10月20日から上演中の舞台「青の祓魔師」島根イルミナティ篇で、北村 諒演じる奥村 燐の双子の弟、奥村雪男を演じている宮崎秋人。メインという立場、数多くの作品に出演し積み重ねてきた実績、どれをとっても、舞台「青エク」座組みのなかで彼の姿は大きいに違いない。これまでは、宮崎がさまざまな現場で先輩たちの背中を追いかける立場だったが、27歳になった今、後輩も増え先輩という立場になってきた。本人曰く「気づいたら、ずいぶんお兄ちゃんになっちゃって…」とのことだが、先輩としての意識はどうあるのだろうか?

撮影/祭貴義道 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.

「僕ら役者は、演出の西田さんを信じてやるだけ」

今は(※取材が行われたのは10月中旬)、稽古場での稽古が終わり、小屋入り前の段階なんですよね。
はい。稽古場(での稽古)は終わってしまいました…! これから劇場に入って、まだまだやることがあるのでしっかり気を引き締めていきたいです。
稽古をするにしても、稽古場と劇場では意識的に違いますか?
自分の場合、劇場に入ると“ステージの上に立つ意識”のスイッチが入るんです。それは、稽古場で稽古に臨むときと違う感覚かもしれないです。劇場で場当たりをやっていると、いよいよはじまるんだなっていう緊張感もありますね。
実際のセットも組まれていますしね。
そうなんです。もちろん稽古場にもセットを組んでいただくのですが、劇場でとなると、リアルさがより増すというか。とくに今回はセットが大掛かりなので、そこは実際のセットでやってみないとわからないところも出てくると思います。限られた時間のなかで初日に向けて、どこまで完成度を高められるかが勝負です。
脚本・演出の西田大輔さんが直近で担当された作品で言えば、舞台「煉獄に笑う」も、迫力のあるセットを大胆に駆使した演出が印象的でした。今回の舞台「青エク」でも、大きなセットをどう使うのかとても興味深いです。
セットの動かし方ももちろんですが、じつは、西田さんが一番こだわるのは照明なんです。なので、照明にも気を配って見ていただくと面白いんじゃないかなと思います。暗転も無駄に使わない方ですし、西田さんの演出はとても華があるんですよね…!
今回の宮崎さんの取材の準備で、これまでの舞台「青エク」での宮崎さんのインタビューをいろいろと読んできたのですが、けっこう至るところで西田さんのお話が挙がっていたなと感じて…。
あはは! たしかに。僕、西田さん、西田さんってすごい言ってますよね(笑)。
はい。なので、宮崎さんはすごく西田さんのことを信頼されているのだな、と。
西田さんには絶対的な信頼を置いていますね。「この人を信じていれば大丈夫」って思ってます。西田さんは「いいから黙って俺について来い!」って感じで、勢いがあってどんどん引っ張っていってくれるので、「ついていきたいな」って思わせる方なんです。
北村 諒さんのインタビューや、舞台「煉獄に笑う」に出演された鈴木拡樹さんのインタビューでも、座組みの士気を高めて、どんどん引っ張ってくれる存在だというお話がありました。
たとえば、僕がちょっと不安に思っていることがあっても「大丈夫だから!」って言ってくれて。たとえそれに根拠がなくても、西田さんが言ってくれたら「あ、大丈夫かも」って思ってしまうんですよね。だからこそ、僕ら役者は西田さんの演出を信じて思い切ってやるだけです。原作がある作品ですが、西田さんは「あまり意識しすぎなくていい」とも言ってくれますね。
それは、原作に縛られすぎてお芝居が不自由にならないように?
生身の人間である僕らが、舞台上で何を見せるべきか…。西田さんは、その場で生まれた自分の感情やドラマを大事にしようと言ってくださる方なんです。マンガの絵で見ると、このセリフはぼそっと小さい声で言っているけど、じゃあそれを舞台上でぼそっと表現したらお客さんに伝わるのか…と言えばそうじゃない。
舞台ですから、その場にいるお客さんにそのシーンで伝えたいことを伝えられなければ意味がないですね。
じゃあ、それをどう表現したらいいのか? どんな気持ちで演じたらいいのか? 西田さんはそこまで一緒に考えてくださいます。だからこそ、僕らもやりやすいというか、いろんな球が投げられる(演技の表現に挑戦できる)んです。

共演者と一緒に芝居をするなかで、“奥村雪男”が作られる

お稽古中に指摘されることも多いですか?
もちろん、言う人には言うんですけど、僕ときたむー(北村)はあまり言われないですね。「お前らはもうできるだろ」っていうことの表れだと思うんですけど。
西田さんからも信頼されているんですね。
信頼していただいているんだなと感じます。でも言葉がないからこそ、怖いときもありますね。「俺、ちゃんとできているかな!?」って(笑)。
言葉にしてくれたほうがいい?
いや…たぶん言われたときに悔しく思っちゃう気がします。昨日(※取材日の前日)の稽古打ち上げで、西田さんに「お前、あのセリフはもうちょっと言い方があるぞ」って急に言われて。普段言われないので、めずらしく言葉で指摘を受けて「もっと頑張らないと!」、「何で気づかなかったんだ!」って思ったので(笑)。
宮崎さんが役を自分のなかに落とし込む際に、大切にしていることは何でしょうか?
一本の物語であるという意識が大きくて、今回で言えば神木出雲(大久保聡美)がフィーチャーされていますが、この物語のなかで、出雲にこのセリフを言わせるためには、自分の感情をどう持っていくか、というのを考えていますね。
奥村雪男だからどうこう、というわけではなく。
もちろん、雪男だからこそのセリフもたくさんありますが、「雪男はこういう男だから」っていうことは考えていないです。相手のための演技という意識が強いというか。それは、きたむーも(奥村 燐として)同じって言っていました。僕はアニメから『青の祓魔師』に入りましたが、マンガも大好きで。いちファンだからこそ、そこをなぞりたくないんです。
なるほど。
だってもう、マンガがベストじゃないですか。だからこそ、そこを追いかけるのは違う。「似てるね」じゃなくて、加藤(和恵)先生をハッと思わせないといけない。それは、きたむーがいて、聡美ちゃんがいて、ほかのキャストがいて…一緒に芝居をすることで作り上げられる。だからこそ、自分の奥村雪男ができているのは燐(北村)をはじめ、みんなのおかげなんですよね。

現場に後輩が増えてきて…先輩としての意識は?

大久保さんをはじめ、今回は新キャストも加わっていますが、座組みの雰囲気はいかがですか?
仲はすごくいいです。前回とはまた違う空気感で新鮮ですね。
今回はどんな雰囲気なんでしょう?
京都紅蓮篇では、雪男が祓魔塾(※ふつまじゅく、燐たちが所属する祓魔師養成機関)のメンバーたちとあまり絡まなかったのですが、今回は舞台上で話すことも、行動を一緒にすることも多くて。僕自身キャストの輪に入って、自分のなかで“輪”という感覚が大きくなった感じはします。あとは…単純に、アンサンブル含めすごく若い子たちが揃っているなって…。きたむーと僕がずいぶんとお兄さんになってきて…。
年齢、経験値的にも、座組みのなかでそういった立ち位置になってきたということですね…。
本当に…。自分が先輩に対して「○○くん、○○くん」って言っていたのに、気づいたら「秋人さん」とか呼ばれるようになっちゃって。もうキツいですよ(笑)。
キツいんですか?(笑)
だって“さん”づけされるとなんだか気恥ずかしくて、「呼び捨てでいいよ!」とか思いながら(笑)。
とはいえ、後輩はどんどん入ってきますね。後輩との接し方で、意識していることはあるんですか?
自分もきたむーもですが、場数は踏ませていただいてきたので…その経験が活かせることだったら、聞いてあげたいしアドバイスしてあげたいなと思っています。
たとえば?
芝居のことは…僕が口を出すことじゃないので、小道具の使い方とか、体の動かし方とか、舞台セットからの降り方とか、効率のいい段取りへの運び方とか。……そんなことを言っているんですよ。僕が偉そうに(笑)。
いやいや、すごくありがたいお言葉だと思いますよ。現在27歳ですもんね。そんな宮崎さんが後輩だった頃に思い描いていた、理想の先輩像に近づいている感じはありますか?
あぁー…どうですかね。やっぱり自分が見ていた先輩も、一緒に年齢を重ねていくから、自分もずっとその人たちを見続けていて。どんどん理想のレベルが上がっていってしまう(笑)。
宮崎さんが見てきた先輩と言うと…。
ミュージカル『薄桜鬼』で共演した矢崎 広くんや、鈴木勝吾くん、小野健斗くんという先輩を見ていて、当時も今もその背中は大きいです。後輩たちにも「僕じゃなく、ここ(矢崎、鈴木、小野)を見たほうがいいよ!」って言いたい(笑)。
(笑)。今回の舞台「青エク」で言えばですが、燐と雪男がメインなので、後輩の方々もやっぱり宮崎さんの背中を見て学びたいと思います。
そうですよね。いい背中を見せられたらいいなとは思っていて、僕に何ができるかなっていうのは考えているんですけど…。僕にできたことは、アンサンブルメンバーたちのために、ひたすらカップラーメンを買ってあげることくらいで……。
アンサンブルの方々のために差し入れを?
アンサンブルメンバーの誰かが休憩中にボソっと「誰かカップラーメンを差し入れしてくれないかな」って言っていたのを耳にして。「そうか」と思って、大量のカップラーメンを差し入れるようになりました。でも、アンサンブルメンバーがいないと成り立たない作品でもあるので、感謝の気持ちもあって、ですね。
何かを教えるのもそうですが、そういった配慮もうれしいことだと思います。
アンサンブルはとくに駆け出しの若い子が多くて。お金がないときの差し入れって本当に助かるんですよね。僕も最初の頃は、稽古に行くお金もないっていう状況があって。当時、それを聞いた別現場の先輩が人づてに、僕に食べものをいっぱい差し入れてくれたことがあったんです。
そうだったんですね。
そのときは本当にありがたかったです。だからこそ、僕も後輩たちにそうしてあげたいなと思います。その経験がなかったら、僕は今、下の子にそういうことをしてあげられなかったと思うので、先輩に感謝ですね。
後輩の方が先輩になったとき、宮崎さんの姿を思い出して「後輩に差し入れしてあげよう」って思うかもしれないですね。
(うれしそうな表情になって)あぁ、そうなったらすごくうれしいです!

生徒という立場での雪男の姿は、演じていても新鮮

今回、宮崎さんが稽古でとくに注力したシーンはありますか?
前回は、幕が開けてすぐに話の本筋に入って戦いがはじまっていましたが、今回はわりと事件がはじまるまで時間があるんです。学校のシーンで、それこそ先ほどもお話した、塾のメンバーとの会話もある。その引き出しを雪男として前回で作れていなかったのでけっこう考えました。
そういった、生徒としての雪男の姿が前回少なかったからこそですね。
だから、そういう雪男を演じていて…調子が狂うなぁって思っちゃって(笑)。西田さんも稽古中にニヤニヤしながら見ていましたし(笑)。でも、そんな和やかムードのなかの雪男の姿にも注目して見ていただきたいですね。雪男に関しては、立ち位置が難しくて、そこは前回も今回も意識している部分です。
立ち位置、ですか?
燐のようにガンガン引っ張っていくタイプじゃなくて、どちらかと言うと燐が作った荒い道を、歩きやすい道に舗装していくポジションじゃないですか。表立って派手じゃないからこその難しさはありますね。
たしかに。前回は燐と雪男が別行動でしたが、今回は、燐と同じミッションに挑んでいき、ふたりの掛け合いも多いので、そのコントラストが見えやすいかもしれません。
そうですね。実際、僕も燐と掛け合いをしていて新鮮に感じています。改めて、雪男としても宮崎秋人としても、燐は頼もしいなぁって思っちゃいました。
楽しみな部分と言えば、原 勇弥さんが演じる外道院ミハエルのビジュアルのインパクトがスゴいです。個性的すぎるキャラクターですし、どう表現されるのかが気になってしまいます。
本当にびっくりしますよ! インパクトが強いです。だからこそ、ミハエルが舞台上に現れると、お客さんの目が彼にしかいかなくなっちゃう。ほかの役者がまぁ頑張らないといけないんですけど、これまた役作りもすごく濃くて。原 勇弥とは今回初共演なんですが、出会ってよかったなと思う役者のひとりです。
一緒に芝居して新たな発見もあった?
もうね、原 勇弥って男は武器だらけなんです! 声もそうだし、ルックスも、器用で何でもこなせるし、素敵な役者さん。西田さんも面白半分で演出をつけるんですが、それを彼は本気でやるので「台本にそんなこと書いてないでしょ」ってことばかりです(笑)。
とても楽しみですね。では、改めて映像や、劇場で見るのを楽しみにされている方へメッセージをお願いします。
いろんなところで、さまざまなことをやっている作品だなと本当に思います。映像のカメラでどこまで追い切れるのだろうか!? と思いますが、そこはみなさんプロの人たちが揃っているので、一番いいところを抜いてくれるはずです(笑)。表情ひとつひとつ、細かい部分まで繊細に表現していますし、カッコいいアクションもあるので、映像でご覧になる方も、これから劇場にいらっしゃる方も楽しみにしていただけたらなと思います。
次のページ