「結果にコミットする」というライザップ式のダイエット。FPの著者は「痩せる体質に変えることと貯金体質に変えることは似ている」といいます。今日から「貯金体質」へと変えるには、どこから手をつければいいのでしょうか――。

■「痩せること=貯金すること」である

痩せることと、貯金することは似ています。

痩せるための鉄則は、「食生活の見直しと運動」です。一方、貯金するための鉄則は「しっかり稼いで出費を抑える」ことです。後述するように、両者を細かく見ていくと、“構図”が極めて似ていることがわかります。

もし、“生まれながら”に貯蓄体質でない人(つまり、普通に家計のやりくりすると稼いだ額と同額かそれ以上の支出額になってしまう人)は、体質改善をして貯蓄体質になるほかありません。

今回は体質改善のヒントを、フィットネスジム大手の「RIZAP(ライザップ)グループ」(以下ライザップ)の手法に求めてみたいと思います。

ライザップといえば「結果にコミットする」というキャッチコピーとダイエットの成功事例をつかったCMで知られています。そのメソッドを調べてみると、CMで受ける印象よりもロジカルであることがわかります。

ダイエットの基本は「基礎代謝の向上=運動習慣」と「摂取カロリーの減少=食生活の見直し」のバランスです。ライザップは旧来のカロリー管理だけではなく、栄養のバランスと糖質摂取量の抑制に着目した点が現代的なのですが、「入りと出のバランスをコントロールする」というダイエットの基本的構図は変わりません。

▼家計もダイエットも「入りと出」のバランスが大事

この構図、貯蓄体質強化に置き換えてみると「可能であれば年収を少しでも多くする努力」と「生活コストを少しでも引き下げる努力」のバランスを考えることに近いと思います。

運動で基礎代謝を引き上げることは、年収を高める努力をすることに似ています。ライザップでもトレーニングが設定されますが、これは今日の食べ過ぎたカロリーを相殺するわけではありません。運動は長期的に代謝を上げるためのチャレンジです。

貯蓄体質の構築にあたっては、年収を引き上げることを節約と同等に考える必要があります。手取りが月20万円台の人が月2万円の節約を行うより、手取りを月2万円増やす努力をするほうが実は長い目で見てラクになる生存戦略だからです。最初からできないと諦めず、年収を引き上げるチャレンジをすることがまず家計改善の一歩目です。

そして、現在の食生活を徹底的に見直し、適切な糖質摂取量、栄養バランスを設定するように、家計の見直しを徹底的に行うことになります。ライザップでも1日あたりの糖質摂取量をコントロールしていきますが、家計では月あたり、1日あたりの支出をコントロールしていくことで貯蓄体質への改善が実現していくわけです。

■節約もダイエットも「メリハリつけて楽しくやる」

ライザップのメソッドとしてもうひとつの重要なのは、「楽しく前向き」にトレーニングをする点です。これも家計改善で採用すべきことだと思います。

巷によくある節約本を読んでいると、マッチョ思想というか体育会系根性論というか、しばしば苦痛を強いて生活コストを引き下げることが謳われています。これは賢いアプローチとはいえません。苦痛を感じるガマンは一時的に行うことはできても、継続は難しいからです。

ダイエットにおいても、短期的に断食すれば一時的に体重を落とすことはできますが、それではリバウンドしてしまいます。しかも断食で筋肉量が減ってしまうと、基礎代謝が落ちてしまい、より痩せにくい体になることもあります。断食で結果的に脂肪が増えてしまうわけです。

▼たまに「自分へご褒美」をあげると長続きする

私はセミナーで「節約は楽しもう」とよくお話しします。

楽しめなければ、続ける意欲がわきません。節約の肝は「同じ満足をより安く買える方法を探す」か「必要と思っているが実は不要である出費をゼロにする」ということ。こうした節約を「発見」するのです。

いつもは行かないスーパーをのぞいて、いつもより安い値付けに気づく。ネットで最安値を探しまわる。そうした行為をおもしろがれれば、節約は楽しみに変わります。

また、ライザップでも「お肉食べられます*」と言っているように(実は糖質制限的には肉がOKなのは当然です)、何でも制限するわけではなく、メリハリをつけながら食生活を改善していくことで、続けられる食事制限になります。*RIZAP公式サイトには<糖質の少ない食材には「お肉」や「お魚」も含まれるため、RIZAPでは、控えることなく食べていただくことができます>とある。

節約でもメリハリをつけていく意識が重要です。「今日はランチ予算プラス300円だけれど、週イチは吉野家にしてトータル予算は上げないぞ」。そんな「プチ贅沢」を自分に許せれば、毎日同じ予算で食べ続けるランチより満足度が上がり、節約生活も楽しめます。さらにクーポンを使えば、お得を楽しむこともできるはずです。

■励ましてくれる「伴走者」がいると、お金は貯まる

もうひとつライザップの大きな特徴は、トレーナーがマンツーマンで指導や励ましを行う点です。ときには厳しく叱られることもあるようですが、それもまた魅力となっています。

これまでお金の体質改善に失敗してきた人が、ある日突然、お金を貯められるように変われるはずがありません。ライザップのようなメンタル面でのフォローが必要です。誰かが同じ目標に向けて一緒にそばにいてくれる、という感覚は、お金の目標の実現においても効果を発揮するでしょう。

もし、お金を払うなら、独立系(企業などに属さない)のファイナンシャルプランナー(FP)に家計相談をし、適宜アドバイスを受ける方法が考えられます。費用はFPにもよりますが、1回の相談(約1時間)につき数万円程度です(詳しくは相談する事務所などに確認ください)。

プロへお金を払う相談に抵抗があるなら、スマホに「家計簿アプリ」をインストールしてみるといいでしょう。最近の家計簿アプリは未記帳が続くとプッシュ機能で励ましてくれたり、つけ忘れを防いでくれたりします。また、頑張りに応じてアプリ内スタンプがもらえたり、達成感をもたらす工夫もあったりします。

また、家計簿アプリの分析機能も便利で、家計の問題点の抽出にも役立ちます。現実を直視し改善の糸口をつかむことはライザップでも重視されていますが、自分にあった“伴走者”を見つけることも、貯蓄体質への改善のカギといえます。

▼貯蓄体質も一度身につければリバウンドせずにすむ

ライザップの仕組みを解説した書籍としては、『ライザップはなぜ、結果にコミットできるのか』(上阪徹著・あさ出版)がわかりやすいと思います。

そこでは、どうやったら痩せられるか(痩せたあとは体質をどう維持していくか)という仕組みを知ることは一生モノの財産になるということも指摘されています。やせる理屈が分かって、それを実現できたからこそリバウンドが起きにくいというわけです。

貯蓄体質もまた「仕組みを知れば、リバウンドせずにすむ」というもののひとつです。貯められる経験をしたことがなかった人は、あっという間に「貯められたはずの10年」を無駄にすごしてしまうでしょう。

仮に、月1万円の貯金であっても、30歳から60歳までの30年間、貯金を続けられれば360万円の差になります。たかが360万円と考えるのは禁物です。実際には貯められない人は借金をするので、これ以上の差になる可能性が高いのです。

貯められる人はボーナスからも貯めたり、貯めた資金を投資に回したりすることで資産額の差はどんどん開いていきます。さらに利息や運用益も加味されますので資産は増え続け、「生存戦略」を踏み外すことがありません。貯められないままの人は常に借金(クレジットカードのリボ払いなどを含む)に追われ続ける日々を送り、定年後に絶望の20年を送らざるをえないかもしれません。

「いや、オレには無理でしょう」と言っている限り、問題はまったく改善しません。ダイエットでも、「その場限り」「明日からやる」と考えているだけでは体重は1グラムも減らないのと同じです。ちょっとずつでいいので、長期的な戦略をもって取り組めば、状況は必ず好転させられるはずです。

(企業年金コンサルタント/ファイナンシャル・プランナー 山崎 俊輔)