後輩役者との関わりにおいて「年齢関係なくフラットでいたい」と話す細貝 圭の言葉が表しているかのように、インタビューもフランクな雰囲気。ときおり冗談を交えて笑いを誘う姿に、「こんなお兄さんがいたらいいな」と思ってしまうほどだ。そんな細貝が、舞台『オーファンズ』で演じるのは、弟への愛ゆえに、凶暴さを露わにする兄の役。「30代前半の頃って、もらえる役が減ると言われているんです」――33歳になったばかりの今、この役を演じることを彼はどう受け止めているのだろうか。

撮影/布川航太 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.
ヘアメイク/神林 匠(coo et fuu)

膨大なセリフ量、3人芝居…「僕にとって新境地となる舞台」

舞台について詳しくお話をうかがう前に、細貝さんといえばいろんなところで “雨男”エピソードをよく聞きます。今日(※取材が行われたのは9月中旬)もまさに雨で…。
あははは。そうなんですよ。今日も雨で…。本当に申し訳ないです(笑)。
いえいえ! ご自身でも“雨男”っぷりは認めているんですか?
そうですね。けっこう、行く先々で雨を降らせているので(笑)。「自分、“雨男”だな」って思ったのは、『海賊戦隊ゴーカイジャー』(テレビ朝日系)をやっていたときに、まず僕のクランクインのときから土砂降りの雨だったんです。そこから僕がいる日は、ことあるごとに雨みたいな感じで(笑)。
ことあるごとに…ってスゴいですね。
セットで撮影したあと、スタッフさんがセットをバラして機材を外に運び出すんですが、僕が撮影スタジオから出た瞬間に雨がバーッと降ったこともあって。「これは“雨男”確定だな」と思いました(笑)。
セットのなかにいるときは降っていなかったのに?
外に出た瞬間、雨…。スタッフさんに、「(機材が運べなくなるから)細貝、なかに入ってろ!」ってすごく怒られた記憶があります(笑)。
(笑)。ツイッターでも、お休みの日に台風が直撃して遊びに行けなくなったとつぶやかれていました。
そうなんですよ! けっこう前から予定を決めて、島に遊びに行こうと思っていたのに、まさに台風が直撃で…。遊びに行く日まで雨を呼んじゃうとか…最悪ですよね(笑)。
逆に雨を呼び込むのもスゴいなと思います。では、舞台についてお話をうかがわせてください。舞台『オーファンズ』は、アメリカで活躍するライル・ケスラーさんによって描かれた、孤児たちの共生と再生を描く物語ですね。これまで30年以上、日本を含め世界各国で上演されてきた作品ですが、今、細貝さんはどんなお気持ちで稽古に臨まれていますか?
まず、セリフが多いですね。僕は芸能界デビューして10年目になりますけど、今まで経験したどの舞台よりもセリフが多いです。しかも、演出のマキノ(ノゾミ)さんは立ち稽古から台本を持たずにやっていく方なので、稽古の前の日は必死でセリフを頭に入れて。
普段は、どのタイミングでセリフを覚えるのでしょうか?
僕は、台本を持って立ち稽古をして、動きながら役を自分に取り入れていくやり方が多かったので、このタイミングで覚えることはあまりなかったですね。しかも3人芝居で、キャストが3人しかいないので、一瞬でも隙を見せられないなと思います。そういった意味で、僕にとっていろいろと新境地の舞台かなと感じます。
台本をご覧になった印象は?
翻訳劇ですが、すごくわかりやすいなと思いました。僕自身、少し構えていたところがあったのですが、世界観に入り込みやすくて。台本を読む段階で、ラストは自然に涙を流していました。
それは感動で?
それが、どういう感情なのか自分でもよくわからない不思議な感覚で。自分のなかで物語のすべてが腑に落ちて、涙がこぼれるというわけでもなく…。すごく絶妙なところを突いてくるなという印象でした。

トリートの心情、立ち居振る舞いから感じる“可愛さ”

細貝さんが演じるのは、臆病な弟・フィリップ(佐藤祐基)と暮らす、凶暴な性格の兄・トリートです。演じてみていかがですか?
最初に台本を読んだときは、人の愛を知らないかわいそうな男という印象がありました。そのなかで、少し曲がった愛のかたちですが、弟・フィリップへの大きな愛情を持っている。
トリートは、フィリップに知識を与えようとせず、自分だけが窃盗や犯罪でお金を稼ぎ、フィリップを養っています。
それって、フィリップを思うまっすぐな気持ちゆえなんですよね。そういうところはすごく人間味があるなと思いました。お金がないので窃盗や犯罪に手を染めますが、それはただ単に、ほかに手立てがないからやっているだけで、トリートは弟にご飯を食べさせるのに必死。だから、トリートは窃盗や犯罪を“悪”だと思っていないんです。ただ、弟と必死に生きているだけで。
トリートのそういった「生き延びるためには仕方ない」という考えを、細貝さんは理解できたのでしょうか?
そうですね。もし自分が同じ状況にいたら、そういうこともあるかもしれないと思いました。やっていることは悪いことですが、すべてを“悪”として否定できないなというか…。
なるほど。
ふたりがやくざ者のハロルド(加藤虎ノ介)と出会い、フィリップの気持ちがどんどんハロルドにいってしまうときのトリートの切なさや苦しさも、僕自身共感できたんですよね。僕だけじゃなくて、みなさん共感できる思いなんじゃないかなと思いましたし、トリートのことを知っていくうちにだんだんトリートが可愛く見えてきて。
可愛く? たとえばどんな部分でしょうか?
フィリップを雑に扱ったり、家に閉じ込めたりするんですけど、でもそれだけトリートはフィリップのことが大好きっていうことなんですよね。自分の手から離れてしまうことが寂しいって思っているのに、素直に気持ちを表現できないところはすごく可愛いなと思います。
「好きだからこそいじめちゃう」みたいな、愛情の裏返しのような…。
そうそう。家に閉じ込めるのも、フィリップに知識を身につけて、自分から離れてほしくないからなんですよね。

「こんな兄がいたらいいな」と思ってしまう先輩とは?

お兄さん役ですが、細貝さんはひとりっ子なんですよね。そういう面で“お兄さん”を演じるにあたって、難しいと感じることはありましたか?
うーん。そんなになかったですね。というのも、僕はひとりっ子なんですけど、小さい頃から姉弟のように育ってきた、いとこの姉がいて。今でも「お姉」って呼んでいるんですけど、そのお姉がすごく男っぽい性格だったんです。小さい頃から何回も泣かされて(笑)。
そうだったんですか!
格闘好きでしたし、すごく男勝りでしたね(笑)。男と女だったけど、男兄弟っぽさを感じていたので、今はそのときの感覚を思い出しながら。兄弟を演じるにあたって、その姉の存在は大きかったかもしれません。
男兄弟への憧れはありましたか?
ありました。僕は年上の男性が好き…って言うと語弊がありますが(笑)。現場でも、年上の方と打ち解けることが多くて、僕からなついていく感じなんです。だからこそ、“兄”への憧れはあったのかなと思います。
実際に、兄として慕うくらいの憧れの方はいらっしゃるんでしょうか?
この業界に入って、はじめて先輩って思えた役者さんが河合龍之介さんなんです。僕と年齢がひとつしか違わないんですけど、本当にカッコよくて。もちろん見た目もだし、何をやらせても上手だし、すごく優しくて面倒見もいい。
河合さんみたいなお兄ちゃんがいたらいいな、と思ってしまう?
思います。歳がほぼ変わらないのに、すごく大人でしっかりされていて…。すべてにおいて「ダサい」って思うところがないんですよね。だから、今でも会うと少し緊張しちゃうんです(笑)。
憧れているからこそですね。逆に、最近は現場でも下の世代の役者さんが増えてきて、細貝さんが理想のお兄ちゃんという立ち位置になっていることも多いのではないでしょうか?
いやいや〜。それはないですね(笑)。僕はだいたい年下の後輩からもイジられているので。
そうなんですか?(笑)
最近だと、舞台『TRICKSTER〜the STAGE〜』で共演した鳥越(裕貴)からは散々イジられました(笑)。
(笑)。でもイジられるくらい、きっと年下の方も接しやすいということですよね。
そういうことなんですかね? 嫌いな後輩にイジられたらイヤですけど、好きな後輩からイジられるのは僕も嫌いじゃないのでいいんですけど(笑)。
では、お芝居についての相談を受けたりすることは?
芝居の相談をされたら、僕が困っちゃうので(笑)。そこは、別の人に任せています。僕は一緒に飲みに行って、いっぱい話をして、奢ってあげるっていうくらいですね。
そういう接し方を意識されているんですね。
年齢関係なくフラットな関係でいたいんですよね。お芝居も、それぞれ自分の考えがあるので、僕の考えを押しつけるのは違うなって。だからもう、後輩たちと一緒にお酒を飲んでバカな話をすることが好きです。
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