2017年のSEMAショーにて、トヨタブースは「C-HR」&「カムリ」祭の様相を呈しました。日本以上にアメリカで人気という「カムリ」、実際のところどれほどの人気なのでしょうか。現地のディーラーにアポなし取材を敢行しました。

アメリカでの「カムリ」人気の実際とは?

 2017年1月の「北米国際自動車ショー(デトロイトモーターショー)」で世界初公開となったトヨタ「カムリ」は2017年7月、日本とアメリカでほぼ同時期に販売が開始されました。10代目となる同車はそれまでの少し上の世代をターゲットとしたような落ち着いたイメージを払拭し、とってもカッコいいスタイルとなりました。日本のユーザーにはおおむね好評のようです。それでは、アメリカでの評価はどうなのでしょうか。


「SEMAショー2017」トヨタブースにて。NASCARドライバーのカイル・ブッシュがカスタムを手掛けた新型「カムリ」(2017年11月、加藤博人撮影)。

 新型発売からおよそ5ヵ月が経過した2017年11月上旬、アメリカのラスベガスにて開催されたカスタムカーの一大イベント「SEMA(セマ)ショー2017」において、トヨタは新型「カムリ」の2018年モデルと、新たに投入された「C-HR」を中心にした出展を行いました。特に「カムリ」に関しては、標準モデルに加えてNASCARの契約ドライバー4名それぞれが手掛けた4種のクールなカスタムカーのほか、初代から10代目(現行)まで歴代「カムリ」を一堂に展示するなど、「大カムリ祭り」といえるほどの盛り上がりを見せていました。

 それもそのはず、「カムリ」は車王国アメリカで世界各国のセダンがしのぎを削るなか、15年ものあいだ、乗用車販売台数1位をキープしています。アメリカのユーザーは「カムリ」のどんなところに魅力を感じているのでしょうか。また、新型「カムリ」の評判はどのようなものなのでしょうか。ロサンゼルスのトヨタディーラーにて取材してきました。


「SEMAショー2017」にて。初代から現行10代目までの「カムリ」がズラリ。

米カリフォルニア州ガーデナ市のトヨタ車ディーラー、SOUTH BAY TOYOTA。

新型「カムリ」の、日本では販売されていないスポーティグレード「SE」「XSE」がずらり。

 私(加藤久美子:自動車ライター)が訪れたのはロサンゼルス郊外ガーデナ市にある、SOUTH BAY TOYOTAというディーラーです。アポなしだったので、ダメ元で行ってみました。時間は17時を過ぎており、もう閉まっているのではないかと思ったのですが……グーグルマップの情報を見ると開店時間は21時までとなっています。半信半疑で行ってみると、駐車場もオフィスも煌々(こうこう)と明かりがついていて、オフィスには人影もいくつか見えます。私たちがゲスト用駐車場に車を停めると、なかからスタッフが出てきました。そこで、日本の自動車メディアで記事を書いていることや、アメリカでの「カムリ」ユーザーのことや新型「カムリ」への評価を知りたいということを伝えたところ、インターネットセールスの責任者であるジェイ・ソリアーノさんが対応してくれることになりました。フレンドリーな雰囲気の中、取材を快諾いただき、インタビューを開始しました。

現地ディーラーに聞いた「カムリ」の実際のところ

――「カムリ」は15年連続で全米の乗用車販売台数ナンバー1をキープしています。この理由は何だと思いますか?

 お客様は「カムリ」をとても愛しています。2018年モデルでデザインを一新し、かなりアグレッシブなデザインになったことで、より一層「カムリ」のファンが増えたという印象です。モデルチェンジはおおむね好意的に受け取られています。これまでの「カムリ」には、スポーツカーを思わせるようなデザインやイメージがまったくと言って良いほどありませんでした。しかし、新しい「カムリ」はデザインがスポーティでひと目見てわかりやすいカッコよさがあります。特にリアのライト周りの立体的なデザインが好評です。最新のレクサス車に似ているという理由もあるでしょうね。

 上級グレードはエグゾーストが左右各2本出しであったり、インテリアに赤いレザーが採用されたりと、スポーツカーの雰囲気があふれています。ちなみに、内装に赤いレザーが使われたのは歴代「カムリ」のなかで今回が初めてです。こちらも大変好評です。


突然の取材申込に快く対応してくれた、SOUTH BAY TOYOTAのジェイ・ソリアーノさん。

日本国内未発売、新型「カムリ」のスポーティグレード「XSE」。

広大な敷地にトヨタ車がズラリと並ぶSOUTH BAY TOYOTA。

――人気のグレードやボディカラーは何でしょうか?

 30〜40代の若いユーザーは、「SE」や「XSE」などスポーツ系のグレードを選びます。これまでの「カムリ」にはなかったスポーティなルックスが大変高評価を得ています。50代以上のユーザーは、「LE」などラグジュアリーなグレードを好みますね。これまでの「カムリ」のイメージを好む人々です。

 ボディカラーで一番人気はパールホワイトです。実は私も新型「カムリ」に乗っていますが、やはり色はパールホワイトを選びました。カムリの美しいシルエットが最も映えるボディカラーだと思います。次に人気なのはグレイです。カムリのような正統派セダンでは明るすぎず暗すぎずという色が好まれます。インテリアは古くからアメリカ車でおなじみの赤いレザーが人気ですが、ブラック系も人気です。パールホワイトのボディにブラックのインテリア……コントラストがとても美しいです。

カムリの広告展開がスタートした直後から、予約が殺到!

――新型「カムリ」が発表されたときの、ユーザーの反応はいかがでしたか?

 2018年型「カムリ」は2017年1月の「北米国際自動車ショー」で発表され、6月に生産が開始され、7月にデリバリーが始まりました。「カムリ」の広告が始まった直後から大きな反響があり、広告を見た人々はまるで磁石に吸い寄せられるように集まってきました。そのデザインを見てすぐにデポジット(予約金)を入れた人も大勢います。先代「カムリ」に比べて少し価格の値上がりもありましたが、そんなことで躊躇する人はいませんでした(笑)。カムリを見た瞬間に「これは買わなくては!すぐに買わなくては!」と決意を固めた人もいますね(笑)。

――「カムリ」のライバルはどんなクルマですか?

 最大のライバルはホンダ「アコード」です。あとは、日産「アルティマ」ですね。日産「マキシマ」は「カムリ」の上の「アヴァロン」のライバルです。しかし、多くの人は「カムリ」を選びます。今回は刺激的なデザインに惹かれて買った人も多いと思いますが、カムリの最大の良さは品質です。彼らは「カムリ」のクオリティを知っていますから、たとえライバル車の方が2000〜3000ドル安かったとしても、価格より品質の良さを重視します。

――「カムリ」のユーザーは「カムリ」が日本のクルマだという意識はどれくらいあるのでしょうか?

 もちろん、ユーザーは「カムリ」がトヨタのクルマで、トヨタが日本の企業であることは知っています。しかし、「カムリ=外国車」という認識はもはやほとんどないでしょう。なぜなら、「カムリ」がアメリカで販売を始めて30年以上が経過し、長いあいだベストセラーを続けています。アメリカの人々の暮らしに完全に溶け込んでいて、アメリカのカルチャーのひとつになっていると思います。「カムリ」はそれほどまでに、アメリカのユーザーに愛されているんですよ。


部品はどこで生産され、組み立てはどこか、部品の現地調達率なども細かく説明されている。

日本国内で発売されているものと同じハイブリッドモデル。

――最後に、アメリカの自動車ディーラーは17時頃で閉店かと思っていましたが、遅くまで営業しているのですね。

 はい。トヨタに限らず、どこの自動車ディーラーもお客さんがお店に来るのであれば夜9〜10時でも対応します。それは、チャンスがあればムダにしたくないからです。もし、私たちのディーラーが閉まっていたら、お客さんはほかのディーラーに行ってしまうかもしれません。それは絶対に避けなければ! お客さんは週末にたくさん来ます。金曜日の夜、その週の仕事が終わってウキウキ気分でディーラーに来ます。土曜日は朝から大勢のお客さんが来ます。日曜日は午前中に家の用事や教会に行くことを済ませて午後から来るケースも多いですね。なかには、日曜日の夜に「『カムリ』がすぐほしい! 明日、新しい『カムリ』で出勤したいから」と言って買っていくお客さんもいます(筆者注:アメリカは日本と違って車庫証明などの手続きが不要で、ナンバーも購入から一定期間はつける必要がないので、自転車を買うようにディーラーから新車を買って乗って帰ることが可能)。

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 アポなし取材でありましたが、新型「カムリ」に関する興味深い話を聞くことができました。「カムリ」がここまでアメリカのユーザーに愛されていることを知って胸がアツくなりました。そして、ひと昔の日本車のように品質や価格、燃費の良さだけではなく、「デザインの良さ」でも日本車が選ばれる時代になったのだなあと思うと、なかなか感慨深いものがありました。