場を明るくする意識と配慮――鳥越裕貴が多くの共演者から愛されるワケ。
鳥越裕貴と共演経験がある役者の取材時に「共演者との印象的なエピソード」を尋ねると、鳥越の話題が挙がることが多い。誰とでも分け隔てなく接し、率先して場を盛り上げて明るい雰囲気を作る。今回の撮影でもカメラマンの要望以上の表現で返し、インタビューでも笑いが絶えなかった。本人は、「西の血が入っているので!」と言うが、そこには取材班が気持ちよく仕事ができるようにという配慮が込められているに違いない。誰しも、そんな彼の人となりに惹かれてしまうのだろう。
撮影/川野結李歌 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.意外だった敦役に「演技の幅を広げるチャンス」を感じて
- マンガ『文豪ストレイドッグス』(KADOKAWA)は、実在した文豪の名前を持つキャラクターたちが、異能力バトルを繰り広げるバトルアクションです。2016年4月からはテレビアニメも放送されました。鳥越さんの『文スト』との出会いは?
- アニメ第2クールが放送されていた頃、深夜にテレビをザッピングしていたら『文スト』が放送されていて、そこからアニメを見はじめました。普段、アニメは見ないのですが、アニメーションの面白さやバトルシーンの迫力など、一目見て惹き込まれてしまい、そのあと第1クールも一気に見返しました。
- 最初はアニメからだったんですね。
- はい。アニメーションの迫力もさることながら、登場人物それぞれの心情もしっかり描かれていて…完全にドハマりしてしまいました。それから、舞台のお話をいただいて、マンガも単行本を全部揃えたら、これまた面白くて!
- 舞台「文豪ストレイドッグス」で鳥越さんが演じるのは、気弱ながらも心優しい青年・中島 敦ですね。敦役だと知ったときの心境は?
- いやー、敦か! と思いました。アニメを見ながら「自分が演じるなら誰だろう、芥川(龍之介)かな?」とか考えていたんですけど……。
- もしかしたら、今回みたいな舞台化があるかもしれないと思っていた?(笑)
- イヤだなー! そんなこと言ってないですよ! あくまで“可能性”があるかな〜と(笑)。
- (笑)。
- そうやって考えていたんですけど、まさかの敦役で自分でも意外でした。今年に入ってから自分とは少し離れた役をいただくことが多かったこともあって、いろいろと挑戦させていただいていたので、敦役も自分の演技の幅を広げられるチャンスかなと思いました。
- そう思うと、鳥越さんと敦はあまり似ていないのでしょうか?
- いや、(わざとらしく)やっぱり、気弱だったり、人に優しかったりするところは似ているのかなと思いますね〜。
- (……えっと……)現状、役作りとして準備していることはありますか?(※取材が行われたのは9月下旬)
- 演出の中屋敷(法仁)さんと、脚本の御笠ノ(忠次)さんとお話をさせてもらったときに「敦はとても動くよ」と言われたので、これは体力をつけないとアカンなと思ってジョギングをはじめました。
- そうだったんですね。鳥越さんはわりと普段から筋トレなど、体を絞られているイメージでした。
- 筋トレはやっていますね。ジョギングもたまにやっていたんですけど、ここまでストイックにやるのははじめてかもしれません。舞台では人一倍動くくらいの勢いで、体力をつけていきたいと思っています。
- 敦は太宰 治(多和田秀弥)を助けたことから、太宰らが所属する武装探偵社に入ることとなります。しかし、気弱な性格ゆえに「探偵社・西のヘタレ」と呼ばれてしまいますね。鳥越さんが、ご自身で「ヘタレだな」と思うときはありますか?
- お笑い芸人さんと仕事をさせてもらうことも多いのですが、芸人さんとの飲み会とかで面白い話が繰り広げられているときに、自分はどう入っていいのか、踏み込み方を考えてしまうときは「ヘタレだな〜」と思いますね。
- と言うのは?
- やっぱり、芸人さんなので面白いんですよね。会話のテンポもすごくいいですし、そこに自分も面白く踏み込みたい! たとえば、言葉をかぶせるタイミングがうまく合わなくて「ここは、(言葉を)かぶせたほうがよかったですかね」って話したときに「まあ、芸人だったらかぶせにくるけどな」と言われたのはすごく悔しくて。
- 鳥越さんは役者さんなので、本来なら極めなくてもいいところですが…(笑)。
- 自分でも「どこに向かっているんだろう?」って思うんですけど(笑)。でも、そこは西の血が入っているので! 行かないといけないなと。
- 今回、鳥越さんが座長ですね。そういう意味で、鳥越さんが座組みを盛り上げていく立場でしょうか?
- 「座長」と呼ばれるのはイヤなので、共演者のみんなに「座長と呼ぶな」と言っています。登場人物たちの個性がとくに際立っているので、そこはお互いに尊重してみんなで作り上げていけたらいいなと思っています。
土足で踏み込んでいく、鳥越流コミュニケーション
- livedoorニュースではさまざまな方のインタビューをさせていただいていますが、共演者の方のエピソードを聞くと、鳥越さんの話題が出てくることが多いんですよね。このあいだ、Live Musical「SHOW BY ROCK!!」で共演されたゆうたろうさんのインタビューのときも、「鳥越さんはとても面白い方です」とおっしゃっていて…。
- ええっ! ゆうたろうが、ですか?
- はい。インタビュー中でというより、インタビューがはじまる前の雑談のなかでですが…。
- なんや! アイツ、そういうのは雑談のなかじゃなくて、インタビュー中に言わな!(笑) 記事にしてもらわないと、僕のよさが読者に伝わらないじゃないですか!
- たしかに(笑)。
- でも、ゆうたろうがそうやって言ってくれてうれしいですね。普段からニコニコしていて、僕が何かちょっかいを出してもスルーするんです。スルーして心のなかで楽しんでるんやろうなって思うんですけど(笑)。
- 現場でも、そういった後輩の方がたくさん増えてきたと思います。
- そうなんですよ。ゆうたろうなんて19歳ですからね! 最近は、本当に年下の後輩が増えてきて……人見知りの子が多いので、そこに土足でズカズカ入っていくくらいの気持ちで接しています。
- 鳥越さんから、どんどんコミュニケーションを取っていくんですか?
- イヤな先輩にはなりたくないなとは思っているんですけど、コミュニケーションを築くために土足でどんどん踏み込んでいきます。そこは嫌われても仕方ないかなとも考えていますね。
- それは、後輩の方と接する際に意識されていること?
- そうですね。自分が今の後輩たちと同じくらいの年齢のときに、座組みのなかでコミュニケーションの築き方など、先輩にいろいろと助けてもらったことがあるので、共演者のなかで自分が人と人の橋渡しになればいいなと思っていて。自分が後輩の子のことを知って、座組み全体に「この子はこういう子なんです」って教えてあげたほうが、みんなも稽古に臨みやすいのかなと思うんですよね。
- 優しい先輩なんですね。そんな後輩の活躍に関してはどう感じていますか?
- いやもう、正直、若い芽は摘んでおきたいっていうのが本心です。
- そこは役者として遠慮なく、ですね。では、先輩との関わりとしてはいかがですか? こちらも、細貝 圭さんのインタビューをさせていただいたときに「容赦なくイジってくる」とお話されていました。
- 先輩にも気を遣わずにどんどんいきますね。それは尊敬しているからゆえで。尊敬しているのは大前提でイジっています。そうすると、細貝 圭みたいな人でも心を開いて接してくれるんです(笑)。
- そういう意味で、お稽古場でも先輩後輩、いろんな方と率先してコミュニケーションを築いていく立ち位置なんですね。
- 現場の雰囲気によりけりですが、いろんな立ち位置にいけるようにはしています。振り回す人を逆に振り回してみたりすることもあります。座組みのバランスを取ることは頑張ろうと思っています。
- 意識されているんですね。
- 意識している、というといやらしくなってしまいますね。……(声が大きくなり)やっぱり、自然と、ですかね。鳥越という人間がそうさせているというか。
- この感じが文字で伝わればいいな…と(笑)。
- 本当にお願いします。
劇団飲み会のほかに…ママ友会にも呼ばれます
- それこそ、こういった2.5次元と呼ばれる舞台に限らず、さまざまな舞台に出演されているので、いろんな方と交友を持っているのかなと思いますが…。
- そうですね。小劇場でも活躍されている先輩たちとも仲よくさせてもらっています。よく飲みに行くんですけど、ある人からは「飲み会にトリ(鳥越)がいるから大丈夫だ」って言われていて。
- 鳥越さんがいるから大丈夫?
- 「俺、今1500円しか持っていないから(支払いは)頼んだ」って言われるので、何で40歳過ぎの先輩におごらないといけないんやって思いながら(笑)。挙句の果てには「トリ、ちょっとタクシー代貸してくれや」とも言われますからね。「ええ加減にせえよ!」って言っています。
- 頼りにされちゃってますね(笑)。
- あとは、ママ友会にも呼ばれますね。
- ママ友会ですか!?
- ママ友会は、知り合いのママたちが子どもを寝かしつけたあと、深夜にはじまるんですが、女性のほうがやっぱり話すことは殺伐としてますね(笑)。話を聞いて、「そこは、まぁまぁ男性やからね」とか言うと、「トリちゃん、それは甘すぎる!」って怒られることも。
- 鳥越さんの交友関係の広さと、順応っぷりには驚かされるばかりです。でも、呼びたくなる気持ちもわかる気がします。
- 本当ですか? でも、いろんな人と飲んだり話したりすることは、さまざまな発見があって面白いですね。