人懐っこい笑みと柔らかい物腰でスーッと相手の距離に入っていく。育ちのよさ、素直さとともに不思議な大物感を漂わせる。杉野遥亮がドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)で俳優として表舞台に出たのが、わずか1年前。気づけばネクストブレイクを期待される若手の一角を占めるまでになったが、マイペースなところは変わらない。恋愛映画や青春ストーリーで、次々と若者の恋の苦悩を体験することが「楽しいし、私生活で役に立ちそうです!」と笑う。

撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc

自然体で演じることが、ハルヨシの柔らかさにつながる

11月25日から公開の映画『覆面系ノイズ』ですが、福山リョウコさんによる累計200万部突破の人気漫画が原作ですね。
最初にこの作品のオーディションを受けることになって、少女漫画誌『花とゆめ』(白泉社)に連載されている人気漫画ということで、「王道の少女漫画原作のラブストーリーかな?」と思いながら、原作を読ませていただきました。読んでいるうちに気づいたらのめりこんじゃって、周りに薦めるくらいになってて(笑)。これは絶対にやりたい! って思いました。
突然、姿を消した幼なじみに届けるために歌い続けるヒロイン・有栖川 仁乃(通称:ニノ/中条あやみ)と彼女の歌に魅了された杠 花奏(通称:ユズ/志尊 淳)、そしてニノの幼なじみながらもある秘密を抱え、彼女を拒絶する榊 桃(通称:モモ/小関裕太)を中心としたラブストーリーではあるのですが、それだけではなく…。
恋愛と並行して展開する、青春群像劇や音楽のシーンがすごく面白いんです。もちろん、原作のファンは女性が多いと思いますが、ライブシーンやバンドを巡るドラマなんかは、男性から見ても絶対に面白いだろうと思います。原作を読みながら「あぁ、いいな…」って震えたのを覚えてます。
杉野さんが演じた悠埜 佳斗(通称:ハルヨシ)は、ユズを中心に結成された高校生覆面バンドのin NO hurry to shout;(通称:イノハリ)のリーダーでベーシストですね。
まず、原作を読むと顔立ちがすごくキレイで、そこはひとつ、大きなプレッシャーでした。人気の高いキャラクターってこともわかっていたので、映画化決定が発表されるときはイヤでしたね(苦笑)。
金髪と女性的な言葉遣いが特徴ですが、映画でもそこはそのまま表現されています。
話し方に関しては最初、漫画で感じたままをストレートに演じるとなると、テンション高めの芝居を目指さないといけないのかな? と悩みました。でも「何でこの人はこういう話し方をするんだろう?」と考えたとき、そこに彼なりの人との関係の築き方があるんじゃないかって。
と言いますと?
バンドのリーダーとして、チームを調和させることができるし、他人の感情に寄り添える優しい男なんだなって。“作戦”というと言葉は悪いけど、それは彼が生きてきた中で、自然と身についたものなんじゃないかなと。
ハルヨシなりのコミュニケーション術として、あの柔らかい口調があると?
相手に不安や不快感を与えない柔らかさがあって、普段、接しているヘアメイクさんやスタイリストさんたちとのコミュニケーションを思い起こして、なるほどと納得しました。変にテンションやトーンを上げすぎず、自然体のままでセリフを口にすれば大丈夫なんだなって捉え方が変わりました。

キャスト内では最年少だけど…役としては“調和”を図る立場

そして、イノハリのメンバーとしてベースの演奏をするのも大きな挑戦だったかと思います。
もちろん、練習もたくさんしたし、その過程で少しずつ楽しさを見出せたのは、クランクイン前の大きな収穫でしたね。バンドとしてみんなでやる機会もあったんですが、初めてみんなで音を合わせたときは感動しました。そのときの感情、経験は確実に映画の中で活きていると思います。
ベースの魅力に目覚めましたか?
弾いていて「楽しい!」って感じる瞬間もありましたし、その後も音楽を聴いていると、ついついベースの低音を探しちゃう自分がいますね(笑)。
部長としてバンド全体をまとめていく立場という部分で、意識したことなどはありましたか?
やっぱり調和ですかね? これは何より両親から学んだことですけど、誰か怒る人がいるなら、一方でほめる人がいないといけない。どちらかの肩を持つのではなく、調和を図る。時に少し引いて全体を俯瞰することもあれば、グッと中に入っていくこと、高圧的にならずに相手の話を引き出すことも必要。シーンごとに、ハルヨシの立ち位置を見極めて演じる難しさはありました。
どちらかというと、杉野さんには年上のメンバーの中で“弟”キャラとして可愛がられるイメージがあるかと思います。
え? 僕自身ですか? そうかも(笑)。
ただ、今回の現場では、イノハリに途中から加わるニノ役の中条さんをのぞき、志尊さん、黒瀬 歩(通称:クロ)役の磯村勇斗さん、ボーカルの珠久里 深桜(みおう)役の真野恵里菜さんとみなさん、実年齢では杉野さんより年上ですね。でも役のうえではハルヨシが最年長で…。
そうそうそう!(笑) そこは最初、すごく不安でした。でも、僕の予想を超えて、志尊くんと磯村くんが、あえて思い切りバカをやってくれたおかげで僕はハルヨシとして、少し引いて全体を見ることができました。すごくバランスのいいチームだったと思います。
原作通りの金髪をピンで留めた、ハルヨシのビジュアルはいかがでしたか?
金髪になったことで、杉野遥亮的に、すごく開放的になった部分はあったと思います。周りから「(性格が)変わった?」と言われることも多かったですし。いま、話しながら気づいたんですけど、ハルヨシも金髪にすることでスイッチを入れてたのかもしれませんね。そういう意味で、自然と説得力を持たせられたのかなぁ…?
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