あなたのその言動が、意図せず外国人を傷つけている可能性がある(撮影:今井康一)

ある日、成田国際空港でのこと。フライトまで3時間ほどあったので、ビールを飲みながら、ゆっくり本を読むことにした。土産物屋で氷のように冷えた「スーパードライ」を手に取ってレジに持って行き、私より10歳ほど年下の若いレジ係の店員にあいさつをした。すると、彼女は1本の指を出し、数字の1を表した。変だな、と心の中で思った。私は日本語で、「はい、1本だけください」と答えた。

次に彼女はもっと指を出して、値段を伝えようとしているようだった。失礼のないように再度日本語で、彼女が指で何を伝えようとしているのか理解できないが、普通に話してもらって構わないと伝えた。すると、彼女は返答する代わりに、数字を紙に書いた。そうこうしているうちに、このジェスチャーゲームが面倒だと感じ、彼女が言った数字を日本語で読み返して「大丈夫です」と伝えた。

眼前に紙切れを突き出され…

次に彼女はカウンターの下から新しい紙を取り出し、それを私の顔の前に押し付けた。その距離約2cm。文字に焦点を合わせられるように後ろに少し下がると、その紙には英語と中国、そして韓国語である文章が印刷されていた。それは、機内はアルコールの持ち込みが禁止されているため、搭乗する前にビールを飲まなければならない、という内容だった。

にこりともしない店員に、無言で顔の前に紙切れを突き出されたことに強い不快感を覚えた。特に最悪だったのは、彼女が働いている航空会社が、顧客サービスとしてこのように対応することを彼女に指示していたことだ。

ひょっとしたら彼女はそれまでに、ほかの外国人観光客で嫌な思いをしたことがあったのかもしれない。あるいは、そもそも外国人が好きじゃないのかもしれない。そう思えるほど、彼女の行動は非常に失礼で、日本人だって誰だって、こんな対応をされたら文句の1つでも言いたくなるだろう。

東京オリンピックが近づき、日本を訪れる外国人観光客が増える中、こうした問題も増えていると考えられる。実際、私は人生の3分の1をこの国で過ごしているが、ここ数年、不快な思いをする場面は明らかに増えている。そのたびに、企業の外国人顧客に対するいい加減なポリシーや、日本人の外国人に対する嫌悪感に思いをめぐらせずにはいられない。

偏見と差別は実はとても単純な概念だ。何も複雑なことはなく、大抵の場合、過度に単純化された考えから生まれる。偏見は、確立された知性と現実に基づいていないステレオタイプと先入観を伴う。つまり、「この国の人々はつねにこう行動する」というのは偏見であり、それを信じて行動することが差別である。

外国で生活した経験のない人、あるいは自国でマイノリティとしての生活を経験したことがない人に、この概念を理解するのは難しいかもしれない。

では、こう考えてみてはどうだろうか。

自分が、背が低い人だとしよう。誰に出会っても、銀行、レストラン、ガソリンスタンド、バーなど場所に関係なく「おチビさん」と呼ばれたらどう思うだろう。それか、自分の歯並びが悪いとしよう。話す人みんなに「クレイジーな歯」と呼ばれたらどう感じるだろうか。あるいは、ちょっと太っているだけで、知らない人からも「おデブさん」と言われたとしたら……。

外国人というだけでウソつき呼ばわり

こうした行動を、「日本ではこうなんだ」と言って正当化しようとする人もいるだろう。しかし、結局のところ、加害者ではなく被害者が、その言動が差別なのかどうかを決めることができるのだ。

もう少し、日本人による「悪意なき差別」の事例を紹介しよう。私の知り合いのアメリカ人、Aさんは九州の主要な鉄道会社の駅で最近不公平な扱いを受けた。Aさんは福岡に長く住んでいて、流暢な日本語を話す。

ある日、電車を降りた後、彼は改札窓口へ向かった。切符の運賃が違ったので、差額を払おうとしたからだ。駅員に近づいて、要件を説明しようとしたとき、駅員は顔をしかめて、こう言った。「しばらく電車を乗り回っていたんでしょう? この切符の入場時間を見てください!」

入場してからかなりの時間が経っていたのは事実だった。でも、それはAさんが重要な仕事の電話を取らなければならなかったからだ。それを説明しようとすると、駅員は「ウソをつくな」と言って、激しい脅しの表情でAさんをにらみ続けながら、小さなゴミ箱を手に取りAさんの切符をゴミ箱に投げ入れた。そして再び「ウソをつくな。もう出て行け」と不愛想にやり取りを終えた。Aさんは事情を説明する間もなく、ウソつき呼ばわりされ、自分を弁護する機会もなく出て行けと言われたのである。

Aさんはその会社に苦情を出した。駅員は気乗りしない様子で謝罪した。しかし、謝ったすぐ後に「外国人だから仕方なんじゃないですか」と言い放った。その駅員は、今でもAさんが電車を乗るときににらみつける。その会社は、状況を正し、この社員を教育することなど何もしなかった。

外国人の中には、残念ながら運賃をごまかす人がいるのは事実だ。英語教師や留学生など、短期滞在者の中には、日本の決まりを軽視している人も少しだがいる。しかし、Aさんは自分から差額を払おうとしたわけで、彼が駅員から無礼な扱いを受ける理由は何一つない。彼は、外見だけで「運賃をごまかす外国人」と判断されたのだ。

過剰な親切もある意味では、差別行為といえる。日本では、アジアからの観光客より、欧米の観光客のほうが親切に対応されることが少なからずある。たとえば、欧米人ははしの使い方を知らないだろうという「偏見」から、日本人とレストランに言っても、1人だけはしの代わりにフォークとスプーンを用意されることがあるが、これは恥ずかしく、不快で、時には屈辱的な行為だ。

すしを食べる外国人、アニメが好きな外国人…

テレビは現実よりもヒドい。たとえば、人気番組の「Youは何しに日本へ?」(テレビ東京)で、スタッフは(日本を訪れる外国人観光客のほとんどはアジアからにもかかわらず)空港で西洋の外国人を選んでいるように見える。しかも、スタッフは空港を歩いている人の中でも、最も風変わりで、わけがわからない人を選んでいる。日本を祖国のように思っている長期滞在者にとっては害のあるステレオタイプを助長させるような人を選んでいるのだ。

自分が何の取材を受けているのかもわからない観光客が、すしを食べたり、好きなアニメを挙げたりするたびに、スタジオのタレントたちは「お〜」とか「あ〜」とか言うのを見ていると、心底うんざりする。外国人は、どこまでも「日本人が考える外国人」であることが求められるのだ。おそらく、かなりの数の外国人タレントも、人種的、文化的ステレオタイプを受け入れる、あるいは、ウリにすることで生計を立てているのだろう。

多くの日本人にとって、日本人ではない人たちとの交流は彼らの日常生活の一部ではないだろう。日本人以外の友達がいない人も少なくないだろう。そうであれば、偏見や差別の問題なんて気にしなくていいかもしれない。

が、長期的な視野に立ったとき、こうした考えを持つ日本人が多くいることは、日本に悪影響を与えかねない。たとえば、偏見や差別に基づいた行動は、才能のある外国人を日本に引き寄せ、維持し続けることはできないだろう。日本の大学や企業は、優秀な外国人を取り込もうとしているが、彼らを「個人」ではなく、「外国人」として扱うかぎり、彼らに長く滞在してもらうことは難しい。実際、私が知るかぎりでは才能ある多くの外国人が、結果的に日本を出て祖国へ戻っている。

もちろん、意図せず(あるいは意図的に)偏見や差別を行っているのは日本人だけではないし、世界中どこに行っても偏見や差別はある。自ら差別の対象になったという人も少なからずいるだろう。だからといって、日本人がこのままでいいわけではない。知らず知らずのうちに、偏見と差別をしていることは、日本の評判にも悪影響を与えるからだ。

これは、観光業が経済的にどれだけ大切か、移民が日本の人口減少や少子化を阻止するのにどれほど必要なことか、国内のビジネスが2019年のラグビーワールドカップや、2020年のオリンピックなどに向けて投資していることなどを考慮すると、重大な問題だ。

現在、日本は否が応でも、世界中の注目を浴びていて、海外旅行先としても人気が出てきている。オリンピックのような一大イベントが近づく中、「日本人」と「非日本人」に対するサービスが顕著に異なるようなことが起これば、国際的な日本の評判は劣化する。世界の多くの人は、日本はサービス大国だと心得ている。そんな国で偏見や差別にあったとしたら……。サービスの質の低下や「日本人」と「非日本人」との二極化がより顕著になる中、差別的な考えを今すぐ対処する必要がある。

では、偏見や差別を減らすにはどうしたらいいだろうか。日常生活でできることは3つある。1つは、「日本語で話す」こと。たとえば、成田空港の土産物屋の場合。とても簡単に変えられることのひとつは、店員が日本語で、日本人の客と接するのと同じように話すことである。そうすれば誰でも気持ちよく買い物ができるだろう。

日本人ができる3つのこと

まったく日本語が話せない外国人であったとしても、店員が最初に日本語で話してから、紙切れでのやり取りがあればそんなに不快にならないはずだ。結局、ここは日本だ。英語を話すことはこの国では普通ではない。だいたい観光客も旅先の人々に英語を話すことを期待すべきではない。言語を覚えなければいけないのは、その国を訪れる外国人のほうである。

2つ目は「外見で人を判断しないこと」。肌の色や顔の特徴、その他の視覚情報で相手の特性を決めつけないことだ。外見で判断すると、疎外したり、不快な思いを人にさせたりする。あなたの行動が親切心からだとしても、相手はそれに怒ったり、傷ついたりするかもしれない。

そして、3つ目は「外国を旅すること」。海外旅行はかつてないほどお手頃になってきている。格安航空会社(LCC)やエアビーアンドビーなど民泊を利用すれば、パッケージツアーで行くより、行動がより自由で経済的に旅を満喫できる。実際に日本を出てほかの国を訪れれば、人は本質的にはどこに行ってもそう変わらないということがわかるだろう。その国の言語がわからなくても、ジェスチャーやフレーズブックを使えば、容易にコミュニケーションが取れる。

観光ブームと押し迫るオリンピックは、日本人がどのように世界と接するかを変え、地球規模での日本の存在を確立させる。諸外国からの容認や称賛や、他国よりも強い国際的立場に立つことばかりに気を取られず、日本を訪れる人々を理解して親しみ、差別へとつながる古い偏見を取り払うときがきている。