「今、叫びたいこと」を問うと、少し思案したのち、石井杏奈はパッと笑顔を見せてこう言った。「スチームアイロンが欲しい!」――。7月11日にひとつ年齢を重ねたばかりの石井だが、その所作や発言は、19歳とは思えないほど大人びている。映画『心が叫びたがってるんだ。』で演じた仁藤菜月も、高校生にしては大人な感性を持った、しっかり者の女の子。両者とも落ち着きがあるなかで、恋愛観には、等身大な女の子の一面も覗かせる。

撮影/川野結李歌 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.

「ふれ交」の3人がいたから、役を作り上げることができた

映画『心が叫びたがってるんだ。』(通称『ここさけ』)は、テレビアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のメインスタッフによって作られたアニメ映画の実写版。大切な人に「好き」と伝えられない高校生4人の姿が描かれます。石井さんが演じたのは、主人公・坂上拓実(中島健人)のクラスメイトで、クラスの中心的存在である菜月。彼女を演じるにあたって、どんなことを意識しましたか?
台本を読んだときに、自分のなかで「菜月ってこういう子なんだろうな」と思ってノートに書きとめた言葉は、「とにかく優しい」「正義感が強い」「人を思いやれる」「リーダーシップがある」っていうことでした。そう思ったことすべてを意識して臨みました。
その書きとめたことを、撮影で素直に表現していった?
それを出して撮影に臨もうとしていたんですけど…いざ中島健人くんや芳根京子ちゃん(成瀬 順役)、寛一郎くん(田崎大樹役)とお会いして、4人で芝居をしていくうちに、「菜月を演じる意識」を強く考えずとも、菜月に近づけた感じがありました。
たとえば、どういうときに?
芳根京子ちゃんが演じる順ちゃんを目の前にしたときに、菜月が行動に移すように、自然と「この子に優しくしてあげたいな」、「この子に毎日話しかけたいな」って思ったんです。私以外の3人が、菜月との関わりを想定してそれぞれの役を作ってきてくださっていたので、それに沿って、菜月を詰めていけたなと思います。
菜月は、「地域ふれあい交流会」の実行委員に任命された拓実、順、大樹の4人でいることが多かったと思いますが、この4人のなかでの菜月の立ち位置をどのように考えていましたか?
俯瞰で物事を見る子なのかなと思いました。もちろん、自分が意見を言うこともあるけれど、いざ4人一緒に何かを考えるとなったときに、一歩引いて、何が一番効率がいいのかを見極めて考えている。
4人のなかでもそうですし、菜月ってすごくしっかりしていて、年のわりに、かなり大人びてますよね。
そうなんです! とても大人びていて! それはすごく感じました。
大人びている菜月は、石井さんにとって演じやすかったですか?
演じやすかったです! 4人のなかでも、一番共感できるなと思いました。
具体的に、どんな部分に共感できたんでしょうか?
そうですね…私も、昔はリーダーシップがとれたほうだったというか。学生時代の通知表にも、担任の先生から「リーダーシップがとれる」って書かれていて…。
スゴいですね!
いやいや! でもそれは…私は妹と弟がいるんですけど、そういう「年上だから自分が引っ張らなきゃ!」って思うことが多かったからなのかな…。
日頃から、「しっかりしなきゃ!」っていう思いが表れていたんですね。
はい。だから、学校での委員長決めとかも、誰もやらないんだったら私がやります、みたいな感じで委員長をやることもあって。ただ、「しっかりしなきゃ!」っていう私の思いだけではなくて、自然と周りのみんながリーダーシップをとらせてくれてたのかなって感じるんです。そういうところ、菜月も一緒だなと思います。

菜月に共感する…!? 「好き」を押し殺す恋愛観

菜月はしっかりしているうえに、キッパリ物事を言うタイプですよね。「言いたいことがあるならハッキリ言えばいいのに」っていうセリフも印象的です。
菜月の、自分の思いをしっかり声に出して行動に移せるところはカッコいいですよね。私は、なかなか自分から行動に移せないタイプなので…。そういう部分は見習いたいなと思いました。
そういう、キッパリしているところはあれど、中学時代に付き合っていた拓実に対しては、なかなか自分の思いを伝えられないという、等身大の女の子らしさもあります。
その気持ちにはすごく共感できました。たぶん、菜月もだと思うんですけど、私は後先のことを考えてしまうタイプで…。たとえば「好き」っていう思いを伝えたら、これまでの関係ってどうなっちゃうんだろう!? って思っちゃうんです。すごく仲の良い関係なのに、私が「好き」って伝えることで、その関係を崩してしまうんじゃないか…とか。
ふたりの関係が「友達」から「恋人」になる、難しさですね…。
「好き」って言って、「バカじゃないの?」って思われちゃったら…笑われちゃったら…いろんなことを想像してしまうので、私はちゃんと「好き」って伝えられないんです。ふたりの関係を崩すくらいだったら、ずっと友達のままでいたほうがマシ! って思っちゃう。
好きなのに、お互いの関係を崩すくらいなら、自分のホントの思いを伝えない…!?
はい。だから、自分のなかの「好き」っていう感情を閉じ込めます。「好きじゃない…」「好きじゃない…」って自分のなかで唱えながら…眠りにつくんです(笑)。
石井さんは今年高校を卒業されましたが、現役高校生として臨んだ撮影はいかがでしたか?
そうですね。撮影当時、現役高校生が私だけっていう状況で、現場でも「現役」って言われていたんです。でも、現役とはいえ、お仕事をしていると年上の方と接することのほうが多いので、「最近の高校生ってどんな感じなんだろう…」って思ってしまって…。
ええっ!?(笑)
わからなくなってきちゃって、普通の高校生ってどうだっけ!? みたいな(笑)。でも、いざ撮影現場に行くと、もうみなさんがしっかり高校生になりきっていらっしゃったので、私がとくに何か意識をせずとも、自然と学生っぽいふるまいができたのかなと思います。
空き時間も、学生っぽくワイワイ、みたいな?
ホントにそんな感じです! 輪になってクイズを出し合ったり…。すごく楽しかったです。「撮影はじまるよー!」って言われても、「これだけやらせてー!」って遊びに夢中になっちゃったこともありました(笑)。
素敵ですね! 「ふれ交」の3人とも仲を深められましたか?
すごく仲良くなれたと思います。その仲良くなれた理由って、私は4人でいることが多かったからなのかなと思っていたんですけど、実際4人だけのシーンって2、3日だけしかなくて。教室のシーンやミュージカルシーンはあったけれど、そのときはほかのキャストも一緒で。全員のシーンでは4人一緒にいるっていうわけではなかったので、短期間ですごく距離が縮まったんだなと感じています。
一気に距離が縮まったのは、4人でいるときの空気感や居心地が良かったから…なんですかね?
やっぱり、主役の中島さんの力が大きかったのかなと思いました。率先して引っ張ってくれて、それについていったら自然と輪ができていたという感じだったので、何より中島さんのおかげだなと思います。

「気持ちを込めて言うことに意味がある」と気づいた

撮影現場で、石井さんは共演者の方に積極的に声をかけていくタイプですか?
私は、初対面の方と話すことがすごく苦手で…。なかなか自分から距離を詰めていくことができないタイプなんです。でも、京ちゃん(芳根)とはじめて会ったときは、なぜか「話しかけたい!」って思って、私から話しかけたんです。
石井さんから、芳根さんに話しかけたんですね。
そのときはふたりだけだったし、最初から気まずくなるのもイヤだなって思いもあったんですけど、なぜか京ちゃんには「話しかけたい」って思って…。なんだか…安心感があったんですよね。気を遣いすぎず話せそうだなって思ったんです。
何か、波長が合ったのかもしれないですね。
それからすぐに打ち解けられて…いろいろと話していくうちに知ったんですが、じつは京ちゃんはすごい人見知りなんだそうです。「話しかけてくれてうれしかった」って言ってくれたので、自分から行動に移して良かったです。
映画『ここさけ』では、熊澤(尚人)監督が「言葉の大切さ」をテーマに掲げて作られていました。石井さんは実際に物語に触れて、「言葉の大切さ」について感じる部分はありましたか?
たくさんありました。お母さんとか、身近な人に「ありがとう」ってちゃんと言えているかなとか、「ごめんね」ってちゃんと言葉にして言っていたかなって…。言葉って今まで当たり前に発するものなので、そういえば、あまりちゃんと考えることがなかったなって気づかされました。
何か意識的な変化はありましたか?
ありきたりですけど、「ありがとう」ってちゃんと気持ちを込めて言おうって思うようになりました。照れくさくてサラッと言ってしまうことも多かったと思うので、ちゃんと感謝の気持ちを込めて。たぶん、言われた側は、その変化がわかりづらいと思うんですけど、私の気持ち的には、ちゃんと心を込めて言うことに意味があるなと感じました。
何となく発した言葉で、相手を傷つけたりすることもあるので、そういう言葉への意識ってとても大切だと思います。それでは改めて、映画の見どころをお願いします。
4人ひとりひとりが2時間を通してしっかり成長して、変化していきます。そんな彼らの姿を見て、みなさんにも、何か一歩踏み出す勇気を持ってもらえたらすごくうれしいなと思います。
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