ロシアが新しい垂直離着陸戦闘機を開発するそうです。かつて旧ソ連で実用化していますが、いわゆる「ワケあり」だったため、その系譜はすぐ途絶えてしまいました。どのような経緯をたどったのでしょうか。

ロシア、艦上垂直離着陸戦闘機開発へ

 2017年7月18日から23日にかけ、ロシア、モスクワ市近郊のジュコフスキー飛行場において「モスクワ国際航空宇宙ショー(MAKS)」が開催されました。そのイベントにおいて、ロシアのユーリ・ボリソフ国防副大臣は、2018年から2025年における国家軍備計画の最終段階として、将来型航空母艦に艦載するための新しい垂直離着陸(VTOL)戦闘機を開発する方針であることを明らかにしました。

 現在ロシア海軍は、重航空巡洋艦と称する事実上の航空母艦「アドミラル・クズネツォフ」と、スホーイSu-33およびミグMiG-29K艦上戦闘機を保有していますが、将来型航空母艦はそれよりも小さいソ連時代の軽空母、キエフ級航空巡洋艦と同程度となる見込みです。


ソ連が唯一実用化できた、ヤコブレフYak-38垂直離着陸戦闘機。西側陣営からは「フォージャー(ハリアーの偽造品)」と呼ばれた(関 賢太郎撮影)。

 キエフ級においては垂直離着陸戦闘機ヤコブレフYak-38を運用していました。このYak-38は、イギリスの「ハリアー」、アメリカのV-22「オスプレイ」そして新鋭機F-35B「ライトニングII」と並んで、2017年現在、世界で4機種しかない実用化に成功した垂直離着陸機のひとつであり、もし新しい垂直離着陸戦闘機が成功したならばロシアにとってYak-38以来の成功作となります。

「開発実績豊富」の、実際のところは…?

 新しい垂直離着陸戦闘機がどのような機体になるかは、いまのところ明らかになっていませんが、かつてロシア(ソ連)は世界でも一、二を争うほど垂直離着陸機の開発に熱心であり、様々な機種を生み出した実績と経験があります。

 ただし実績とはいってもYak-38以外はすべて失敗作であり、なかでも「カスピ海の怪物」と呼ばれ広く知られるエクラノプラン(地面効果翼機)、ベリエフVVA-14M1Pは、垂直方向に推力を発するリフトジェットエンジンを12基も搭載し、海面すれすれを高速で飛行するという文字通り怪物のような珍機として知られます。

 さらに一応の成功作であるYak-38も、胴体内部に2基の垂直離着陸用リフトジェットを搭載したことなどから、機内燃料タンクが小さいうえに燃費もひどく悪く、その航続距離は武装を搭載するとほとんど艦の周りしか飛べないという、何のために艦載しているのかわからないような低性能でした。そのうえ水平飛行および垂直離着陸兼用となる推力偏向型のメインエンジン1基とリフトジェット2基のうち、どれか1基でも故障すると墜落が確定するという欠陥を抱えており、実際大量に墜落しています。

 本来Yak-38は実用に耐えうる性能も信頼性もなかったかもしれませんが、イギリスにおいて「ハリアー」が成功作となってしまった以上、社会主義陣営の盟主たるソ連としてYak-38は成功作となる必要があったため、無理に使わざるをえませんでした。

後継高性能機、初飛行に成功するも…

 それからのちの1980年代後半、ソ連とヤコブレフはYak-38の汚名を返上すべく、Yak-38や「ハリアー」では不可能な超音速飛行も可能とする高性能な垂直離着陸戦闘機Yak-141を開発し、初飛行に成功させます。しかしその直後にソ連が崩壊したことによってYak-141の開発もとん挫、結局その実力は未知数のまま終わってしまいました。


艦上垂直離着陸戦闘機として開発されていたXFV-12(画像:アメリカ海軍)。

 実のところ、こうした垂直離着陸戦闘機の開発失敗事例はソ連だけが特別だったわけでもなく、アメリカでさえXFV-12という一度も離陸できなかった失敗作を生み、フランスは名機ミラージュIII戦闘機をベースにリフトジェット8基を搭載したミラージュIIIVなる機体を開発し大失敗しています。

 前記したように、過去実用化に至った垂直離着陸機はわずか4機種のみであり、ロシアの次世代垂直離着陸戦闘機が成功作の第5例目として名を連ねることができるのかどうか、その動向には注目したいところです。

【写真】幻のソ連製垂直離着陸戦闘機、Yak-141


ヤコブレフYak-141垂直離着陸戦闘機。ソ連崩壊によって開発中止となるが、本当の成功作となっていたかもしれない(関 賢太郎撮影)。