寄せ集め感が否めないインスタントチームだった日本代表の不甲斐なさ以上に、北朝鮮代表の組織力や戦術的連動が際立つ試合だった。12月9日の東アジアE-1選手権の初戦である。
 
 最終ラインと中盤の9人が低めの位置に分厚いブロックを作り、日本のボールホルダーを強襲。奪ったボールは1トップ目がけて素早く縦に展開し、その間に中盤が雪崩のごとく前進して攻撃に厚みを加える。GKがパントキックを高く蹴り上げ、その滞空時間を使って全体を押し上げるシーンも目立った。
 
 そのスタイルはいわゆる「弱者のサッカーの典型例」だったが、ハードな守備から素早く縦に展開というサッカーは、ハリルジャパンが志向するものと似通っていた。チームとしてどう守ってどう攻めるのか、そのために個々はどう動くのか――。いずれもしっかり整理されていた北朝鮮代表は、同じスタイルを目指す日本代表を圧倒した。試合終了間際に井手口陽介の1点を奪われ敗れたとはいえ、ヨルン・アンデルセン監督も試合後の会見で、「戦術も対策も上手くいった。我々は5、6回の決定機を作り、相手は1、2回だった。運が悪かった」と胸を張った。
 
 近年の北朝鮮はエリート育成機関『平壌国際サッカー学校』の運営と、そこからの海外留学など育成改革に乗り出しているが、それにしてもである。いかにして個々の技量で上回る日本代表を圧倒するほどの組織力を培ったのか。昨年5月から指揮を執るアンデルセン監督は、会見で衝撃的な練習環境を明かしていた。
 
「我々は非常に厳しいトレーニングを積んでいる。実は代表選手とは、1日2回のトレーニングをできるという契約を結んでいる。平日は私が、テクニック、フィジカル、そして戦術のすべてを徹底的に鍛えている。そして週末は、自分たちのクラブに戻って試合をする」
 
 プロサッカー選手はクラブで日常のトレーニングを積み、数か月に1回のAマッチウィークのみ代表チームで練習するというのが通常の形。しかし、北朝鮮の選手たちは、むしろ代表チームの活動がメインという生活を送っているのだ。かつて旧ソビエト連邦やハンガリーなども似たような手法を取って成功を収めていたが、まさに社会主義国家だからこそなせる強化策である。
 
 今大会の参加メンバーで言えば、唯一の欧州組であるチョン・イルグァン(ルツェルン=スイス)、そして在日Jリーガーである金聖基(町田ゼルビア)、安柄俊(ロアッソ熊本)、李栄直(カマタマーレ讃岐)以外の国内組19人は、公式発表によると計8クラブから招集されている。しかし彼らは、平日はいつも一緒に1日2回のトレーニングを積んでいるのだ。組織力が高いわけである。
 
 ちなみに、同じく会見でヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「ウチは多くの主力が不在だったが、相手はベストメンバー」と言っていたが、これは真実ではない。ハン・グァンソン(ペルージャ=イタリア2部)、パク・クァンリョン(ザンクト・ペルテン=オーストリア)という欧州組の主力FW2人を招集できていないのだ。
 
 とりわけカリアリが保有権を持つハン・グァンソンは、昨シーズンに北朝鮮人選手としては初めて5大リーグで出場&得点を記録し、今シーズンはセリエBでここまで7ゴール・3アシストと大活躍。いまや欧州移籍市場でも注目を浴びている19歳の注目株だ。E-1選手権に出場していれば、日本代表にとっても最大の脅威となっていただろう。
 
 クラブのような環境で激しいトレーニングを積む国内組、そしてヨーロッパやJリーグで揉まれている海外組――。この二本軸で強化を続ける北朝鮮代表は、E-1選手権でもっとも力が劣ると見られていたが、日本戦でその評価を早くも覆している。12月12日の韓国戦、16日の中国戦も注目したい。
 
取材・文:白鳥大知(ワールドサッカーダイジェスト)
 
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