先日、ヴィッセル神戸は、ネルシーニョ監督の解任と同時に吉田孝行ヘッドコーチの監督就任を発表した。

はたして、ネルシーニョ監督の解任は正しかったのだろうか?

この発表後にどのような反応が起こるのかに注視していたが、少なくともQoly周辺においては、フロントの決断に賛同する意見よりも、むしろ、否定的な見方が多いようだ。

だが、ここで気になるのは、ヴィッセル神戸が苦戦している本当の理由はどこにあるかである。

その理由は様々な見方ができるだろうが、今回は一つに焦点を絞り、問題提起をしてみたい。

テーマは、ずばり、「ルーカス・ポドルスキ」だ。

ポドルスキの産物

「久しぶりにJリーグに大物助っ人がやってきた」

ドイツ代表として130試合に出場して49得点、世界王者にもなった正真正銘のスタープレーヤーの来日は、大きな話題を呼んだ。

そして満を持して、第19節の大宮アルディージャ戦でJリーグデビュー。挨拶代わりの2得点でチームに勝利をもたらし、早くも「この移籍は成功だった」と賞賛する声も上がった。

だが、その後チームはよもやの三連敗。攻撃ではゴールがとにかく遠く、守備も我慢しきれずに失点を重ねる試合が続いた。

果たして、彼らに何が起こったのだろうか…。

言わずもがな、この期間での大きな変化は、前述のスターがチームの攻撃の核に据えられたという点である。

正直、監督のネルシーニョはその起用に迷いもあっただろう。実力者であることは誰もが認めるところだが、良くも悪くも、「異分子」をチームに加えることは、リスクと隣り合わせだからだ。

そして、結果的にネルシーニョはチームを追われることになった。「これまで彼が築いてきたチームスタイルにどのように馴染ませるか」に関心を多くの者が持っていたのだが…。

では「異分子」の加入が、全てを壊してしまったのか。いや、そう言うわけではない。ここまでの経過を見ても、彼の存在はプラス面をもたらしている。

いつもはJリーグを軽んじるマスメディアですら、来日の様子を連日連夜報道したが、それはポドルスキだからこその芸当だ。

デビュー前からここまでの話題を振り撒けるタレントなど早々いるわけではなく、この「ポドルスキ祭り」には誰しもが「さすが…」と口を揃えたはずだ。

そして、このブームは、ヴィッセル神戸のみならずJリーグにとっても大きな宣伝となった。いつの間にか「サッカーを見よう」が「ポドルスキを見よう」に変換され、実際に観戦に行こうとする人間は確実に増加した。

ヴィッセル神戸の経営陣がどのように判断しているのかは不明だが、この流れが続く限り、「費用対効果」というビジネス的な課題はクリアできたと言えるだろう。

だが、彼はただの「客寄せパンダ」ではない。チームメイトへの恩恵も忘れていないからだ。

練習初日から、GK吉丸は「速くて見えない感じがあった」と舌を巻き、DF渡部も「日本人では考えられないボールの質」とそのシュート力に驚愕した。普段から世界トップレベルのキッカーと対峙することで、GKやDFは確実にレベルアップに繋がっているようだ。そして、そのメリットを受けるのは何も守備陣だけではない。FW陣にはシュートを積極的に狙う姿勢、シュートに持ち込むまでの動きなど、新たなアイデアを授けていることだろう。

「ポドルスキの産物」は、ピッチ内外に好影響を与えているはずだ。彼の契約満了を待たずして、それは断言できる。

ポドルスキがもたらす混乱と負担

ここまでは、ポドルスキが提供した「プラス要素」を中心に触れたが、ここからはその裏側に話を移したい。つまり、「マイナス要素」である。前述した三連敗の要因の一つにも繋がる話だ。

まず、ネルシーニョ政権下での、ヴィッセル神戸のチームスタイルを触れておきたいが、彼らのサッカーは組織的な守備が際立つものだった。

FWからDFまで整備された横と縦のラインが連動し、相手の出方を伺いながらも、危難なエリアに入ったボールは確実に奪う。そして、そこからのカウンターまでが十八番だ。

今季も開幕直後まではこの“習慣”は活きていた。

前線にクサビが入ったところで、岩波、渡部が厳しくチェックに行き、藤田、ニウトンのボランチがサンド。場合によっては、その一つ前の段階で、FWがパスコースを限定して、中盤が高い位置でボール奪う、いわゆるショートカウンターが炸裂した場面も見られた。

決定機こそ、絶好調だった大森晃太郎のような個の力に依存するケースが目立ち、迫力不足な感はあったが、それでも開幕戦から四連勝。爽快なサッカーはそこにはなかったが、確実に勝ち点を積み重ねていった。

だが、そこから一転し、その後6試合は1勝1分4敗と急ブレーキ。珍しく競り負ける試合が目立った。

そして、夏の中断以降も復調せず、22節終了時点で9勝2分11敗の11位に。自慢のはずの守備力も崩れ、総失点は「29」という状況にまで陥った。

果たして、何故、彼らがここまで苦戦しているのだろうか。

その理由を検証するには、様々な角度から分析する必要はあるだろう。

だが、少なくとも筆者は、急ブレーキしたことも、その後に復調しなかったことも、「当然の成り行きであった」と見ている。開幕直後の連勝も「結果的には勝ったが…」という印象を持っていたからだ。

それは何故か。理由は簡単だ。まず、「守備力で勝ち点を拾う」という考えには、そもそも限界がある。

何故なら、守備力というものは、ある程度計算できそうなイメージがあるが、実際は案外脆い。(チームの層でカバー出来る部分もあるが)基本的には、センターラインに欠場者が出ると、途端に安定感を失うのが“お決まり”である。

実際、ヴィッセル神戸では、DFリーダーの岩波拓也が数試合を離脱し、ボランチで効いていた藤田直之も故障。さらに、故障者を挙げると、高橋峻希と橋本和の両サイドバックもしかり。開幕戦でエースのレアンドロが大怪我を負ってしまったことは大問題であったが、チームが稼動した直後に後ろの選手が何人も戦線離脱されるほうが、ヴィッセル神戸の場合はダメージが大きい。

そして結果として、堅固なように思われた守備組織は、多くの試合で持ち応えられずに決壊。その穴埋めを攻撃面で委ねるわけにもいかず、見事に下位に沈んだ格好だ。

さらに、ここで追い討ちをかけたのが、ポドルスキの加入であった。

初戦こそは活躍したが、「ポドルスキを潰せばOK」という考えが各チームに浸透したのか、対戦相手はいずれも教科書通りに彼を完封。厳しいチェックでイライラを募らせ、ゴール前から彼を遠ざける作戦はクリーンヒットした。

このタイミングで「ポドルスキを囮にする」という解決法が、ヴィッセル神戸に見つかれば良かったのだが、スターへの遠慮か、元ドイツ代表の威圧感か、はたまたチーム戦術なのか――「頑なにポドルスキにボールを集めようとする意思」が変わることはなかった。

そして、彼の存在は、ストロングポイントであったはずの守備面も弱体化させてしまった。

ポドルスキ救出作戦

チームに負の要素をもたらす大物助っ人をいかにして起用するか。ヴィッセル神戸にとっての近々の課題はそこに尽きる。

「起用しない」という、思い切った選択もあるが、それはそれで賢明ではない。誰よりもシュートが上手く、得点の匂いを醸し出すストライカーは、存在するだけで脅威になり得るからだ。

となれば、彼はどのように扱うべきかが議論だ。

そこで提案したいのが、フォーメーションとポジションの変更である。

フォーメーションはオーソドックスな4-2-3-1。

DFラインからボランチまでは現状通りで、「3」の中央にポドルスキ。両翼は機動力と活動量に秀でた大森晃太郎と小川慶治郎が適任だろう。そして、最前線には、主将の渡邉千真。ハーフナーのコンディション次第では彼の起用も選択できるが、前線からの守備やサポート能力を考えると、彼のほうが適任だろう。

そして、ポドルスキには可能な限りの自由を与える。というより、与えるしかない。煩雑なタスクを彼から外し、シューターに専念させる方法だ。

また、トップ下で起用されても、度々サイドに流れるだろうが、その“自由さ”も許容範囲だ。大森と小川は“空気”が読めるプレーヤーであり、きっと良い距離感を保ち、共存できるはず。それは最前線の渡邉もしかり。常にDFラインと戦うわけではなく、スペースメイクやポストワークもお手の物。昨季は主に左サイドで活躍したが、周囲を活かしつつ自らも活きるタイプである。ポドルスキを活かす術もすぐに見出してくれるのではないだろうか。

また、この形を採用することで、守備面の不安も軽減できる点も触れておきたい。

ポドルスキを一列下げることで、最前線からのプレッシングが弱まるように思われるが、中途半端に守備のタスクを求めるのであれば、そこから切り離してあげるほうが上手く回ることが実は多い。つまり、ファーストディフェンダーを一定の選手(この場合であれば、渡邉)に指定すことで改善されるという話だ。前線からの守備において、つまづきやすいのが「誰がボールホルダーに行くか」であるが、そこを整備することで、後ろも連動しやすくなる。文字にすると不思議な話だが、4-4-2と4-2-3-1で実際にプレーしたものであれば、肌感覚でわかるはずだ。

ちなみに、個人的には「配置換えで解決する」という考えは、短絡的過ぎて好みではない。だが、あえて今回は最も簡潔なソリューションを取上げることにした。

理由は簡単。この答えに自信を持っているからだ。