【ハートネットTV】(Eテレ)2017年8月7日放送
「性別にとらわれず生きる―Xジェンダー・まぁ〜ちゃん―」

「男でも女でもない。でも、男でもあり、女でもある」

自らの性をそう表現する「まぁ〜ちゃん」こと城間勝さん(26)は、性別が定まらない「X(エックス)ジェンダー」というセクシュアリティーだ。

L(レズビアン)G(ゲイ)B(バイセクシュアル)T(トランスジェンダー)という言葉が広く知られるようになってきたが、それ以外のセクシュアリティーはまだまだ理解が得られていないのが現状だ。まぁ〜ちゃんは苦しんできた過去から、性別にとらわれない生き方を歩んでいる。

「今日顔が男の子だ」メークの手が止まる

沖縄・嘉手納町で母親と二人暮らししているまぁ〜ちゃんは、生まれ持った体は男性で、心や考え方は女性に近い。しかし、100%女性というわけではない。

メークしながら、「今日男の子だね。顔が男の子だ」とつぶやいて手が止まる。自分の中の「男性性」が強い日があるのだ。

まぁ〜ちゃん「男の人がメークをすると抵抗があるじゃないですか。それと一緒で、自分自身の中の男性性が強い時にメークすると違和感がある」

ショッピングに行くと、きれいなアクセサリーやレースの上着を手に取りつつ、男性の洋服売り場にも足を伸ばす。日によって男女どちらの洋服も着たくなるので、両方買いそろえている。

まぁ〜ちゃん「男になりたいのか女になりたいのか、はっきりとは言えない。ただ『自分自身の中に女性性があります、男性性があります』とはお伝えできる。どうしていきたいのか自分でもわからない」

職場は「沖縄市男女共同参画センター」。性的マイノリティーが過ごしやすい環境を作るのがまぁ〜ちゃんの仕事だ。男女どちらのトイレに入ったらいいかいつも立ち止まってしまうというまぁ〜ちゃんの案から、職場に誰でも使える「多目的トイレ」が設置された。

まぁ〜ちゃん「前は、遊びに出かけた時、トイレに行きたいと思ったら一旦自宅まで戻っていた。ちょっとしたところでも、私たちには壁になるんです」

体が男性なので、冠婚葬祭でネクタイをしなければならないのも違和感があるという。

まぁ〜ちゃん「私自身が女性性が強い時は違和感でしかない。TPOに合わせた服装をしなきゃいけない時、自分自身の心がそれに沿っていればいいけど、そうでなければ違和感」

ゲイのサークル、女装バーでも居場所がない

まぁ〜ちゃんが自身の性に違和感を覚えたのは小学生の時だった。中学では男性を好きになり、それを知ってか、同級生から壮絶ないじめを受けた。泣くと「男なら泣くな」と責められ、「いっそ女性に生まれ変わりたい」と自殺を考えるようになった。

中学卒業を間近に控えたある日、屋上で水をまいていたら、後輩の男子が来て飛び降りようとした。「私も同じ気持ち」と思ったまぁ〜ちゃんだったが、口をついて出たのは意外な言葉だった。

「あなたまだ十何年しか生きてないでしょ?それなのにどうして早めようとするの?自分を」

気持ちとは裏腹に怒ってしまったが、その言葉が自分の心にも響いた。

まぁ〜ちゃん「何であの時あの言葉が出たんだろうって考えると、彼を通して『こういう風になったらだめよ』って教えてくれたのかなと思う」

性的マイノリティーとして堂々と生きると決意したまぁ〜ちゃんだが、その中でも大きな壁を感じるようになる。大学でゲイのサークルに入ったが、「女性性」を持っているため、男性同士で恋愛する場に居場所を見つけられなかったのだ。

女装する人が集まるバーで働き始めるも、そこでは「女になろうという覚悟が足りない」と言われてしまった。

まぁ〜ちゃん「LGBTの中に、私にとってのセクシュアリティーの住所みたいなのはないと思った。当てはまるものはないのかずっと探し求めていた」

「多様な性は海の生態系のよう」

転機が訪れたのは22歳の時だ。たまたま手にしたフリーペーパーで「Xジェンダー」を知り、「100%当てはまった」と感激した。

男女両方の服が必要、トイレや銭湯で男女を選べない葛藤など、自分と重なる経験が詳細につづられていた。

まぁ〜ちゃん「びっくりした。私だけじゃないんだ、そういう風に思う性の人もいるんだって。『私の現在地ここです!』みたいな、やっと自分自身のことを言えるようになったと思いました」

今は「男の子のまぁ〜ちゃんとか女の子のまぁ〜ちゃんとかではなくて、性別が『まぁ〜ちゃん』だよ」と自身を表現する。多様な性については、島で育ってきてずっと身近にあった「海」のようだと考えているという。

まぁ〜ちゃん「男の人、女の人は見た目や話し方でわかる。海も、一目見たら『海だ』とわかる。でも、どこまでの深さで海の中はどうなっているかはわからない。セクシュアリティーにも色んな種類があるし、まだ解明されていない性もある」
MCの風間俊介「知らない深海魚もいっぱいいますもんね」
まぁ〜ちゃん「その中の一匹に『Xジェンダー』がいる。潜っていってわかってくることもある。それが海の生態系にすごく似ていると感じます」