毎週日曜日の夜8時から放送中の『岡田斗司夫ゼミ』。1月21日の放送では、パーソナリティの岡田斗司夫氏が、任天堂より発売されたゲームソフト『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の魅力のひとつ、ゲーム設定の根幹「100年前の厄災」について語りました。

(画像は「Nintendo 公式チャンネル」ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド 3rd トレーラーより)

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『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の魅力はマップを“読む”楽しみ

岡田:
 『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下『ゼルダの伝説BotW』)のマップ上に配置されているオブジェクトというのは、「ゲームデザイナーが雰囲気を出すための小道具として適当に置いてある背景のひとつ」ではないんです。

 実はこれ、ひとつひとつが、ものすごく考えられて配列されてるんですよ。なので“読む”ことができるんですね。

 これらのオブジェクトを、「単なるゲームの中の背景だな」と思って通り過ぎるのではなく、「どういう意味があるのか?」と自分なりに読み解いていくということが、メチャクチャ面白いんです。

『ゼルダの伝説 BotW』のマップを使って解説する岡田斗司夫氏。

 これは、『ゼルダの伝説 BotW』の広大なマップの一部になります。この世界の真ん中あたりに、“ハイラル城”という場所があります。このハイラル城は、ガノンに支配されているんですね。

 ハイラル王国は外国に対しても、周囲に存在する衛星国家との外交をちゃんとやっていたし、海の向こうの国との戦争にも備えていました。ところが、内部からの攻撃にひとたまりもありませんでした。

 復活した厄災ガノンは、内部から攻撃を仕掛け、あっという間にハイラル城を占拠して、そこから数万、数十万の殺人ロボット、ガーディアンが、国中にワーッと溢れ出してきました。

 おかげで、数千人規模の兵隊たちが、城を捨てて逃げ出すことになってしまい、同時に、城下町や周囲の土地に暮らしていたハイリア人たちも、町全体で一斉に避難することになってしまいました。

100年前のリンクたちが辿った道筋

 ハイラル城を脱出した数千人規模の王族と騎士団は、少し南下して、それから東のロマーニ平原を突っ切って、橋を渡ります。

 この逃走ルートを実際にゲーム内で歩いてみると分かるんですけど、ここは整備されてない街道で、そんな道を、数千人規模の軍団が突っ切って、ようやっと高原の方へ抜けて、最後にはアッカレ砦にたどり着きます。

 それに対して、リンクとゼルダ姫は、焼け出された民衆たちと共に逃げました。なので、城から逃げた軍隊とは違って、南に進路を取ります。そして、双子山という、すごく険しい山の間の開いた抜け道みたいな場所を通って、クロチェリー平原に移動します。ここまでいけば、ハテノ砦があるんですね。リンクたちはここへ逃げ込みました。

『ゼルダの伝説 BotW』100年前の大戦におけるリンクとゼルダ姫の逃走ルート

 『ゼルダの伝説 BotW』の何がすごいかって、今の話は、ゲームが始まる100年前の話なんですよ。だから、ゲーム内の世界を歩いていると、100年前にリンクたちと戦った敵ロボットの遺跡化した残骸が、そこら中に落ちているんですよね。

 クリアする前は、それを見ても、「ああ、なんかいっぱい落ちてるな」って思う程度です。でも、クリアした後で、よくよく落ち着いて歩いてみると、ここが過去の戦場跡であることがわかるんです。

 そして、そうやって眺めると、「ここは道幅が狭くなってきているから、左右から襲われにくかったんだな」とか、逆に「この平原では、どこにも逃げ場がないところで戦闘が行われたんだな」ということが読めます。

 さらに、剣士であるリンクと戦って破壊されたロボットの残骸は、脚などが切られているのに対して、ゼルダ姫の超能力みたいなもので倒されたロボットは、手足が全部揃った状態で、逆さ向きになって倒れている。そういったロボットの死に方を見るだけで、「そこでどんな戦いがあったのか?」ということまで、メチャクチャわかるんですよ。

 これが、ブラタモリ的な『ゼルダの伝説 BotW』の楽しみ方なんですね。

歩いてみて初めてわかる語られていないストーリー

岡田:
 「両側を崖に挟まれた狭い街道ならば敵に囲まれなくて済む」ということで双子山の山道を通っていたリンクたち。ところが、そこを抜けると、クロチェリー平原が広がっていて。そして、ここでの戦いで、100年前のリンクは力尽きて息絶えてしまうんです。

 なぜ、超絶的な剣士であったはずのリンクが倒れたのか? 双子山の狭い街道を抜けた平原で、ロボット達から一斉に襲われたからです。それまでは、民間人たちを守りながらの撤退戦のしんがりを務めて、背後から迫る敵だけと戦っていたリンクだったんですけど、双子山を抜けた辺りで四方から敵に襲われ、倒れてしまいます。

 この時点ではまだ能力も発現していないゼルダ姫を連れたリンクは、一緒に戦ってくれる軍隊もいない中、ほとんど1人だけで撤退戦をしていたわけです。そのおかげで、民間人たちは奇跡的にハテノ砦に逃げ込むことに成功しました。

 この、100年前に起きたリンクたちのハテノ砦までの逃避行というのは、クロチェリー平原に残っているガーディアンたちの亡骸や、町や村の廃墟を見ればわかるようになっているんですよ。

ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド - Nintendo Switch(画像はAmazonより)

 僕も最初は、こんなことはまったくわからなくて、街道を移動している途中も「馬で通るには便利だな」とか、町の廃墟を見つけた時も「あ、なんか宝物が拾えるかな?」という浅ましい心でしか見ていなかったんですが、これは、ゲーム攻略をしている最中ならしょうがないんですよ。

 でも、一度、エンディングを迎えた後で、しみじみと歩いてみて「ここは、こんなにすごい場所だったんだ」や「ここは、すごい激戦地だったんだ」とか「ここでは、民間人も一緒に戦ったんだ」ということがわかるんです。

 例えば、倒れたガーディアンの残骸の周りに、“木の棒”とか、“棍棒”みたいな武器が落ちているんですが、僕がクリア前にこれを見つけた時には、「お宝かと思ったけど、どうしようもないゴミ武器だな」と思っていたんです。

 だけど、「そんな武器が周りに落ちているということは、ここを通る段階では、民間人達も、粗末な武器を手にリンクと一緒に殺人ロボットに立ち向かっていたんだな」と、そう思った瞬間に、背筋がゾクゾクとしてくるんですね。

ゲーム世界の歴史すら感じさせるオブジェクト配置

 剣士リンクとゼルダ姫は、逃げる民間人を守りながらクロチェリー平原で戦った末、すべての持てる力を出しきったリンクは、力果てて倒れてしまった。そして、絶望したゼルダ姫は、ついに封印されていた能力を使ったんです。

 そんな出来事から100年後のクロチェリー平原には、ハテノ砦の前方に地平線まで広がっている大地が残っているんですけど、見渡すかぎり、ガーディアンの残骸で埋め尽くされているんですよ。ゼルダ姫の能力によって倒された、何千という数の死骸が、地平線までウワーッと広がっているんですね。

 これも、ゲーム攻略の最中は「ここら辺、ガーディアンの死骸が多いな。生き残っているヤツがいるんじゃないか? 怖いなあ。でも、なんかいいものが拾えるかもな」と思う程度なんです。

 だけど、ゲームが終わって、すべてのお話が頭の中に入ってくると、ここがいかにすごい激戦地だったかということがわかる。「ここで人間が助かったからこそ、ハテノ砦の近くにハテノ村というのが生まれて、100年かけてようやく復興しつつあるんだ」ということが身にしみてくるんですね。

ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド - Nintendo Switch(画像はAmazonより)

 こういうことは、ゲームの中では一切説明してくれず、そこら辺をウロウロしているオッサンとか、お爺さんとか、お姉さんたちが、「昔、こんなことがあったらしいよ」ということを断片的に話をしてくれるんですけど、今、話したような100年前の出来事を直接的に教えてくれるわけじゃないんです。

 でも、ゲームをクリアして、「100年前に、どんなことが起きたのか?」ということを頭に入れた上で、ブラタモリ的な想像力で補完しながら歩いて回ると、いろいろと読めるようになる。

 例えば、「双子山の特殊な地形のおかげで、リンクは民衆を守りながらもなんとか戦い続けられたんだな」ということから、「騎士とか兵隊たちは全員、王国を守るためにアッカレ砦に行ってしまっていた中で、どんなに苦しい戦いだったのか」ということまで想像できるんですよ。

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