廣瀬智紀、史上最大の挑戦! そう言いきって間違いないだろう。11月23日から始まる舞台『髑髏城の七人』Season月<下弦の月>への出演のことだ。本人は、そんな周囲からのすさまじいまでの期待や感慨をきちんと受け止め、静かに、しかし誰よりも闘志を燃やしている。目の前にそびえる壁の高さ、やるべきことの多さに嘆息しつつ、ポツリとこうつぶやいた。「勝負します」と――。

撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.

『髑髏城の七人』出演について、業界内より遅れて知ることに!?

劇団☆新感線の代表作『髑髏城の七人』が“花・鳥・風・月・極”の5つのシーズンにわかれてロングラン上演中ですが、11月23日から始まる“Season月”<下弦の月>に廣瀬さんが出演されます。まずはおめでとうございます!
ありがとうございます。
豊臣秀吉の天下統一が目前に迫る中、その支配が及ばない関東で、天魔王を名乗る仮面の男が率いる関東髑髏党が暗躍。かつて信長に仕え、天魔王と深い因縁を持つ捨之介(すてのすけ)が、天魔王の野望に立ち向かうさまが壮大なスケールで描かれます。1990年の初演以来、繰り返し上演されてきた新感線の名作に出演することが決まったときの気持ちは?
それが…ちょっといろいろありまして(笑)。まず、今回の公演が行われる劇場・IHIステージアラウンド東京が作られるというニュースを見たんです。
客席が360°回転する、これまでにない劇場が今年の春にオープンしました。劇場が作られるというニュースはおそらく、数年前ですね?
いまの時代、次々と劇場がなくなっていき、寂しいなと思っていたんです。そんなタイミングでこんなすごい劇場ができると知って。自分も舞台に出させていただいている身として、絶対にこの劇場のステージに立ちたい! と思ったんです。それもあって、その後もこけら落とし(※新しくできた劇場で初めて上演されること)は何を上演するのかな? とずっと気にして、ニュースにアンテナを張っていて…。
そうしたら、劇団☆新感線の大人気作品『髑髏城の七人』が上演されることが発表されて…。
僕は、2011年の小栗旬さん主演の公演のDVDを持っていて、大好きな作品だったんです。上演当時、渋谷にバンッ! と巨大なポスタービジュアルが貼られていて「絶対に観たい!」と思ったけど、それが叶わず、DVDを買ったんです。今回、最初の“Season花”は、また小栗さんが主演で超激アツじゃん! これ絶対行かなきゃ! って。
小栗さんら“花”キャストがニュースとして発表された時点では、さすがに廣瀬さんの出演自体は決まっていたかと思いますが…。
おそらくマネージャーさんは、僕に対して時期的にも「目の前の仕事を一生懸命に」という思いで、あえて知らせなかったんだと思います。少なくとも業界内のみなさんがすでに知っている中で、僕はかなり遅れて知りました…。
そんなにギリギリのタイミングで?
だから、いろんな人に「今度、『髑髏城』に出るんだって?」とか言われて、そのたびに「いやいや、それ俺じゃないよ」とか「別の廣瀬じゃないの?」って返していました(笑)。でも、あまりにも言われることが多くなって「なんでこんなにニセ情報が出回ってるんだ?」と(苦笑)。
フェイクニュースが出回って迷惑だなと?(笑)
そこから正式に知らされて、それもドッキリなんじゃないかと思いました(笑)。

不安もプレッシャーもあるけど…「もう、やるしかない」

主人公の捨之介を声優、そしてミュージカルでも活躍されている宮野真守さん、天魔王を鈴木拡樹さんが演じ、そのほかにも霧丸役の松岡広大さんなど、廣瀬さんを含め、いわゆる2.5次元の作品で活躍されている面々が顔をそろえているのが“Season月”<下弦の月>の特徴です。
自分をキャスティングしていただいて、すごくうれしいですが、この方向性でのキャスティングでなければ、僕はここにいなかったと思います。このメンバーの中に加えていただいたことは、この先を含め、役者をやっていく中でもこの上なく幸せなことだなぁと感じています。
「この方向性でのキャスティングでなければ」とおっしゃいますが、2.5次元作品で活躍されている役者さんもたくさんいらっしゃいます。その中で選ばれるのはスゴいことですし、実力があってこそ。ファンにとってもうれしいニュースです。
そう思っていただけるのはありがたい限りですが、自分としては信じられないという思いが強いです。とにかく、やらなくてはいけないことが山積みで…(苦笑)。
廣瀬さんが演じるのは、行く当てのない者たちを受け入れる「無界の里」の主人・無界屋蘭兵衛(むかいやらんべえ)。捨之介、天魔王とも深い因縁がある役柄ですね。過去には早乙女太一さん、山本耕史さん、向井 理さんが演じられていましたが、アクション、とくに殺陣の美しさが求められる役ですね。
不安もプレッシャーもものすごくあったし、いまもないと言えばウソになるけど、始まってしまえばがむしゃらにやるしかない。キャスティングしていただいたからには、自分が思い描く無界屋蘭兵衛を生み出さなきゃ意味がない。関係者、観客のみなさんに認めてもらえるように、役者人生を懸けて勝負したいです。
まだ、稽古に入っていない状況ですが、いまの時点(※取材が行われたのは9月下旬)で楽しみにしている部分はどういうところですか?
自分が立ちたいと思っていた劇場、大好きな演目がそろっていて、それだけでうれしいんですが…。“花”と“鳥”を観させていただいて、舞台でありつつ、映像を駆使したり、客席が動いたり「こんなエンターテインメント、いままでない!」と感じました。この劇場だからこそやる価値のある『髑髏城』だと思うので、そこが楽しみです。
どんな蘭兵衛になるのか、現時点でイメージなどはありますか?
いままで名だたる役者さんたちが演じてきた、魅力的な蘭兵衛に対するリスペクトは僕の中に根付いています。そこは大事にしつつ、自分だからできるもの、自分のカラーを見つけたい。とはいえ勝負は稽古に入ってから。お客さんに「あぁ、これが廣瀬なりの蘭兵衛なんだな」と思っていただけるものを絶対に見せられるように。頑張りますので楽しみにしていただきたいです。

初対面で感じた、主演・宮野真守の“人間力”

“天魔王”鈴木さんとの久々の共演についてはいかがですか?
拡樹くんには舞台『弱虫ペダル』でお世話になって、その後に一度、朗読劇でも一緒になったんですが、それからは少し空いてしまって3年くらい会ってなかったんです。
おふたりとも主演として舞台に出演する機会が多かったので、意外と交わる機会がなかったんですね。
いま、少し時間を経てこうやってこの作品で共演できるのは運命だと思うし、この約3年でお互いに何をやってきたかが表れると思います。自分がやってきたことを提示したいし、周りの役者のみんなからは、拡樹くんとの共演をうらやましがられると思うんです(笑)。
ファンにとっては鈴木さんと廣瀬さんの共演はうれしい限りですが、共通の知り合いの役者仲間からは、たしかに羨望の声が上がりそうですね。
そこは僕も楽しみたいです。昔からの仲だからこそ、最初からバチバチと当たっていきたいと思っています。
一方で、主演の宮野さんとはこれが初共演なんですね?
そうなんです。もちろん、声優としては存じ上げていましたが、さらにミュージカルや舞台でもものすごい人気があると知り、大きなパワーがある人だなと思っていたんですが。じつは今日、初めて対面して、見るからに“人間力”のある方だなと感じました。
宮野さんが、ライブドアニュースの前のインタビューを受けられていた廣瀬さん、鈴木さん、松岡さんのところに後ろから近づいて驚かせようとしているのを見ました。ワイワイと仲の良い感じでしたが、まさか今日が初対面とは…!
この人が先頭を走って行くなら、みんなで最高の空気が作れるというのを肌で感じました。僕のファンの方や、『弱虫ペダル』や『ダイヤのA』などの2.5次元作品が好きで劇場に足を運んでくださる方も、当然、宮野さんのことを知っていて、共演を楽しみにしてくださっているとも思います。
たしかに今回の作品は、いつも以上に多様なファンが劇場に足を運ぶことになりそうですね。
その期待を超えていきたいし、僕のことを知らない舞台ファンの方、新感線のファンの方々にも認めていただけないとダメだと思ってます。命がけです(笑)。気にしすぎるのもダメだけど、お芝居はお客様に届けるもの。しっかりと意識づけをして蘭兵衛を作り上げたいです。
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