに上がっても6回転ぐらいが限界ではないかと思いたくなるが、いずれにせよフィギュアスケートが、伸びシロを残している競技であることは間違いない。
 
 10日(土曜日)、ブルガリアのソフィアで起きたこのニュースを聞きながら、サッカーにも先日、競技力の向上を実感させる試合があったことを思い出した。ニュースにはなっていない。報じられたのは、結果がメインだったが、第三者である日本人が、それ以上に痺れたのはその中身だったハズだ。ピッチの上における両軍のツバ競り合い--。

 パリ・サンジェルマン(PSG)対レアル・マドリー。後者が通算スコア5-2で勝利したチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦のセカンドレグだ。フィギュアスケート的に言えば、世界最高得点をマークした試合と言いたくなる高度な試合だった。

 目を引いたのは選手の技術なのだが、より具体的に言えば、厳しいプレッシャーをかいくぐる術と、その網から脱出を図る展開力だ。

 昨季も、同様な思いに浸った経験がある。1、2年に1度ぐらい、世界最高得点を更新する試合に遭遇する。それは、もちろんJリーグにもあてはまる。「この試合、ちょっと凄くない?」と呟きたくなる試合に、ふとしたタイミングで訪れる。

 Jリーグの場合は、国内最高記録になる。だが、世界最高記録に遭遇すると、日本最高記録の程を同時に連想し、そしてその差に愕然とさせられる。繰り返すが、この最高記録の話は、サッカーでは全くと言ってもいいほどニュースにならない。フィギュアスケートのように、結果がレベルを意味していないこともある。結果やニュースにのみ反応したがるネットとの相性の悪さもある。

 だが、サッカーはお構いなしに、株でいうところの最高値を更新し続けている。下がることも停滞することもなく、右肩上がりを続けている。足でボールを扱う競技なので、手に比べて開発の余地があるからだが、大袈裟に言えば、見る度にレベルは上がっている。それに伴い娯楽性も増している。そこがサッカーの最大の魅力だ。

 それを支えているのがプレッシングだ。高い位置から網を張っていくそのボール奪取方法と、技術の進歩は密接な関係にある。ピッチ上に厳しい設定が布かれたことで、それに対抗しようと選手の技術はさらに向上した。近代サッカーにおける2大発明。プレッシングサッカーが、トータルフットボールと並んで発明と称される理由だ。

 日本の女子代表(なでしこ)が、6位に終わったアルガルベ杯でも、選手の技術とプレッシングの関係が目に止まった。一頃に比べ、日本の成績はなぜ振るわなくなったのかと言えば、それはかつてユルユルだった他国のプレスが、見違えるほど厳しくなったからだ。それをかいくぐるためには、もう1レベル高い技術を身につける必要がある。研鑽を積む舞台となるのは平素の試合(なでしこリーグ)だ。そこでどれほど厳しいプレッシングを各チームが展開できるか。

 Jリーグについても全く同じ事が言える。

「Jリーグのレベルを上げていかなければ……」とは、W杯が終わる度に取り沙汰されるお決まりの言葉だが、それはプレッシングを強化して、プレーの設定条件を厳しくする事に他ならない。